275.ジャイアント・セコイアから学ぶ5: ジャック・カルティエ (2003/12/09)

フランスの探検家ジャック・カルティエは、中国を発見しようとして大西洋を渡り、セント・ローレンス川を遡って行きました。1534年のことです。


現在のモントリオール(Montreal)まで来た時、寒さで船が氷に閉ざされたためそれ以上進むことができず、冬の間塩漬けの豚肉とビスケットで生き延びようとしました。しかし、新鮮な野菜や果物がないためビタミンCが欠乏し壊血病になってしまい、何人もの隊員が死亡しました。当時は壊血病の原因が、ビタミンCの欠乏だとはまだ分かっていなかったのです。


その時、原住民(American Native)が彼らに教えたのは、松の樹皮や枝を煎じてTeaを作る方法でした。そのTeaを飲んだ隊員たちは、まもなく回復し生き残ることができたのです。


それから400年以上が経ち、フランスのボルドー大学の教授が、カルティエの冒険記を読み興味を持ちました。「松の樹皮には、ビタミンCだけではなく、もっと効果的に働くバイオフラボノイドがあるはずだ!」、とその正体の研究を仲間と始めます。


その後、PCO (Procyanidolic Oligomers)と呼ばれるようになったその成分は、松の樹皮だけでなく、ぶどうの種、レモンの木の樹皮、ピーナッツ、クランベリー、かんきつ類の果実の皮にも含まれていることが判ってきます。


教授は、松の樹皮からPCOを抽出する方法の特許を1951年に、ぶどうの種から抽出する方法の特許を1970年に取得します。その頃から、ぶどうの種から抽出されたPCOに関する研究が相次ぎ、薬理学的、臨床的解析が盛んにされるようになります。


このようにヨーロッパではフランスをはじめ各国で、ぶどうの種や松の樹皮の効用についての研究が盛んにされてきました。これらの抽出物から作った薬は、静脈瘤動脈硬化水腫アレルギー疾患の治療薬として、ヨーロッパでは実績があるそうです。


ところで、心臓疾患の発症率を欧米諸国で比べてみると、フランスだけ異常に低かったそうです。これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ、科学者の間で議論を呼ぶことになります。

274.ジャイアント・セコイアから学ぶ4: 樹皮を食べるサル (2003/12/09)

ジャイアント・セコイアの樹皮に含まれるタンニンが、樹木を病気や害虫から守り、3000年もの長い間生命を維持してきました。またタンニンは、樹木を紫外線の害から守るためにも重要な役割をしているそうです。


このように樹皮は、樹木の生命を維持する為にはなくてはならない物なのですが、この樹皮を食べる動物にとっても欠かすことのできない物なのです。


サルと言えば、動物園でバナナを食べている様子が目に浮かびますが、野生のサルがバナナを手に入れることは稀です。バナナに限らず果実や穀物の類は、そう簡単に手に入るものではありません。そこで、野生のサルは身近にある物を食べて、飢えをしのぐ必要があります。


サルは針葉樹の樹皮を常食しているらしく、サルのいる山では木々の樹皮が剥がされてしまうため枯れてしまう事があるそうです。バナナなどの果実なら、カロリーが高いため少量で済むのですが、木の樹皮は栄養分が豊富ではありませんから、大量に摂取しなければサルの体重を維持する事はできません。


結果として山の木が枯れていくのですが、同時にサルは樹皮を食べることによって、タンニンビタミンCなどの健康を維持するために必要な物質を摂取することができるのです。


このことは、サルと人の食生活の違いを考える時に参考になります。サルは必然性から樹皮を摂食することによって、様々な抗酸化作用を持つ物質を吸収し、その結果がんの発生が抑えられると言うのです。


本来野生動物が、果実や穀物を食べることができるのは、1年の内の限られた期間だった訳ですから、それ以外のシーズンはもっと栄養価の低い食事、けれどもタンニンなどの含有量の多い食事をしていたのです。ところが、農耕が発達したことによって常に栄養価の高い食事をすることになった人類は、タンニンなどの摂取が減ってしまったのです。


さて、樹皮に含まれる物質が人間にとって不可欠であると言う事は、世界の歴史の中にも裏づけがあります。

273.ジャイアント・セコイアから学ぶ3: ジョージ・オーウェル流紅茶の入れ方 (2003/12/09)

ここで、ティーブレークです。タンニンの強いお茶と言えば忘れてならないのが、かのジョージ・オーウェルです。“A Nice Cup of Tea”と言う作品の中で、11か条のおいしい紅茶の入れ方について説明しています。


英国において、アフタヌーンティーの存在は欠かすことができません。この時間を楽しむために、わざと食事の時間にはまずい物を食べるのだという噂があるほどです。英国の伝統的な紅茶の入れ方を、さらにジョージ・オーウェル流に極めたその完璧な入れ方をお試しください。


さてジョージ・オーウェルは、人間は歳を重ねるごとにより濃い紅茶を好むようになるものだと言っています。確かに、濃い紅茶を飲むと言うことはタンニンの摂取量が増えることを意味し、その抗酸化作用によって健康を保つと言うことは、特に加齢した人の健康に役立つと思われます。


また、良い紅茶は渋いものであり、その渋さを理解しなければならないと語っています。渋い紅茶をまずいと言っているうちは、紅茶の本当の味を解っていないと言うことのようです。


さて、紅茶の葉はインドセイロン(スリランカ)のものに限ると言ったそうですが、これらの国に加えて中国も紅茶の一大産地であり、物議をかもしたそうです。ただ、タンニンの強い紅茶と言うことになれば、確かにセイロン系のもののほうが当てはまるような気がしますし、中国産のものは渋みよりはコクと言いますか、色も赤いよりは黒い紅茶が多くなるように思います。


さて、紅茶を入れるポットは、当然暖めておくわけですが、お湯を入れて暖めるのではなく、暖炉の上にかざして十分に熱くしておかなければならないと言っています。つまり、お湯を入れた時に、すぐにお湯の温度が下がってはいけないと言うことです。


紅茶の葉を十分に入れ、熱く沸騰したお湯を一気にポットに注ぎます。そして紅茶の葉が十分に広がってポットの底に沈み終わった頃、暖めておいたカップに注ぐのです。


その他、ミルクの入れ方や砂糖の扱いについて細々と指示があるのですが、紅茶の渋さを本当に楽しむのなら、何も入れないのがベストであるのは言うまでもありません。


さてこれを読んだ私は、毎日のように濃い目に入れた紅茶を飲んでいました。ところがある時、濃い紅茶を飲むと便秘になると言うことに気付きました。タンニンは粘膜に対して刺激性があり、その結果便秘になることがあるらしいです。飲みすぎには気をつけたほうが良さそうです。


ジャイアント・セコイアの生命力の源であるタンニンを、ジョージ・オーウェルも勧めていたとは、偶然と言うにはあまりにも奇妙ではないでしょうか。(いや単なる偶然でしょう!)

272.ジャイアント・セコイアから学ぶ2: タンニンの効用 (2003/12/08)

さて、人間でも長寿の方の健康法には見習わなければならないことが多々ありますが、これが樹齢3000年ジャイアント・セコイアとなれば、たとえ相手が樹木であろうと長寿の秘訣を知っていて損はないでしょう。


マリポサ・グローブの森の中には、トレイルを歩く人がジャイアント・セコイアについて知識が得られるように、解説の書かれたパネルがいくつかあります。その中の一つに、「セコイアの中にも生命力の強いものと弱いものがあり、強いものだけが生き残ってきた」、と書かれていました。


確かに今もそびえるセコイアのそばに、朽ちて倒れてしまったセコイアの木がいくつもありました。そして、その解説パネルには「倒れた木を調べてみると、その樹皮に違いがあった」、と書かれていました。


木には、内部に色が濃い心材(Heart Wood)、俗に言う赤身と、周辺部の色が薄い部分(Sap Wood)、俗に言う白太(しらた)があります。

赤身の部分は、活動を止めた細胞からなり、樹脂を含み強度があります。樹木全体を支えるの役割をしています。木材として使う場合は、利用価値の高い部分です。


白太の部分は、根から吸い上げた養分を樹液として葉まで行き渡らせるための導管があり、樹脂を含まず生きた細胞によって出来ています。木材としては収縮が多く虫が食いやすいので、利用価値の低い部分です。


白太の外側には、細胞が1層だけの厚さになった形成層(Cambium)があります。まさに細胞分裂をして成長している部分です。細胞分裂によって白太や樹皮を形成していきます。


形成層の外側には樹皮(Bark)が有り、生きた細胞でできた内部樹皮(Inner Bark)と死んだ細胞でできた外部樹皮(Outter Bark)があります。


人間でも風邪を引かないように乾布摩擦皮膚の鍛錬をしたりしますね。樹木にも同じことが言えるそうです。


倒れてしまったセコイアの樹皮を調べると、倒れていないものに比べてタンニンの量が少なかったそうです。タンニンと言えばお茶に含まれる成分として良く知られていますが、タンニン樹皮の中に少ないと、病気や害虫から樹木を守ることができなくなるそうです。


樹皮がジャイアント・セコイアの生命を、2-3千年もの間守って来たのです。私たちも、これから寒い季節がやってきますが、皮膚の鍛錬でもして、タンニンの強いお茶でも飲むとしましょうか。

271.ジャイアント・セコイアから学ぶ1: マリポサ・グローブ (2003/12/08)

USに国立公園は数多くありますが、その中でも特に人気が高い所のひとつに「ヨセミテ国立公園」があります。そのヨセミテ国立公園の南側の入り口から数マイル離れたところにある「マリポサ・グローブ」に、ジャイアント・セコイアの一群があります。


ジャイアント・セコイアの木は、ヨセミテにはあと2箇所に存在していますが、本数は少ないようです。あと、ヨセミテから南へ行ったセコイア国立公園内にも、群生しているそうです。


2日前に降った雪で道路が閉鎖されていたのですが、前日に再開されて幸運にも訪れることができました。駐車場に着くと既にうっそうとした森の中です。


辺りを見渡すと、確かに巨木がそびえ立っていますが、これまでにも見かけた程度の太さの木です。しかし、駐車場から少し離れた所にある柵に囲われた木は、これまでに見たことがないものでした。


確かに太い!それだけを見るとわかりにくいのですが、回りの普通の木と比べると明らかに異質の物であることを認識させられます。例えるなら馬の足と象の足の違いのようです。また、倒れた巨木がそのまま寝ているのですが、ちょうどNASAのサターン・ロケットが横たわっているようでした。


また、根元から切り倒されて年輪がはっきり判る木がありましたが、木の中心部の年輪は幅があるため(成長が早かった)数えることができるのですが、途中からは年輪の間隔が詰まってくるため、1年分の縞模様をはっきりと区別することができなくなります。


樹齢3000年前後に及ぶとされるジャイアント・セコイアですが、カリフォルニアの一部にしか現存していないそうです。太古には地球上のあらゆるところに群生していたそうですが、消滅した理由ははっきりしていないそうです。


さて、マリポサ・グローブにあるジャイアント・セコイアの中で最も大きなものは、「グリズリー・ジャイアント」と呼ばれています。樹齢2700年。なるほど、名前から来る印象に違わない豪快な姿をしています。回りに丸太が転がっているなと思ったのですが、それは落ちてきたでした。


何度も落雷を受けて、木の中が黒く焦げています。普通落雷インパルスであるため高周波成分が多いため、電流は表皮効果により一番外側にのみ流れると言われています。


しかし、セコイアの場合は樹皮には損傷がなく、木の内部が黒く炭化していました。おそらく、樹皮は乾燥しすぎていて、電流が流れなかったようです。それだけ、樹皮は丈夫であったと言うことでしょう。


このことは、ジャイアント・セコイアの長寿と何か関係がありそうです。次回は、ジャイアント・セコイアの長寿の秘密に迫ってみましょう。