276.ジャイアント・セコイアから学ぶ6: フレンチ・パラドックス (2003/12/09)

フランス人の食生活を考えた時、頭に思い浮かぶのは次のようなものではないでしょうか?



  • オイルをたっぷり使った魚料理
  • 生クリームバターをたっぷり使った濃厚なソース
  • 脂肪の塊のようなフォアグラ
  • デザートの前に食べるたくさんのフロマージュ(チーズ)
  • こってりしたデザート

動物性脂肪の摂取量は、アメリカ人の3倍にもなるそうです。当然、コレステロールが高く、動脈硬化や心臓疾患の発症率が高くなりそうです。


ところが、フランス人の心臓疾患の発症率は、アメリカ人の3分の1だそうです。これは何か秘密がありそうだと思うのが当然でしょう。各国の研究者が「フレンチ・パラドックス」の謎の解明に取り組んでいます。


もちろん、過去のぶどうの種の研究などからワインの効果、とりわけぶどうの種や皮の成分が含まれる赤ワインが注目を浴びました。赤ワインに含まれるポリフェノールが、血管や心臓の病気を予防していると言うのです。


タンニンポリフェノールの一種ですし、ジャイアント・セコイアからの話の続きですから、ここでは赤ワインによる効果であると言うことに1票入れておきましょう。


しかし、赤ワイン以外の意見も、なかなか面白いものが並んでいます。フォアグラが、コレステロールを溶かしてしまうと言うのがあります。


フォアグラをよく食べる地域であるトゥールーズでは、どの先進諸国より心臓疾患が少ないのがその根拠ですが、そもそも彼らでさえもフォアグラは年に6回ほどしか食べず、またその代わり脳卒中の発症率が格段に高いそうです。


その他、オリーブオイルガーリックオニオンなども候補に挙がっているそうですが、それらは科学的根拠がなく、それらの生産業者の希望的な考えに過ぎないと片付けられているようです。とりあえずフランス政府は、フレンチ・パラドックスによって、フランスワインや他の製品が売れるので歓迎しているそうです。


最終的な結論が出るまでにはまだ何年もかかると思いますが、実際のところは、おいしい料理と、おいしいワインを、ゆっくり時間を掛けて楽しむフランス人の生活が、健康に一番良いのかもしれません。


さて、ジャイアント・セコイアの長寿の秘密とされているタンニンから、いろいろな話題に挑戦してきました。


マリポサ・グローブジャイアント・セコイアに出会った時、その樹齢に相応しい生命体としての威厳に感動しました。


そして、この森にいつか来たことのあるような、何か懐かしい感じがしました。またいつかこの森に戻ってくるのではないかと言う予感もありました。


ひょっとしたら、天国にもジャイアント・セコイアのような巨木がそびえているのかも知れません。いやっ、地獄にもありそうな気がします。

275.ジャイアント・セコイアから学ぶ5: ジャック・カルティエ (2003/12/09)

フランスの探検家ジャック・カルティエは、中国を発見しようとして大西洋を渡り、セント・ローレンス川を遡って行きました。1534年のことです。


現在のモントリオール(Montreal)まで来た時、寒さで船が氷に閉ざされたためそれ以上進むことができず、冬の間塩漬けの豚肉とビスケットで生き延びようとしました。しかし、新鮮な野菜や果物がないためビタミンCが欠乏し壊血病になってしまい、何人もの隊員が死亡しました。当時は壊血病の原因が、ビタミンCの欠乏だとはまだ分かっていなかったのです。


その時、原住民(American Native)が彼らに教えたのは、松の樹皮や枝を煎じてTeaを作る方法でした。そのTeaを飲んだ隊員たちは、まもなく回復し生き残ることができたのです。


それから400年以上が経ち、フランスのボルドー大学の教授が、カルティエの冒険記を読み興味を持ちました。「松の樹皮には、ビタミンCだけではなく、もっと効果的に働くバイオフラボノイドがあるはずだ!」、とその正体の研究を仲間と始めます。


その後、PCO (Procyanidolic Oligomers)と呼ばれるようになったその成分は、松の樹皮だけでなく、ぶどうの種、レモンの木の樹皮、ピーナッツ、クランベリー、かんきつ類の果実の皮にも含まれていることが判ってきます。


教授は、松の樹皮からPCOを抽出する方法の特許を1951年に、ぶどうの種から抽出する方法の特許を1970年に取得します。その頃から、ぶどうの種から抽出されたPCOに関する研究が相次ぎ、薬理学的、臨床的解析が盛んにされるようになります。


このようにヨーロッパではフランスをはじめ各国で、ぶどうの種や松の樹皮の効用についての研究が盛んにされてきました。これらの抽出物から作った薬は、静脈瘤動脈硬化水腫アレルギー疾患の治療薬として、ヨーロッパでは実績があるそうです。


ところで、心臓疾患の発症率を欧米諸国で比べてみると、フランスだけ異常に低かったそうです。これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ、科学者の間で議論を呼ぶことになります。

274.ジャイアント・セコイアから学ぶ4: 樹皮を食べるサル (2003/12/09)

ジャイアント・セコイアの樹皮に含まれるタンニンが、樹木を病気や害虫から守り、3000年もの長い間生命を維持してきました。またタンニンは、樹木を紫外線の害から守るためにも重要な役割をしているそうです。


このように樹皮は、樹木の生命を維持する為にはなくてはならない物なのですが、この樹皮を食べる動物にとっても欠かすことのできない物なのです。


サルと言えば、動物園でバナナを食べている様子が目に浮かびますが、野生のサルがバナナを手に入れることは稀です。バナナに限らず果実や穀物の類は、そう簡単に手に入るものではありません。そこで、野生のサルは身近にある物を食べて、飢えをしのぐ必要があります。


サルは針葉樹の樹皮を常食しているらしく、サルのいる山では木々の樹皮が剥がされてしまうため枯れてしまう事があるそうです。バナナなどの果実なら、カロリーが高いため少量で済むのですが、木の樹皮は栄養分が豊富ではありませんから、大量に摂取しなければサルの体重を維持する事はできません。


結果として山の木が枯れていくのですが、同時にサルは樹皮を食べることによって、タンニンビタミンCなどの健康を維持するために必要な物質を摂取することができるのです。


このことは、サルと人の食生活の違いを考える時に参考になります。サルは必然性から樹皮を摂食することによって、様々な抗酸化作用を持つ物質を吸収し、その結果がんの発生が抑えられると言うのです。


本来野生動物が、果実や穀物を食べることができるのは、1年の内の限られた期間だった訳ですから、それ以外のシーズンはもっと栄養価の低い食事、けれどもタンニンなどの含有量の多い食事をしていたのです。ところが、農耕が発達したことによって常に栄養価の高い食事をすることになった人類は、タンニンなどの摂取が減ってしまったのです。


さて、樹皮に含まれる物質が人間にとって不可欠であると言う事は、世界の歴史の中にも裏づけがあります。

273.ジャイアント・セコイアから学ぶ3: ジョージ・オーウェル流紅茶の入れ方 (2003/12/09)

ここで、ティーブレークです。タンニンの強いお茶と言えば忘れてならないのが、かのジョージ・オーウェルです。“A Nice Cup of Tea”と言う作品の中で、11か条のおいしい紅茶の入れ方について説明しています。


英国において、アフタヌーンティーの存在は欠かすことができません。この時間を楽しむために、わざと食事の時間にはまずい物を食べるのだという噂があるほどです。英国の伝統的な紅茶の入れ方を、さらにジョージ・オーウェル流に極めたその完璧な入れ方をお試しください。


さてジョージ・オーウェルは、人間は歳を重ねるごとにより濃い紅茶を好むようになるものだと言っています。確かに、濃い紅茶を飲むと言うことはタンニンの摂取量が増えることを意味し、その抗酸化作用によって健康を保つと言うことは、特に加齢した人の健康に役立つと思われます。


また、良い紅茶は渋いものであり、その渋さを理解しなければならないと語っています。渋い紅茶をまずいと言っているうちは、紅茶の本当の味を解っていないと言うことのようです。


さて、紅茶の葉はインドセイロン(スリランカ)のものに限ると言ったそうですが、これらの国に加えて中国も紅茶の一大産地であり、物議をかもしたそうです。ただ、タンニンの強い紅茶と言うことになれば、確かにセイロン系のもののほうが当てはまるような気がしますし、中国産のものは渋みよりはコクと言いますか、色も赤いよりは黒い紅茶が多くなるように思います。


さて、紅茶を入れるポットは、当然暖めておくわけですが、お湯を入れて暖めるのではなく、暖炉の上にかざして十分に熱くしておかなければならないと言っています。つまり、お湯を入れた時に、すぐにお湯の温度が下がってはいけないと言うことです。


紅茶の葉を十分に入れ、熱く沸騰したお湯を一気にポットに注ぎます。そして紅茶の葉が十分に広がってポットの底に沈み終わった頃、暖めておいたカップに注ぐのです。


その他、ミルクの入れ方や砂糖の扱いについて細々と指示があるのですが、紅茶の渋さを本当に楽しむのなら、何も入れないのがベストであるのは言うまでもありません。


さてこれを読んだ私は、毎日のように濃い目に入れた紅茶を飲んでいました。ところがある時、濃い紅茶を飲むと便秘になると言うことに気付きました。タンニンは粘膜に対して刺激性があり、その結果便秘になることがあるらしいです。飲みすぎには気をつけたほうが良さそうです。


ジャイアント・セコイアの生命力の源であるタンニンを、ジョージ・オーウェルも勧めていたとは、偶然と言うにはあまりにも奇妙ではないでしょうか。(いや単なる偶然でしょう!)