639.”You are what you ate.” (2007/04/29)

今朝、今年中学一年生になった息子と駅まで歩いていた時、こんな話をしました。


息子 「よく野菜を食べないと体に良くないと言われるけど、ライオンばかり食べて野菜を食べないのに、どうして健康なのか分かる?」

おやじ 「わからんな。ゼーゼー!」(歩き急いで息が切れている。)

息子 「ライオンが食べる草食動物がいつも草を食べていて、ライオンはその肉を食べているので、野菜の栄養を草食動物の肉から取っているんだよ。」

そう言えば、時々クレジットカード会社から送られてくる雑誌の最新号に、おもしろいサイエンス・コラムがありました。タイトルは、


"You are what you ate."


西洋の古い諺だそうです。北海道大学南川教授が研究されている「同位体地球化学」についての記事でした。その科学考古学とも呼ばれている学問は、化石などを組成する原子の同位体を調べることによって、外観からだけでは分からない環境の変化などを調査しようとするものです。


例えば、古墳遺跡を調査した結果、イノシシ食用にしていた時代があったことが分かったとします。しかし、そのイノシシが狩猟されたものか、あるいは家畜として飼育されたものかによって、当時の生活を知る上で大きな違いが生じてきます。家畜であった場合は、狩猟の場合に較べて食料の確保がより安定するでしょうから、同じ場所に長い期間居住することが出来るため、組織的な社会が発達していた可能性が高くなります。


しかし、出土したイノシシの骨を眺めていただけでは、食用にしていたことまでは分かったとしても、野生のイノシシであったか家畜であったかは分かりません。


炭素原子には、質量が12のものと13のものがあり、通常植物はどちらも区別することなく光合成に利用するそうです(C3型植物)。ところが、光合成をする植物のなかでヒエアワなどの穀物類(C4型植物)は、質量13の炭素原子をより多く光合成に使うそうで、その結果穀物を多く摂取したイノシシの骨には、質量13の炭素が通常より多く含まれることになるそうです。


この事により、これまで家畜としての飼育の証拠がはっきりしているのは、弥生時代(約2千年前)以降とされてきたそうですが、沖縄地方で縄文後期に出土するイノシシの骨から抽出された炭素原子の同位体の解析から、それらが家畜として飼育されていたことが分かってきたそうです。


同様に、古代人の骨の炭素同位体を観測することによって、農耕が始まった時期を推測することが出来るそうです。気候の寒冷化はC4植物の繁殖を促すため、人類が穀物の栽培を始めた時期と寒冷化の時期が一致する事が予想できるそうです。


なるほど、確かに "You are what you ate." ですね。


そう言えば、中学のころ理科で人体を構成する元素を覚えたことがありました。テストに出題されると思っていたので、自分なりの覚え方を考えて必至に覚えたことを思い出しました。今でも覚えているのは、


酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、カルシウム(Ca)、窒素(N)、リン(P)、塩素(Cl)、硫黄(S)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、フッ素(F)、鉄(Fe)


あと2つ元素があったのですが、さすがに思い出せません。体内に占める割合の高い順に覚えていたのですが、今インターネットで調べると順番が違っているようです。記憶がいい加減なのか、昔の理科の教科書が間違っていたのか、はたまた人体を構成する元素の割合が30年以上立つと変わってしまったのか分かりません。(たぶん記憶がいい加減!)


はじめの話に戻りますが、確かに元素と言う観点から見れば、ライオンの体を構成している元素には、草食動物が食べていた草を構成していた元素が含まれているはずでしょう。もしその草食動物がほとんど草しか食べていなかったとすると、ライオンの体は、ほとんど草を構成している元素からなっていると予想できます。


ただ、だからと言って、私たちが肉を食べれば、野菜を食べたのと同じであるとは言えません。食物を構成する元素は同じだとしても、物質が異なっているからです。


例えば、草に含まれるビタミンCが、同じだけ肉にもあるとは言えないでしょうし、一口にアミノ酸と言っても、その種類によって異なった作用を人体に与えるでしょう。


"You are what you ate."

されど


"What I eat are not what my foods ate." (何のこっちゃ!)

607.「ゲノムひろば2006」のご紹介 (2006/10/28)

商用化に適した宇宙船をいち早く実用化したものに賞金を与えるとして、世界中の注目を集めた米カリフォルニア州の非営利教育機関「X賞財団」が、新たに10日間で100人の遺伝子を完全に解読したチームに、1000万ドルを与 えるという賞金レースを始めたそうです。


日経ビジネス10月23日号が"The Wall Street Journal"の記事を紹介するところによると、解読される遺伝子の提供者として、グーグルやマイクロソフトの創業者が名を連ねているそうです。


ヒトゲノムの解読計画は2001年に第一段階が終了し、平均的とされるな匿名のDNAドナーが解読されています。DNA情報を解読する事によって、どの薬を飲むべきか、どの病気にかかる危険性が高いかをあらかじめ知ることができ、また新しい病気の治療方法を探す事ができると期待されています。


DNA配列の解析にかかる費用は、近年急激に下がってきているそうですが、
基本的な手法である「サンガー法」は20年来変わっておらず、まだ誰もがその恩恵にあずかれるほど手軽に行うことはできません。今回のX賞を獲得する為には、まったく新しい解析方法を開発しなければならないと予想されています。


5年以内には実現可能だと考えているそうですが、最終的には人のDNA解析にかかるコストを1000ドル程度まで下げようとしているそうです。今私たちが医療機関で受けている検査と同じ手軽さで、DNA解析が可能になる日も近いかも知れません。


さて、そこで「ゲノムひろば2006」のご紹介です。先日から当サイトのトップページにリンクを掲載させていただいておりますが、11月に東京と京都で、生命科学分野の最新の研究テーマを一般の方々に公開するための「ゲノムひろば2006」が開催されます。


当サイトでは、2003年に「244.ゲノムひろば (2003/11/05)」「247.ゲノム三題1: ゲノムとDNA (2003/11/09)」で紹介させていただきました。


「ゲノムひろば2006」では、さらに進化したゲノム解析の最前線情報が満載です。国内の最先端の研究者がこぞって参加されておられますから、きっと面白いテーマが見つかるに違いありません。ひょっとしたら、その中から1000万ドルの賞金レースを射止める研究テーマが出てくるかも知れません。


特に今年は、コンピューターサイエンス(計算機数学)を応用した、バイオインフォマティクス分野での成果が面白そうです。


東京は11月4日・5日に丸ビルで、京都は11月18日・19日に京都大学で開催されます。少しでもご興味をお持ちの方には、きっと新たな発見があるのではないかと思います。ぜひお立ち寄りください。

461.温暖化が氷河期を招く? (2005/01/19)

日経サイエンスの2005年2月号に、「温暖化が氷河期を招く 海洋大循環が止まるとき」と言う記事が掲載されています。地球の温暖化のメカニズムには解らない部分が多く、温暖化によって逆に氷河期が訪れる時期を早めることもありうるとしています。


映画「デイ・アフター・トモロー」の中で、氷に凍てついた自由の女神が登場したのを覚えておられる方もいらっしゃると思いますが、なぜ温暖化で騒いでいるのに氷で閉ざされるのか、誰でも疑問を持つと思います。


今、世界中で地球の温暖化が議論され、温室効果を持つ二酸化炭素の国ごとの排出量に規制を掛けようとしています。この大気中の二酸化炭素の増加による地球の温暖化は、緩やかな変化によって徐々に温暖化へ向かうと考えられています。


グリーンランドに堆積している厚い氷を調べることによって、11万年もの間の地球の気温や大気の変化を知ることができるそうです。樹の年輪と同じように、1年ごとに堆積した氷に刻み込まれた記録を辿っていくと、意外な事実が判明したそうです。


数百年から数千年のサイクルを持つ氷河期には、平均気温が20℃下がっていたそうですが、その半分の10℃下がるのに、たった6年ほどしかかかっていない時期があったそうです。


つまり過去の地球では、想像よりはるかに急峻な平均気温の変化があったと言うことになります。なぜ平均気温がそれ程急激に変化することがあるのか?これには水面に浮かぶカヌーを例えとして、説明がされています。


カヌーを左右に小さく揺らしてもすぐに元に戻ろうとしますから、正常な状態なら大きく傾くことはありません。しかし、大きく傾いた状態で同じ小さな揺れが来たら、そのまま転覆するかも知れません。そしてどちらに転覆するかは、加えられた小さな揺れと同じ向きだとは限らないのです。


今緩やかに進行している地球の温暖化によって、氷河期が突如として襲来する可能性があると警告しています。


地球の気象は海流によって大きく影響を受けます。海底から湧き上がる塩分の多い海水が陸地に近づくと、川から来る真水によってさらに軽くなり、大きな対流となっていきます。地球の自転さえも揺すぶるほどの大きな流れが、地球の気象をいとも簡単に変化させてしまうそうです。


バイキングたちが造った住居跡がグリーンランドに残されているそうですが、突然の氷河期の訪れによって生活ができなくなったため、移住を余儀なくされたと考えられているそうです。また古代文明の遺跡の中にも、急激な気温の変化によって滅びたとする説が有力になっている所があるそうです。


近年台風や竜巻など、日本でも気象が激しくなってきている事を実感しますが、地球規模で気象がどのように変化しているかを解析するのは、大変難しいことのようです。


地球シミュレーターなどの科学分野がさらなる発展を遂げ、現在の温暖化が地球全体にどのような変化を及ぼすのか、解る日が来ることを期待します。

448.地震で傾いた地球 (2004/12/30)

インドネシアで発生した地震の解析が明らかになるにつれて、その発生規模の巨大さにあらためて驚かされます。被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。今後の一日でも早い復興を願うばかりです。


阪神大震災の1600倍のエネルギーが放出されたと言っても、あまりにも違いが大きすぎて比較しにくいのですが、断層の大きさやズレた量を聞いただけでも、とてつもない規模の地震であったことが判ります。


CNN.comのSCIENCE&SPACE欄に12月29日付で、今回の地震によって地球の回転が加速され、これからずっと地球の1日の時間はほんの少しずつ短くなり、さらに地軸に揺れをもたらしたというニュースが掲載されています。


USカリフォルニアのNASAジェット推進研究所の地球物理学者が発表したところによると、地震によって地球の質量が中心に向かってシフトしたため、地球の1回の自転が3マイクロ秒早くなり、地軸を1インチ傾けた事になるそうです。


ただ、地球は通常公転する際に33フィート程のズレを伴って回転するため、1インチの変動そのものの影響は大きくないそうです。ただこの回転速度の変化が蓄積すれば、年末の最後の秒を飛ばす必要が出るであろうとのことです。


地球上の潮流や地下水の変化によって自転は常に変動しており、それ程正確な回転をしているわけではないそうです。また、変動があっても正確な原因が分からないことが多いそうです。今回の地震による自転速度の上昇は、原因がはっきりしている数少ない例になったようです。


ところで、同じくCNN.comに、今回の津波の被害で動物が犠牲になった例がほとんどないことが取り上げられていました。動物が津波を予知して、安全な場所に逃げたのではないかと言われているそうです。


津波予報システムが、日本を含め環太平洋に張り巡らされていると言っても、地震が起こってから津波を予想するのですから、地震発生から津波到達までが10分と言われている日本近海の海洋性地震では、避難に十分な時間が確保できません。


正確に津波を予想できて、地震発生から直ちに対象地域の住民に広報することが技術的に可能だとしても、その時には既に逃げ遅れていると言える場合も多いのではないでしょうか?


動物の予知能力を真剣に研究することが、今必要なのかも知れません。

437.小惑星 2004MN4 (2004/12/24)

asahi.comに、25年後に小惑星が地球に衝突するかもしれない、と言うニュースが掲載されています。


確率は300分の1だそうです。衝突の危険度が初めて「2」と格付けされたのが不気味です。大きさは400メートルとされていますが、陸に落ちても海に落ちても大都市はかなりのダメージを受けるようです。


都市が壊滅するとさえ書かれていますが、衝突の可能性があるとされる2029年4月13日というのも、何か因縁のありそうな日付です。


不安になった方はNASAのサイトに行けば、この小惑星と地球が2029年にどのように近づいていくかをシミュレートすることができるページがあります。


"Near Earth Object Program"には、最近地球に近づいた小惑星のリストがあり、“2004MN4”を選ぶと惑星の軌道を画面上に示すことができます。なるほどこの小惑星は、地球と金星の軌道に交差しながら太陽の周りを回っていますから、いつかは衝突するのではないかと思えてきます。


最近の最接近は3日前の12月21日で、地球と太陽の距離の0.0964倍まで接近したらしいです。と言われても良く解りませんね。


試しに衝突するかもしれないと言われる2029年4月13日をシミュレートしてみると、最接近する時の距離は地球と太陽の距離の0.0985倍だとの事。なんと3日前の方が近いではないですか!


お互いの軌道が水平に角度を持ちながら交差しているため、例え距離が近づいたとしても、軌道が交差しない限り衝突することはなさそうです。ただし、それぞれの軌道が2箇所で交差しているために、この2つのポイントを同時に地球と小惑星が通過する場合に、衝突の可能性がでてくるようです。


実際の正確な軌道の計算には、もうしばらく時間がかかるそうです。相対速度8.23Km/sではピンときませんが、時速に直せば3万キロメートルになりますから、さすがに衝撃の大きさは凄まじいものがありそうです。


また新たな世紀末ストーリーが生まれるかも知れません。