280.クリスマスツリー (2003/12/13)

クリスマスが近づいてきました。街角に溢れるばかりのクリスマスの飾り付けが、美しく輝く季節になって参りました。デパートはクリスマスプレゼントを買いに来るお客さんで賑わっています。


また最近では都会だけでなく住宅街でもクリスマスイルミネーションが輝く所が増えてきました。家の中に飾っているクリスマスツリーでは物足りないと見えて、屋外の庭木や植え込みの中に、そりを引くトナカイがいたりサンタクロースが立っていたりして賑やかになってきました。


クリスマスツリーも、大小さまざまなものが売られています。昔のお茶の間には似合わなかったのですが、最近のリビングルームにはクリスマスツリーが似合います。生活様式も変化がこのようなところにも表れています。


もみの木がツリーとしては知名度が高いですが、プラスチック製で売られているものは杉や松の類が多いようです。特にアメリカ北部原産の木がよく使われます。USではクリスマスのシーズンが近づくと、ガソリンスタンドやホームセンターで生の木が売られています。生の木は日本で言えば七夕の笹の感覚で、木の香りがあり部屋いっぱいに広がり人気があるようです。


ところで、クリスマスツリーはなぜアメリカ原産の木が使われるのでしょうか?


カナダトロントに、マッケンジーハウスと言う史跡があります。昔オンタリオ州の知事だった人の家が、見学できるようになっています。1987年の暮れにそこを訪れたとき、クリスマスの装いが施された建物の中を見ることが出来ました。


中で案内をしてくれるのは当時の衣装に身を包んだ男の人で、本当に昔の人のような雰囲気を醸し出しています。当時の風習クリスマスディナーのメニューについて詳細に説明をしてくれます。ダイニングには、そのメニューが蝋細工を使ってディスプレーされています。


地下にはキッチンがあり、これまた当時の装いのかわいく若い女性の方が、本当に昔の雰囲気そのままにたたずんでいて、昔のレシピで作ったクッキーと暖かいアップルサイダーをご馳走してくれました。窓際には、砂糖が三角錐型に固められたシュガーケーンがあり、削りながら使用していた様子が伺えます。


ところでクリスマスの飾り付けがされているのに、クリスマスツリーがありません。なぜツリーがないのかと尋ねてみました。


「なぜこの家には、これほどきれいにクリスマスの飾り付けがされているのに、ツリーが一つもないのですか?」


「実はクリスマスツリーが今のような形になったのは、もっと後のことなのです。クリスマスツリーの原型と言われているのはこれです。」


と指さされたのは、クリスマスリースのようなものでした。ただ、それはドアに掛けられているのでなく、丸い円盤のように天井からぶら下がっていました。


聞くところによると、クリスマスツリーの原型はこのようなリースの形をしていて、ドイツが発祥の地だそうです。


クリスマスと言えばツリーという先入観がありましたが、その原型がリースにあると言うことを初めて知ったのでした。


カナダ国内にあるこのような史跡では、どこへ行っても丁寧な説明を受けることができ、訪れた人に歴史を正確に伝えようとする姿勢が伺えます。比較的短い歴史ではあっても、過去に起こったことを事実として認識する重要性を理解しているように思います。


逆に日本は歴史が長いからか、過去に起こった事柄であってもそれをどのように解釈するかと言うところに視点が行き、歴史的背景にこだわる傾向があるように思います。


その結果、時が経つとともにどんどん事実関係の把握が困難になり、歴史が歪められて解釈されていくのです。まず事実を正しく把握し、それとは別の次元で考察を行わなければならないと思います。

279.戦闘機 vs. フェラーリ (2003/12/12)

この手の競争は、どちらが勝っても負けても面白い物です。特にフェラーリユーロファイターイタリアが世界に誇る技術を駆使したものですから、どちらが勝ってもイタリアの宣伝効果があるようです。


今回のレースの結果は、ニュースによって少しずつ異なっていますが、当のフェラーリのサイトを参照すると次のようになります。



  • 1回目は600メートルで競われ、フェラーリが9.4秒で勝ち、ユーロファイターは9.6秒でした。フェラーリの最高速度は294Km/hでした。
  • 2回目は1200メートルで競われ、ユーロファイターが14.2秒で勝ち、フェラーリは16.7秒でした。フェラーリの速度は308Km/hに達しました。
  • 3回目は900メートルで競われ、ユーロファイターが10分の2秒差13.0秒で、13.2秒のフェラーリに勝ちました。濡れた路面でグリップが十分でないながらフェラーリは305Km/hのトップスピードでした。
  • 1931年に行われた飛行機と自動車の初めてのレースでは、タイガー・モスアルファロメオ 8C 2300で連続した4回のラップタイムで競われ、アルファロメオが3回連続で勝った後、1秒のアドバンテージをもらったタイガー・モスが4回目でやっと勝つことができました。アルファロメオの最高速度は185Km/hでした。

以前話題にした、「江夏投手の球と新幹線のどちらが速いか」ではないですが、全く普段は比べることのない物同士を競わせるのは面白いものです。


1931年に行われたレースでは、自動車に飛行機がなかなか勝てなかったというのが面白いと思います。1931年と言えば、昭和6年のことです。その当時、自動車で185Km/hの速度を出したと言うことは驚異的です。


航空機は、その後ジェットエンジンと言う画期的な発明があり、飛躍的に速度が向上しました。自動車も技術は大きく進歩してはいますが、タイヤと路面の接地部分での限界によって、飛躍的な速度の向上を阻害しているようです。


鉄道もレールと車輪の限界を超えるべく、リニアモーターカーに挑戦し続けていますが、原理的には可能でも採算ベースで実用化するとなると、まだいくつかのハードルを越えなければならないようです。


いずれにしてもイタリアの誇るF1マシンと最新戦闘機、技術もさることながらイタルデザインのすばらしさには脱帽です。

278.窮地に立つ日本の宇宙開発 (2003/12/11)

asahi.comに、“「のぞみ」断念で「全員が再出発必要」宇宙開発委が苦言”、と言う記事が掲載されています。日本の宇宙開発における最近の事故多発を受けて、「これらの失敗の直接原因だけでなく、(組織のあり方も含めた)踏み込んだ原因の調査と対策が必要だ」、との宇宙開発委員長の言葉があったようです。


事故が起こる度に新聞や雑誌を見ていますと、組織的な問題点人事考課制度の問題点を指摘している記事が多いようです。精神論でロケットが飛ばせるうちはそれだけで解決するかもしれませんが、複雑なシステムになるロケットや人工衛星の場合は、もう少し科学的なアプローチが必要になるのではないでしょうか?


委員長の言葉にもあるように、失敗の直接原因の究明は当然ではありますが、それでは同じ原因による事故は無くすことができたとしても、似たような原因はごまんとありますから、いつまで経ってもシステム全体の信頼性は向上しないのではないかと思います。


最近の大規模なLSIでは、数億個にも及ぶトランジスターが相互に接続されていますが、単純な論理の変更・修正によっても、思わぬところで正しい機能を損なうコード(バグ)を作り込んでしまう危険性があります。複雑さがあるレベルを超えると、精神論では解決できない領域に入ってしまうのです。


そこでLSIの設計現場では、フォーマル・ベリフィケーションと言う手法が取り入れられています。変更・修正が正しく行われたかどうかを、システム的にモデル解析を行って検証するのです。この検証作業を行うことによって設計のエラーを検出することができ、実際のハードウェアでトラブルが起こることを未然に防ぐことができるのです。

実はこのフォーマル・ベリフィケーションは、NASAのLangley Research Centerが開発した手法なのです。


1970年代後半航空宇宙分野でのシステムの信頼性を向上するために、NASAではSIFTと呼ばれたプロジェクトを立ち上げました。SIFTとは、Software Implemented Fault Toleranceの略で、ヒューマン・エラーがあっても正常に機能する航空宇宙分野のオペレーティング・システムの開発を目指したものでした。


このプロジェクトは結局成功しないまま終了するのですが、その成果は1988年VIPERというプロセッサーを航空宇宙分野で採用する時に応用されました。人間の手によっては到底できない未曾有のレベルのアナリシスをシステマティックに行い、このプロセッサーの不完全さを取り除いて行ったのです。


その後、様々な検証作業にフォーマル・ベリフィケーションが採用され、スペースシャトルGPSの検証にも使われたのです。この過程でハードウェアモデルの検証のみならず、ソフトウェアモデルの検証にも使われるようになってきます。


1990年代には、NASA航空機制御システムの改良に採用されます。また、初期のペンティアム・プロセッサーバグが発見されたことをきっかけにして、フォーマル・ベリフィケーションはLSIメーカーの間で広まって行きます。


2000年からの10年間で、致命的な航空機事故の80%を削減する計画が進んでおり、航空システムを安全にするためにフォーマル・ベリフィケーションは欠かせないものになっています。


さて、LSI一つでさえも人手では検証できないぐらい複雑になって来ています。ましてやH-IIAロケットになると部品の数は28万点にも上ると言われています。どの一つの部品を取っても、設計・製造・組み立てのミスは致命的になります。これは組織を変えたら解決したりするほど簡単な事ではないのは明らかです。


日本には優れた工業技術がありますが、それに頼り過ぎると同じ程度の信頼性しか得られない可能性があります。


よく工業製品で信頼性の高いものを表す時、99.999%などと言う数字が出てきますが、これは0.001%の欠陥率、すなわち10万個に一つしか欠陥品がないと言うことです。1000個の部品を使う製品があれば欠陥率の合計は1%ですから、100個の製品のうち1つが不良品となる程度です。


しかし、同じ信頼性の部品を28万個集めると280%となってしまいます。単純な掛け算が正確ではないとしても、99.999%の部品を使っていてはロケットは作れないと言うことが解ります。これまでの工業製品の限界を超えるための技術的なブレークスルーが必要になってきます。


これまでの事故の教訓を十分に生かし、信頼性を飛躍的に改善して行かなければ、日本の宇宙開発に明日はないでしょう。「科学無き者の最後」にならないように、あらゆる英知を結集する事が今求められているのです。

277.ウッドコーンスピーカーを試聴する (2003/12/11)

「209.木の温もり」の雑記で、ビクターから発売される木で作られたスピーカーの話を紹介しましたが、昨日梅田のヨドバシカメラで試聴して参りました。製品を紹介しておきながらそのままになっていたので気にはなっていたのですが、素人の試聴レポートで参考にはなりませんが少し書かせていただきたいと思います。


EX-A1と名づけられたその製品は、DVDプレーヤー(DVD内蔵コンパクトコンポーネントシステム)として販売されており、ウッドコーンスピーカーはこの製品にセットとしてのみ販売されています。


売り場では、バイオリニストの高嶋ちさ子さんのプロモーションDVDが用意されていましたが、さすがにバイオリンの音が再生された時は、目を見張る、いや耳を疑う(それも違う!)、とにかく如何にもバイオリンがすぐそこで鳴っているような感じがしました。


強いて言うならば、木のきしむ音がするとでも言いましょうか。悪い意味ではありません。電気的に再生された音ではなく、木が本来の音源としての鳴り方をしていると言った感じなのです。


バイオリンと言う楽器は不思議な楽器で、主音に対してより強い倍音(高調波)が発生します。この倍音がバイオリンの音色を決定付けている訳ですが、これまでのスピーカーよりこの倍音の再現に優れているのではないかと思いました。


ただ、人の声などの再生では、スピーカーから離れると急に音圧が下がるように感じました。つまり、音のパワーが弱いのです。あと音の定位が安定しないと言いますか、聞く位置によって音源の位置が移動しているように感じました。


この製品に採用されているスピーカーは8センチの口径のものですが、木の薄板をプレスする工程を見るとあまり大きい口径を作るのは難しそうです。トールボーイタイプの製品が試作されているようですが、スコーカーツィーターだけにウッドコーンを採用したものも期待できそうです。


なんせ周りがうるさい売り場で聴いただけですから、静かな環境だとまた違った印象になったかもしれません。もし興味をお持ちの方は、是非ご自分の耳でお確かめになることをお勧めいたします。


ビクターと言えば、昔からソフトドーム・スピーカーを開発したり、独クルトミューラー社のコーンを採用したり、スピーカーの素材にこだわりを持ったオーディオメーカーです。今回のウッドコーンスピーカーも改良を重ね、名機と言われるようになっていく事を期待しています。

276.ジャイアント・セコイアから学ぶ6: フレンチ・パラドックス (2003/12/09)

フランス人の食生活を考えた時、頭に思い浮かぶのは次のようなものではないでしょうか?



  • オイルをたっぷり使った魚料理
  • 生クリームバターをたっぷり使った濃厚なソース
  • 脂肪の塊のようなフォアグラ
  • デザートの前に食べるたくさんのフロマージュ(チーズ)
  • こってりしたデザート

動物性脂肪の摂取量は、アメリカ人の3倍にもなるそうです。当然、コレステロールが高く、動脈硬化や心臓疾患の発症率が高くなりそうです。


ところが、フランス人の心臓疾患の発症率は、アメリカ人の3分の1だそうです。これは何か秘密がありそうだと思うのが当然でしょう。各国の研究者が「フレンチ・パラドックス」の謎の解明に取り組んでいます。


もちろん、過去のぶどうの種の研究などからワインの効果、とりわけぶどうの種や皮の成分が含まれる赤ワインが注目を浴びました。赤ワインに含まれるポリフェノールが、血管や心臓の病気を予防していると言うのです。


タンニンポリフェノールの一種ですし、ジャイアント・セコイアからの話の続きですから、ここでは赤ワインによる効果であると言うことに1票入れておきましょう。


しかし、赤ワイン以外の意見も、なかなか面白いものが並んでいます。フォアグラが、コレステロールを溶かしてしまうと言うのがあります。


フォアグラをよく食べる地域であるトゥールーズでは、どの先進諸国より心臓疾患が少ないのがその根拠ですが、そもそも彼らでさえもフォアグラは年に6回ほどしか食べず、またその代わり脳卒中の発症率が格段に高いそうです。


その他、オリーブオイルガーリックオニオンなども候補に挙がっているそうですが、それらは科学的根拠がなく、それらの生産業者の希望的な考えに過ぎないと片付けられているようです。とりあえずフランス政府は、フレンチ・パラドックスによって、フランスワインや他の製品が売れるので歓迎しているそうです。


最終的な結論が出るまでにはまだ何年もかかると思いますが、実際のところは、おいしい料理と、おいしいワインを、ゆっくり時間を掛けて楽しむフランス人の生活が、健康に一番良いのかもしれません。


さて、ジャイアント・セコイアの長寿の秘密とされているタンニンから、いろいろな話題に挑戦してきました。


マリポサ・グローブジャイアント・セコイアに出会った時、その樹齢に相応しい生命体としての威厳に感動しました。


そして、この森にいつか来たことのあるような、何か懐かしい感じがしました。またいつかこの森に戻ってくるのではないかと言う予感もありました。


ひょっとしたら、天国にもジャイアント・セコイアのような巨木がそびえているのかも知れません。いやっ、地獄にもありそうな気がします。