507.「ドアが閉まります」から「ドアを閉めます」に変わった時 (2005/05/26)

もう2、3年前になるでしょうか、JRの大阪近郊を走る電車で、車両のドアが閉まる時の車掌のアナウンスが変化した時がありました。


それまでは「ドアが閉まります」であったのが、「ドアを閉めます」になったのです。車掌のアナウンスに限らず、駅の構内アナウンスでもほとんど同時に変わっていったように思います。


聞きなれた言葉が急に変わると違和感があるものです。それと同時に、以前より少し厳しい言い方であるように感じました。「なんとなく閉まってくるドア」から「意思を持って閉まって来るドア」に変わったのです。


例えば京浜急行電鉄では、以前から「ドアを閉めます」を使っているようですが、確かに他の鉄道会社に比べて、駆け込み乗車をしてドアに挟まった乗客に対して厳しいように思います。


また、「JRでは定時運行に努めております。駅でのスムーズな乗り降りにご協力ください。」という決まり文句も、この頃から始まったように思います。


当時は、年に数回のダイヤ改正の度に速度の向上が図られ、新快速の新型車両によって130Kmの高速運転が始まった頃でした。主要な駅間に要する時間が、新しいダイヤが発表されるごとに短縮されていきました。


おそらく高速運転だけでは新ダイヤを実現するには十分でなく、停車駅での乗降時間も削られていったものと思われます。


インターネットで調べてみると、日経ベンチャーのサイトに“「駆け込み乗車」という習性につける薬はあるか”と記事がありました。


その記事によると、どうも「ドアを閉めます」と言い出したのは、JR宝塚線宝塚駅2001年8月に始めたのが最初であるとされています。宝塚駅が、今回の事故を起こした列車の始発駅であったことは、単なる偶然ではないかもしれません。


JR宝塚線の事故から1ヶ月が経ちましたが、停車駅での乗降時間を短縮したことが、列車の定常的な遅れの原因であるとされています。


JR西日本は、「ドアを閉めます」、「定時運転に努めております」を連呼するようになる以前のダイヤに、戻す必要があるのかもしれません。

506.LifeDriveから始まる新しいPDAの時代 (2005/05/24)

企業の顧客情報が漏洩したというニュースが、後を立ちません。インターネットのサイトが不正にアクセスされたり、ノートパソコンを盗まれたという類の事件は、日常茶飯事になってしまいました。


サーバーが狙われた場合は、サーバーシステムのセキュリティーを強化することになりますが、ノートパソコンを盗まれた場合は、所有者に管理の徹底を促すしかありません。


このノートパソコンの管理と言うのが意外と厄介なのです。第一常に身につけておくには大き過ぎます。また、パスワードをかけろと言われても、ディスクを取り出して他のパソコンにつなげばデータが読めるのでは、意味がありません。


本体やディスクにそれぞれパスワードをかけることができ、ディスクを取り出しても他のパソコンではアクセスできない製品もあるようですが、それでも全てのパスワードをかけていないケースが多い現状では、完全にノートパソコンからの情報の漏洩を防ぐのはそう簡単なことではなさそうです。


その対策として、ステートレス・デバイスディスクレス・パソコンを開発したパソコンメーカーもあります。鳥取県がディスクのないパソコンを一斉に導入しようとしているのも、ディスクが付いたままのノートパソコンでは、いつまで経っても情報の漏洩を防ぐことができないと判断したからでしょう。


個人情報保護法が施行されたこともあり、組織として個人情報の管理を徹底しておくことが必要であるという認識が、広まってきているのでしょう。


一方、PalmOneがこの度発表した新製品LifeDriveは、PDAでありながら4GBのディスクを内蔵しています。ディスク内蔵で先行するザウルスと共に、今後のPDAのあり方を問うているように見えます。


情報の漏洩の原因になりかねないとハード・ディスクを、パソコンから外し始めたノートパソコンと、そのディスクを逆に内蔵し始めたPDA。これらの流れが同時に起こっているのは、単なる偶然でしょうか?


ノートパソコンが移動中にどこかに置き去りにされがちなのは、常に身に着けておくには大き過ぎ、重た過ぎるのが理由だと思われます。それに比べ、PDAは圧倒的に小さくて軽いですから、どんな時でも身に付けておく事ができます。


つまり、重要なデータが入ったディスクを、盗難の可能性が高いノートパソコンに内蔵することをやめ、常に身に付けることのでき安全なPDAに装備するようになってきたと言うことではないでしょうか。


機長さんが5月18日のProject Palmの中で、


「本当の意味でポケットに入るノートパソコン代理」

と言われている通り、PDAがノートパソコンに取って代わる日が近づいているのかも知れません。ノートパソコンが、さらなるダウンサイジング化を始めたのではないでしょうか?


ハードウェア的には、これまでのハンドヘルドハード・ディスクを追加しただけに見えるLifeDrive戦略が、見えてきたような気がします。


その目指すところは、ダウンサイジングをもう一歩進め、これまでのIT機器の主役であったノートパソコンに取って代わることにあったのです。さらに、ただダウンサイジングするに留まらず、これまでのノートパソコンにはなかったエンターテインメントをも包含する可能性さえも示しているのです。


そう考えると、handheldsではなくmobile managerでなければならない意味が理解できますし、LifeDriveとはまさに、生活(人生)の全てをこれひとつで操る、究極のIT機器を狙った戦略製品であることが見えてくるのです。


これまで、携帯電話とノートパソコンに挟み撃ちされていたPDAが、IP電話によって携帯電話の牙城を崩し、ハード・ディスクによってノートパソコンの領域を侵し始めたのです。


「PDAの時代はこれからだ!」


新たなIT機器の覇権争いが、今静かに始まっています。

505.個人情報保護法とハンドルネーム (2005/05/23)

個人情報保護法が、今年4月1日に全面施行されました。これまで個人の情報は、それ程注意を払って取り扱われることがなかったため、知らないところで名簿が売買されていたり、アンケートに書いた内容がとんでもないところで流通していたりしていました。


子どもが通う小学校でも、クラス替えに伴う名簿の作成をしていません。ですから、生徒の電話番号や住所は、本人から直接聞くしかありません。また会社でも、昔は社内の電話番号のリストを配っていましたが、かなり前から作成しなくなりました。


個人情報保護法が施行されると、病院の受付で患者さんの名前を呼ぶことが出来なくなるので、取り違えが起こりやすくなるという心配がされていました。しかし、厚生労働省から次のようなガイドラインが出されています。


受付での呼び出しや、病室における患者の名札の掲示などについては、患者の取り違え防止など業務を適切に実施する上で必要と考えられるが、医療におけるプライバシー保護の重要性にかんがみ、患者の希望に応じて一定の配慮をすることが望ましい。

これを受けて、基本的には患者さんの名前を呼び、本人が希望した場合だけは名前以外の方法を使うという医療機関がほとんどのようです。また、名前で呼ぶときも、必要最小限の音量と繰り返し回数に留めるように心がけると説明している場合が多いようです。


銀行の窓口などで、番号札を発行して順番に対応している場合がありますが、番号で呼ばれても気付かない人が多いようです。自分の名前には本能的に反応しても、慣れない番号には意識していなければ反応しないのでしょう。


医療機関に置いては、個人情報の保護よりも取り違えの方が事が重大ですから、名前に代わる呼び方は難しいかも知れません。


ところで、USでは名前を愛称で呼ぶことがほとんどです。「クリス」やら「ジョー」やら「スー」のように、よく使われる覚えやすいものがほとんどです。USでは初めてあった人に、"Mr.xxxx"なんて呼び方をしても、「ただクリスと呼んでくれ!」と言われる事がほとんどですが、ヨーロッパ人の場合は、日本と同じく名字で呼ぶようです。


以前、物知りのアメリカ人と話しをしていたとき、なぜUSだけが愛称を使いたがるのかを考えたことがありました。その時の結論は、USは移民の国であり、名字(Last Name)には出身国の特徴が表れるため、それを知られたくない人が、意識的に名字を使うことを避けたからであろうと。


McDonaldのように、頭にMcがあるだけでアイルランド出身だと判ってしまうものもありますし、何となくドイツ系だなと思う名前を見つけるのはそれほど難しくはありません。名前を出すたびに出身地も知られてしまうのがイヤだった人もいたのではないでしょうか。


そこで出身地の情報を持たない名前(First Name)をもっぱら使い、しかもそれを簡略化することによって、性別が判る程度の情報しか含まないようにした愛称を、日常的に使うようにしたのではないかと言うのです。


つまり、USで使われている愛称は、ハンドルネームそのものなのです。


日本でも携帯メールの普及によって、ハンドルネームを日常的に使っている人が増えています。また誰が見ているか分からないインターネットの世界では、ハンドルネームは必須と言えるでしょう。


個人情報保護法の施行によって、自分の名前をむやみに大衆の面前で使うことを躊躇するようになれば、そのうち病院の受付ではハンドルネームを呼ぶようになるかも知れません。


「ぱむとろさん、3番の診察室にお入りください!」

504.スカイパーム計画4: スカイプは何をもたらすか?(2005/05/19)

スカイプは、これまでの電話の世界を大きく変える可能性を秘めています。すでに1億回のダウンロードを記録し、多くの人々が世界中でオンライン状態になっています。企業で採用するIP電話としての需要も、今後高まってくることでしょう。


ただ、スカイプが電話システムの主流に躍り出ることができるかどうかは、まだしばらく様子を見る必要があるようです。日本では、NTTもYahoo
BBも、スカイプは恐れるに足らないものをして片付けているようですが、海外ではブリティッシュ・テレコムのように、スカイプのIT技術に強い関心を持っているところがあるようです。


スカイプの通話が無料になるという特徴は、単に電話料金の負担が減らせるだけでなく、同時に生活に変化が起こることを予感させます。


インターネットADSLによって固定料金つなぎ放題になったために、放送との垣根が崩れてきたのと同じような事が必ず起こるでしょう。常に電話をつないでおくことによって、全ての生活音を遠隔地にいる人と共有できるようになります。


例えば在宅勤務の場合なら、あたかもパートナーが隣の席にいるように意識しないで打ち合わせができたり、子どもの学校の授業参観を家にいながらすることができたり、あるいは単身赴任中のお父さんと、あたかも同じテーブルに座っているように夕食の会話を楽しむことができるようになるのです。


日経ビジネスExpressには、スカイプの実際の使用例が載っています。


留学でUSにいる夫と、東京にいる奥さんの間をスカイプでつなぎっぱなしにしておくと言うのです。そして、奥さんが「犬の散歩に行ってくるわね!」と言えば、USにいる夫が、「行ってらっしゃい。気をつけてね!」と言うのだそうです。


そしてしばらく無音が続いた後、しばらくして「ただいまー!」と奥さんが帰ってきたら、夫は「ああ、お帰り。暑かったかい?」なんてね。(このような生活に憧れる人もいれば、面倒くさいと思う人もいるでしょうね。)


スカイプは、今はパソコンやPDAがなければ使えませんから、広く普及させるためにはもっと扱いやすい専用電話機が開発されなければなりませんが、モトローラスカイプ対応の携帯電話機を開発中との事ですし、日本ではBUFFALO専用の固定電話機を販売する予定だそうです。


今後スカイプが、無料あるいは格安料金によってどこまで勢力を伸ばしていくか、注目したいと思います。


さて、話を「なぜ現時点でパームOSがサポートされていないか?」に戻してみましょう。


過去にも、Project Palm機長さんが紹介されていたように、昨年の9月ごろにはパームOS用のスカイプが発表されると言う噂が広がっていたのですが、今になっても発表されていません。また海外の嘆願サイトには、Skype for PalmOSのページに多くの希望が寄せられています。


PalmOneから新しく発表された、mobile managerシリーズのLifeDriveにはWiFiBluetoothが内蔵されていますから、ぜひともスカイプをインストールしたいところです。


しかし、ここまでパームOSのサポートをしないのには、何か訳があるのでしょうか?パームのスマートフォン契約の中に、他の方式の携帯電話との契約を禁止する条項があるとか、スカイプのパートナーが圧力をかけてパームへのサポートをさせないとかが考えられなくもありません。


スカイプと同じような技術を、独自に開発しようとする企業もあるそうです。今は平静を保っている電話会社も、今後の動向によってはいつまでも安泰でいられるとは限りません。


スカイプの登場によって、電話業界は大きく変わるに違いありません。通信キャリアや機器メーカーは、激動の電話業界の中でもう一度シャッフルされることでしょう。


そこに、パームが大きく飛躍する可能性が秘められていると思うのは、私だけでしょうか?

503.スカイパーム計画3: スカイプを使ってみよう (2005/05/17)

今、新しいIP電話として注目を集めているスカイプは、次のようなビジョンを掲げています。


Skype は、優れた音質の通話サービスを世界中の消費者に無料で提供して通信業界を変革するグローバルP2P テレフォニー カンパニーです。

この中のすぐれた音質無料と言うのが、スカイプの特長を端的に表しています。すなわち、



  1. スカイプにユーザー同士なら、世界中どこでも無料で通話することが出来る。
  2. 世界中の一般電話や携帯電話とは、格安の料金で通話することが出来る。
  3. これまでの携帯電話より、すぐれた音質で通話することが出来る。

ルクセンブルクに本拠地を置くこの会社は、38歳と28歳の共同創業者によって設立されました。まだ事業が始まったばかりであるにも関わらず、パートナー企業にはジーメンスモトローラを始め多くの企業が名を連ね、日本からはLivedoorBUFFALOが参加しています。


スカイプの面白いところは、始めから無料でユーザーに提供するためのビジネスモデルを構築しているところです。


通常のIP電話は、一定の通信品質を保つために、サービス分配器(SMD)を使って、一般のインターネットの回線とはL2レベルで別の専用回線に分けて、信号のやり取りをしているそうです。


その為には専用回線と同時にIP電話の信号をコントロールするためのサーバーが必要になり、多大な投資とメインテナンスを継続的に行う必要があります。


しかし、スカイプは専用の回線を必要とせず、一般のインターネットの回線だけを通じて通話を行うことが出来ます。その為に、複数の伝送経路を常時確保し、回線の品質の変化に応じて動的に経路を切り替える技術を採用しているそうです。


又、IP電話のサーバーに代わってユーザー間のアドレス情報を制御するために、ユーザーのパソコンの中で処理能力に余裕のあるマシンに、サーバーの役割を動的に割り振っているそうです。


この為、専用回線やサーバーに投資することなく、ユーザーの増加に対応できるIP電話システムを構築できるのです。


では早速無料のソフトウェアをダウンロードして、試してみることにしましょう。スカイプのサイトから、無料のダウンロードページに進むことが出来ます。登録とインストールが完了すれば、すぐに通話を試すことが出来るようになります。


既に知り合いがユーザーになっている場合は、すぐにトライアルが出来ますが、話し相手がいない場合は試すことが出来ません。そんなときはLivedoor Skypeに行けば、4人の方々がスカイプのお試し相手として待ちかまえています。


何と、あの堀江社長もいらっしゃるではありませんか。ひょっとして直接話すことが出来るかも知れません。ただ実際は、録音されたメッセージであったりうまくつながらなかったりと、運試しと思った方がよいかも知れません。


さて、ソフトウェアをダウンロードされた方はお気づきだと思いますが、スカイプが現在対応しているOSは、



  • Windows 2000 and WP
  • Mac OS X 10.3以上
  • Linux
  • PocketPC 2003

の4つだけで、残念ながらPalmOSには対応していません。


この理由はいくつかあるようですが、「PalmOSはマルチタスクに弱い。」とか、「WiFi対応のPalm機は、DellのWiFi対応PocketPC機より高すぎる。」などと言われているそうです。


とりあえず、PalmOSへの対応が近々アナウンスされると言う噂が長い間ささやかれていますから(?)、今は期待しながら待つしかないようです。


さて、地球上のあらゆる通信ビジネスを、すべて消滅させてしまうとも言われたスカイプが、私たちの生活に何をもたらすかを、次回は考えてみたいと思います。