212.OMAPを採用することの意味するもの (2003/10/03)

ところで、最近のpalmOneの製品群で気づくのは、以前からのモトローラに加えて、インテルTIプロセッサーを採用していることです。これらは、ARMのコアを採用しています。


今やARMコアと言えば、泣く子も黙る破竹の勢いで様々な製品に採用されています。PalmOSがARMベースのプロセッサーに対応したことによって、PDA以外の他の製品と同じプラットフォームで、Palm製品の開発をすることができるようになったようです。


OMAPTIアプリケーションプロセッサーとその開発プラットフォームの名称で、“Open Multimedia Application Platform”の略だそうです。FOMAをはじめとする今の3Gと呼ばれている携帯電話のプロセッサーとして、世界中で採用されているそうです。


特徴は、何と言ってもARMコアDSPコラボレーションでしょうか。音声や動画などを処理する場合、ARMコアだけの場合と比べて、半分以下の消費電力2倍以上のパフォーマンスが出ると言われています。


DSPを1チップに搭載する事によって、別個のDSPチップを搭載するより低コストにできますし、何より世界中の携帯電話と同じプロセッサーを採用すれば、その膨大な生産量によるコストの引き下げが期待できます。


また、開発プラットフォームを携帯電話と共通化することで、携帯電話で開発された機能をPalmに移植することも容易に出来るでしょう。


Dellのビジネスモデルは、デファクトスタンダードをかき集める事だと言われています。世界中で標準的に使われている技術をうまく製品に取り込んでいく事が、変化の激しいデジタル機器を短期間に開発するためには必要になっています。


ソニーは、Handheld EnginePEG-UX50で登場させました。ARMコアとDRAMを1チップに搭載したもので、Embedded DRAMによるコストの削減を狙ったものだと思われますが、その半導体のプロセスを含めソニーの自前ですべてを供給しようとしています。


全てのCLIEが、将来Handheld Engineを搭載するかどうか分かりませんが、デファクトスタンダードに乗って行こうとするpalmOneとは、戦略が少し異なる様に思えます。


モバイル機器のための自前のプロセッサーを持っていることは、大きなアドバンテージであると同時に、高コスト体質になる危険性も持ち合わせています。そのことが、現在のCLIEの価格に影響していると言えるかもしれません。


OMAPの資産を積極的に利用し始めているpalmOneと、独自技術を研鑽するソニーそれぞれが、別々の道を歩んでくれた方が、製品に幅が出てくるのでユーザーにとってはありがたいのですが、どちらの道が険しいかは、もうしばらく様子を見てみなければならないでしょう。(両方厳しいだろうと言う見方もあるかもしれませんが。)

211.中途半端はわかりにくい (2003/10/03)

また何が言いたいか判り難いタイトルです。余り真剣に読まないようにしてください。


よく人と議論しているときに、「ちょっと極端過ぎないか?」とか、「それは極論だ!」などと言う人がいます。つまり、極端過ぎて現実的でないため、想定することさえできないと言う事でしょう。


有り得ないほど極端な場合は、確かにそういうことがあるかもしれません。しかし逆に、中途半端でどう解釈して良いかわからない場合も、判断に困ってしまいます。


例えば、信号で「青は進め」「赤は止まれ」です。世界中で誰に聞いても、大体答えは同じだと思います。では「黄色は?」と聞くと、「注意して渡れ!」とか「急いで渡れ!!」と言う人が多いのではないでしょうか?


確かに現実の問題としては、その方が安全な場合もありますが、基本的な考え方としては「止まれ」です。現実的には「可能な限り止まれ」であり、最後の解釈として「止まる事が危険な場合のみ危険回避のために速やかに交差点から退出せよ!」と言うことのようです。


しかし、実際目前で信号が青から黄色に変わったら、まずブレーキよりもアクセルを踏む人が多いのではないでしょうか?


この「黄色」の中途半端さが、判断する人に都合の良い様々な解釈を生んでしまいます。


このことは、商品企画にも通じるところがあります。機能が盛り沢山で高価格である製品や、限定された機能であるが安い製品はわかり易いのです。


ところが、中間的な値段とサイズで、機能も程ほどと言う機種は、余程その機種を吟味して自分のニーズと照らし合わせることができる人以外には、中途半端にしか見えないでしょう。


ソニーが日本で発売する新製品、CLIE-TJ25ですが19,800円と言うわかり易い値段設定で、年末の手帳の買い替え需要を狙っているようです。システム手帳は、安いものでも1万円ぐらいしますし、高いものは4万円もしますから、19,800円は相対的に安いと言えるかもしれません。


確かに、新規にシステム手帳を買おうかと思っている人は、19,800円のCLIEは比較の対象になるかもしれません。ただ、新規のシステム手帳を買う人が、それほどたくさんいるのかどうかいささか疑問です。つまり、システム手帳の新規需要を狙っても、余り売り上げが期待できないのではないでしょうか?


さらに既存のシステム手帳ユーザーの場合は、システム手帳は一度買えばレフィルを1セット交換するだけで済みますし、使い慣れた人は今更そのシステム手帳を手放せないでしょう。


それでもなお、システム手帳のユーザーの乗り換えを狙うと言うのなら、CLIEの値段をシステム手帳と同じにするのではなく、レフィルの1セット分の値段と張り合わなければならないでしょう。CLIEに手帳の代わりをさせるためには、製品価格が中途半端ではないでしょうか?


では、palmOneの新製品、Zire 21$99はどうでしょうか?この値段にはシステム手帳ではなく、1年ごとに使い捨てる手帳の需要を取り込もうとする意思が感じられます。もちろん、使い捨ての手帳に比べてまだ高いのは事実ですが、毎年交換する手帳の数年分だと思えば、金額的にも対抗できるでしょう。


また、そのような人たちに、実際に目で見て比較してもらえるような売り場の開拓と、分かりやすい製品パッケージを用意したことは、販売戦略において大切な事だと思います。中途半端では、新規需要開拓できません。


今日の結論です。私は、ずばりソニーの新製品、CLIE-TJ25の19,800円は高いと思います。これまでのCLIEを知っている人から見れば、値ごろ感のある価格に見えるかもしれませんが、これまで使い捨ての手帳とレフィルしか見てこなかった人の目には、高いと映ることでしょう。


無理を承知で言わせていただきます。本気で手帳の代替を提案するのなら、9,980円でしょう。これまでのソニーの伝統であるテクノロジー優先の設計思想を改め、マーケット主体の製品を提供していかなければ、手帳を競争相手に市場の拡大は望めません。


世界のソニーなら、高価格で最高の機能を提供する製品も、廉価でありながら魅力のある製品も、両方可能にすることができるはずです。中途半端はわかりにくい!ソニーに、Zire 21を超える製品を期待します。(本当は安いモデルに魅力を感じるのは、何を隠そう、私がケチだからです!)