179.コダックが写真から撤退?(2003/08/22)

日経BizTechに、「米コダックが事業転換、写真から商業用印刷へ◇ロイター」という記事が掲載されています。規模の縮小が続いている、消費者用写真事業から、商業用印刷事業にシフトして行こうということです。


コダックと言えば、カラーフィルムの発色世界七不思議のひとつに数えられていたことを、懐かしく思い出される方も多いのではないでしょうか?


まだ、日本製の製品がアメリカを追いつけ追い越せといっていた時代に、コカコーラの味と並んで、コダカラーフィルムの発色のすばらしさは、なかなか追いつけないように思えたものです。


その後、日本製のフィルムの性能が飛躍的に向上し、コダックは輝きを失ってきていましたが、ついに写真事業のリストラを決断するまでになったようです。どれぐらいの時間をかけて縮小していくのかは判りませんが、一つの時代が去ったと言うことなのでしょう。


ネガカラーフィルムでは、日本の市場ではフジフィルムが一番高く売られ、コダックはプライスリーダーになれなかったのですが、数年前のUSでは、コダックが一番高く売られていたと思います。しかし、USのハイアマチュアの中には、フジのベルビアのような鮮やかな発色を好んで使う人が増えてきていました。


コダックのフィルムといえば、その現像プロセスの複雑さに特徴がある、リバーサルカラーフィルムのコダクロームが代表です。フィルム乳剤中に色素を持たない外式と呼ばれ、色素を乳剤中に持つエクタクロームや、フジフジクロームコニカコニカクロームなどとは一線を画しています。


外式の現像作業は、色素を注入するために潜像の反転作業が必要になるため、現像中に露光作業をしなければなりません。その複雑なプロセスの為、日本では2カ所の現像所しかコダクロームを処理できないと聞いたことがあります。


特に、コダクローム25(ISO25)の渋めの発色と、驚異の粒状性は人気がありました。プロのカメラマンが風景写真を撮影するときは、引き伸ばし時の耐性を考えて、大判中判カメラを使いますが、唯一コダクローム25と35mm一眼レフカメラの組み合わせは、プロの要求に耐えることができました。


また、白黒フィルム傑作といえば、Tri-X(ISO400)がありますが、このフィルムとD-76という現像液の組み合わせは、正に白黒現像の世界標準として何十年と君臨してきました。白黒フィルムには、多くの現像処方が存在していますが、そのほとんどがコダックの処方であったり、その変形であったりして、世のカメラマンが多くの作品を残すことに貢献してきたのです。


写真の起源は、銅乾板を使ったフランスタゲレオ・タイプであると言われていますが、まだ100年少ししか経っていません。最初一部の金持ちの道楽であった写真を、一般大衆娯楽文化、あるいは芸術にまでなっていった過程で、コダックの果たした功績は偉大であったというべきでしょう。


これから、写真はますますデジタル画像化していきますが、コダックが写真分野に残してくれた財産を大切にしていきたいものです。

178.EOS Kiss Digitalを分析する (2003/08/22)

キャノンが8月20日に、普及型デジタルAF一眼レフカメラの新製品である、「キヤノン EOS Kiss Digital」を発表しました。9月20日から発売するそうです。


注目すべき点としては、その販売予想価格が12万円であること、実績のあるEOS Kissシリーズの特徴を継承していること、専用レンズが開発されセット販売で提供されることなどでしょう。


キャノンのプレスリリースを見ると、これまで提供してきたプロ用ハイアマチュア用に加えて、今回のデジタルAF一眼レフカメラの普及機を追加することによって、デジタル一眼レフのラインアップを完成させることになるとしています。


これまでのフィルムを使った一眼レフのユーザーや、コンパクトデジタルカメラからのステップアップを図るユーザーを、取り込もうとしているようです。本格的なデジタル一眼レフを、手の届く価格で提供するという意図は、十分に理解できます。キャノンは、過去にもAE-1で5万円ポッキリという、AE一眼レフカメラの価格破壊(死語)を起こしてきましたし、両優先AEのA-1Kissシリーズでもプライスリーダーを長年務めてきました。


基本的にフィルム式の一眼レフシリーズと同じレンズマウントであるキャノンEFマウントを採用しており、すべての既存のEFレンズ群を装着することができます。35mmカメラの焦点距離の1.6倍のレンズとして使うことができます。しかし、35mm用のレンズは不必要に大きいため、専用のレンズが有利であることは間違いありません。


そこで今回同時に、ショートバックフォーカスの専用レンズが発表されました。APS-Cサイズの撮像素子に合わせて、より小さいイメージサークルに対応させた、EF-Sという規格のレンズです。


ショートバックフォーカスは、レンズ後玉と焦点面の距離が、今までの一眼レフより短いものを指しますが、撮像素子の大きさに合わせてレンズ自体も小型に作ることができます。このショートバックフォーカスに合わせて、クイックリターンミラーも小さく作られているのでしょう。


このあたりは、既存のEFレンズが使えるとは言いながら、やはりイメージサークルの小さいレンズの優位性も捨てられないというジレンマを感じさせます。大量のEFレンズを保有するEOSユーザーを、無理なくデジタル一眼レフに導くといった意図があるのでしょう。オリンパスが、あっさり、フォーサーズというまったく新しい規格に移ったのとは対照的です。


これまで一眼レフを愛用してきたユーザーに、デジタルカメラの優れた特徴を体験してもらうためには、EOS
Kiss Digitalは最適でしょう。しかし、撮像面のサイズが変わったということは、マウントやボディに大きく影響しますから、光学系だけでもまったく新しい設計にしなければ、本当の性能を追求することはできません。


今回の製品発表で、デジタル一眼レフのラインアップが完成したといっていますが、これはあくまで、銀塩フィルム式からデジタル式への、移行段階のものだと思われます。


銀塩フィルム時代のカメラは、ファインダー系に重点を置いた設計をしてきました。しかし本来、デジタルカメラとして、その本領を発揮するのは、撮像素子画像処理系に重点を置いた、新しいコンセプトのカメラが開発されなければならないと思います。もはやファインダーは、画像処理系の一部としての意味しかなくなってくるでしょう。


ファインダーを設計の中心にしてきたこれまでのカメラの考えから脱却し、デジタルスチールカメラの特徴を理解し、新しいカメラの理想を追求出来るカメラメーカーが、これからのデジタルカメラ時代をリードしていくものと思われます。