178.EOS Kiss Digitalを分析する (2003/08/22)

キャノンが8月20日に、普及型デジタルAF一眼レフカメラの新製品である、「キヤノン EOS Kiss Digital」を発表しました。9月20日から発売するそうです。


注目すべき点としては、その販売予想価格が12万円であること、実績のあるEOS Kissシリーズの特徴を継承していること、専用レンズが開発されセット販売で提供されることなどでしょう。


キャノンのプレスリリースを見ると、これまで提供してきたプロ用ハイアマチュア用に加えて、今回のデジタルAF一眼レフカメラの普及機を追加することによって、デジタル一眼レフのラインアップを完成させることになるとしています。


これまでのフィルムを使った一眼レフのユーザーや、コンパクトデジタルカメラからのステップアップを図るユーザーを、取り込もうとしているようです。本格的なデジタル一眼レフを、手の届く価格で提供するという意図は、十分に理解できます。キャノンは、過去にもAE-1で5万円ポッキリという、AE一眼レフカメラの価格破壊(死語)を起こしてきましたし、両優先AEのA-1Kissシリーズでもプライスリーダーを長年務めてきました。


基本的にフィルム式の一眼レフシリーズと同じレンズマウントであるキャノンEFマウントを採用しており、すべての既存のEFレンズ群を装着することができます。35mmカメラの焦点距離の1.6倍のレンズとして使うことができます。しかし、35mm用のレンズは不必要に大きいため、専用のレンズが有利であることは間違いありません。


そこで今回同時に、ショートバックフォーカスの専用レンズが発表されました。APS-Cサイズの撮像素子に合わせて、より小さいイメージサークルに対応させた、EF-Sという規格のレンズです。


ショートバックフォーカスは、レンズ後玉と焦点面の距離が、今までの一眼レフより短いものを指しますが、撮像素子の大きさに合わせてレンズ自体も小型に作ることができます。このショートバックフォーカスに合わせて、クイックリターンミラーも小さく作られているのでしょう。


このあたりは、既存のEFレンズが使えるとは言いながら、やはりイメージサークルの小さいレンズの優位性も捨てられないというジレンマを感じさせます。大量のEFレンズを保有するEOSユーザーを、無理なくデジタル一眼レフに導くといった意図があるのでしょう。オリンパスが、あっさり、フォーサーズというまったく新しい規格に移ったのとは対照的です。


これまで一眼レフを愛用してきたユーザーに、デジタルカメラの優れた特徴を体験してもらうためには、EOS
Kiss Digitalは最適でしょう。しかし、撮像面のサイズが変わったということは、マウントやボディに大きく影響しますから、光学系だけでもまったく新しい設計にしなければ、本当の性能を追求することはできません。


今回の製品発表で、デジタル一眼レフのラインアップが完成したといっていますが、これはあくまで、銀塩フィルム式からデジタル式への、移行段階のものだと思われます。


銀塩フィルム時代のカメラは、ファインダー系に重点を置いた設計をしてきました。しかし本来、デジタルカメラとして、その本領を発揮するのは、撮像素子画像処理系に重点を置いた、新しいコンセプトのカメラが開発されなければならないと思います。もはやファインダーは、画像処理系の一部としての意味しかなくなってくるでしょう。


ファインダーを設計の中心にしてきたこれまでのカメラの考えから脱却し、デジタルスチールカメラの特徴を理解し、新しいカメラの理想を追求出来るカメラメーカーが、これからのデジタルカメラ時代をリードしていくものと思われます。