323.両刀遣いのアカイエカ (2004/03/09)

鳥インフルエンザの問題が渦巻いている兵庫県では、鶏肉の安全性を謳ったチラシを学校を通じて全保護者に配ろうとしています。過去に鶏肉や鶏卵を食べることによって人に感染した例がないことや、十分加熱すればウィルスが死滅することを安全の根拠としているようです。


一方、学校給食からは鶏肉が閉め出されつつあります。これ程大量に死んだニワトリを焼却処分したり、自衛隊まで出動して穴に埋める作業をしている現状において、さすがに安全であるとは考えにくいのも確かです。


感染ルートが明確でない今、それを明らかにしていくためにも、これ以上感染を広げないようにしなければなりません。


asahi.comのサイエンス欄に、米国で最近2年間に年間200人以上が死亡している、西ナイル熱に関するニュースが掲載されています。これまでは鳥を刺すアカイエカ人を刺すアカイエカは別の種類で、生息している場所も分かれていたそうです。


ところが近年、2つの種類のアカイエカで交雑が進み、両方の遺伝子を受け継いだアカイエカが米国で増えてきているそうです。このアカイエカは鳥と人間の両方を刺すそうです。


ヨーロッパではほとんど見つかっていないそうですが、米国では採集されたアカイエカのうち約半分が、このタイプのものだったそうです。西ナイル熱が米国だけで流行している原因ではないかと考えられています。


恐ろしいのは、鳥と人を刺すタイプのアカイエカは、すでに日本でも存在が確認されており、西ナイル熱が日本に入ってきたときには、米国同様日本でも大流行する可能性が高いとされていることです。


蚊の発生する時期とインフルエンザが流行する時期はズレていますが、鳥インフルエンザも鳥と人の両方を刺す蚊を媒介として、ウィルスが鳥と人の間を行き来する事が起こらないとは限りません。


今問題となっている鳥インフルエンザの感染ルートを解明して、対策を講じることは言うまでもありませんが、今後蚊を媒介にしてこれらの病気の流行が起こる事のないように、先手を打つ必要があるのではないでしょうか?

322.液体レンズ (2004/03/08)

日経Biz Techに、オランダのフィリップス社焦点距離可変の液体レンズを開発した、というニュースが掲載されています。ドイツのハノーバーで3月18日から開催されるCeBIT
Exhibitionで、デモンストレーションするそうです。


これまでのレンズは、堅いガラスやプラスチックで出来ていましたが、人間の目と同じように液体を使ったレンズを開発したそうです。このレンズの利点は、低コストに出来るため大量生産に向いているそうです。


屈折率の異なる水と油を容器の中に入れ、容器の片側に疎水性加工を施すことによって、水と油の界面は一定の曲率を持った状態で安定し、水の部分が凸レンズの役割を果たします。


疎水コーティング面に直交する電界をかけると、疎水加工面の疎水性が変化するため水の部分の曲率をコントロールすることができ、凸レンズから凹レンズまで自在に変化させることが出来るそうです。


消費電力がほとんどなく、耐久性も100万回での劣化が認められない上に、液体を使っているため高い耐衝撃性を備えているそうです。


試作品は直径3ミリメートルのもので、小型の光学機器に組み込むことを想定しています。デジタルカメラやPDAはもちろんのこと、内視鏡や光学ストレージドライブなどの用途が有望とのことです。


試作品のような小型のものもいろいろな用途に応用できそうですが、これから大口径のレンズの製作が可能になれば、これまでの非球面レンズ異常低屈折率レンズに取って代わる可能性もあるかもしれません。


よくカメラの業界では、カメラレンズで撮影した写真は「感情がない」と言われて来ました。ガラスなどの材料で作られたレンズを通った光は、人間の目ような湿った潤いのあるレンズを通した光と異なり、「非情」であると言われてきました。


今回の液体レンズはレンズ表面が湿っているわけではありませんが、液体をレンズ材料に使った事で、写真表現に何らかの変化が表れることを期待します。


このようにレンズが人間の目に近づけば、次に考えられるのは撮像面(焦点面)を半球状にすることです。1枚のレンズで収差をなくそうとすれば人間の目が理想ですが、液体レンズ半球状撮像素子が完成すれば、これまでの光学系の限界を超える事が出来るようになるでしょう。


フィリップスの液体レンズには、これまでの光学技術を大きく飛躍させる可能性を秘めています。

320.鳥インフルエンザ (2004/03/05)

鳥インフルエンザが猛威を振るい、自衛隊が出動するほどの事態になってきています。スーパーからは鶏肉と卵が消えていき、来週から地元の小学校の給食のメニューが変わります。


養鶏場の近くで、死んだカラス死にかかったカラスが発見されたそうですが、野生の鳥の間でウィルスの伝染が起こっているとなると、人間が目に見える範囲を消毒しているだけでは全く無意味なのかもしれません。


もし、病気の媒介をするものにある程度の大きさがあり、その移動を制限すれば拡散を防ぐことが出来るのならば、制限区域内にとどめることが出来るのでしょうが、鳥の糞が乾燥して空気中に舞い上がるようなことがあると、今の対処ではどうすることもできません。


これを聞いて思い出すのが、ダスティン・ホフマン主演の映画「アウトブレイク」です。患者を隔離しているはずなのに、どんどんと他の人に伝染していく時、ダスティン・ホフマンは部屋の天井を見上げ、換気口から全ての部屋に蔓延しているのに気付くのです。


また、スティーブン・セガール主演の「沈黙の陰謀」 (The Patriot)にも、同様な場面がありました。いずれの映画でも、最後にはワクチンの開発が成功し一件落着するのですが、どちらの映画もワクチンは偶然発見されたのでした。


ハクビシンが疑われているSARSも、動物から人に移ることがあると言う意味では鳥インフルエンザと似た病気ですが、食材としてのハクビシンは日本人には関係がありませんでしたが、ニワトリとなれば三大食肉の一つですから、食生活に与える影響は甚大です。既に牛肉はBSEで問題になっていますし、食肉産業に根本的な改革が必要になって来ているのかもしれません。


思えばO175の時に、カイワレ大根を葬り去って一件落着したかに見えたのですが、最近の裁判の判決では、問題とされたカイワレ業者の施設からO157が最後まで検出されなかった等を根拠に、国側の敗訴が言い渡されています。


もし、裁判の結果が正しいとするならば、O157の根本原因は全く分かっていなかったと言うことになります。今回の鳥インフルエンザの騒動は、O157の経験が生かせていないと言うより、O157ではまともな対策を打てずに曖昧なまま放置してきたつけが回ってきたと言えるでしょう。


今の鳥インフルエンザに関して言えば、感染経路も全く分かっておらず、対策と言っても手当たり次第消毒をして回っているだけで、自然と収まるのを待っているだけに見えます。


O157の時の轍を二度と踏まないように、日本の総力を挙げて取り組んで貰いたいものです。

321.早い春と食物連鎖 (2004/03/05)

日経サイエンスの最新号に、「早まる春 崩れる生き物たちのリズム」と言う記事が掲載されています。地球の温暖化によってどのような変化が始まっているかを検証しています。


オランダ南東部のデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園のシジュウカラ産卵時期は、20年前とほとんど変わっていないそうです。ところがこの地域の春の気温は、平均で2℃上昇しているそうです。


その結果、雛がかえったときの餌になる蛾の幼虫には温暖化の影響が見られ、20年間で2週間も早く孵化するようになったそうです。以前は雛が最も餌を必要とする時期と蛾の幼虫の孵化の時期が一致していたそうですが、シジュウカラの雛が生まれて餌を最も必要とする時期に、既に幼虫のピークは過ぎてしまっているのです。


地球の温暖化によって、それまで一定のリズムを守ってきた食物連鎖において、ズレが生じ始めていると警告しています。


さらにこの研究では、蛾の幼虫の餌であるナラの木の柔らかい若葉の関係も調査をしています。ナラの芽吹きと幼虫の孵化がほぼ同時に起こらなければ、幼虫は餓死してしまうそうです。芽吹きより早くかえった幼虫が餌にありつけないだけでなく、芽吹きから2週間たつと葉がタンニンを含むようになり、やはり食べることが出来ないそうです。


ナラの芽吹きがこの20年間で10日早まり、幼虫の孵化は15日早まっているそうです。この結果、この蛾の幼虫の数が減ってきているそうです。幼虫が雛の餌になるシジュウカラの絶対数が減少傾向に向かうのは、時間の問題だとしています。


さて、問題はオランダのシジュウカラが絶滅する可能性があると言うことだけではなく、地球上であらゆる食物連鎖が崩れてきている(これを断絶と表現している)可能性があると言うことです。


地球上の生物が生存して行く為には、その生物に必要な環境が満たされることが必要であるだけでなく、その食物となる生物にとっての環境も重要であると言うことですから、ほんの少しの気候の変化が生態系に及ぼす影響には計り知れないものがあるようです。


地球は本当に「ガラス」で出来ているのかもしれません。