322.液体レンズ (2004/03/08)

日経Biz Techに、オランダのフィリップス社焦点距離可変の液体レンズを開発した、というニュースが掲載されています。ドイツのハノーバーで3月18日から開催されるCeBIT
Exhibitionで、デモンストレーションするそうです。


これまでのレンズは、堅いガラスやプラスチックで出来ていましたが、人間の目と同じように液体を使ったレンズを開発したそうです。このレンズの利点は、低コストに出来るため大量生産に向いているそうです。


屈折率の異なる水と油を容器の中に入れ、容器の片側に疎水性加工を施すことによって、水と油の界面は一定の曲率を持った状態で安定し、水の部分が凸レンズの役割を果たします。


疎水コーティング面に直交する電界をかけると、疎水加工面の疎水性が変化するため水の部分の曲率をコントロールすることができ、凸レンズから凹レンズまで自在に変化させることが出来るそうです。


消費電力がほとんどなく、耐久性も100万回での劣化が認められない上に、液体を使っているため高い耐衝撃性を備えているそうです。


試作品は直径3ミリメートルのもので、小型の光学機器に組み込むことを想定しています。デジタルカメラやPDAはもちろんのこと、内視鏡や光学ストレージドライブなどの用途が有望とのことです。


試作品のような小型のものもいろいろな用途に応用できそうですが、これから大口径のレンズの製作が可能になれば、これまでの非球面レンズ異常低屈折率レンズに取って代わる可能性もあるかもしれません。


よくカメラの業界では、カメラレンズで撮影した写真は「感情がない」と言われて来ました。ガラスなどの材料で作られたレンズを通った光は、人間の目ような湿った潤いのあるレンズを通した光と異なり、「非情」であると言われてきました。


今回の液体レンズはレンズ表面が湿っているわけではありませんが、液体をレンズ材料に使った事で、写真表現に何らかの変化が表れることを期待します。


このようにレンズが人間の目に近づけば、次に考えられるのは撮像面(焦点面)を半球状にすることです。1枚のレンズで収差をなくそうとすれば人間の目が理想ですが、液体レンズ半球状撮像素子が完成すれば、これまでの光学系の限界を超える事が出来るようになるでしょう。


フィリップスの液体レンズには、これまでの光学技術を大きく飛躍させる可能性を秘めています。