325.シフトレンズ (2004/03/13)

ヨドバシカメラが発行している全取り扱い商品のカタログを見ていて、ふと液晶プロジェクターのページに目が止まりました。「なになに、この製品にはシフトレンズを搭載しているので、映写スクリーンとプロジェクターの位置を自由に設定できるとな、、、」


本来、歪みなく画像をスクリーンに投影しようとすれば、スクリーンの正面にプロジェクターをまっすぐに配置しなければなりません。すなわち、映写レンズの光軸(レンズの中心を貫く直線)が、スクリーンの中心を垂直に交わるようにならなければ、画像に歪みが生じます。


実際は、このように配置することは困難であり、スクリーンの中心より下から投影することが多くなりますが、その場合長方形に投影されるべきものが台形になってしまうのです。


最新のプロジェクターに搭載されたシフトレンズを使うと、スクリーンとプロジェクターの位置関係を比較的自由に配置することができ、理想の位置からずれた場合でもシフトレンズを操作することによって、歪みのない画像を投影することができるようになります。


上下方向にずれた場合だけでなく、左右にずれた場合でも歪みなく投影することができる機種もあるようです。スクリーンとプロジェクターの設置位置に自由度が増えますから、部屋のレイアウトに合わせた投影位置を選ぶことができます。


このシフトレンズと言うものは、35mm一眼レフなどでも交換レンズとして用意されており、画像の歪みが許されない写真分野で活躍しています。


例えば、ある程度広い画角を持つレンズで、高層ビルなどを下から見上げて撮影すると、遠近感が強調されて上すぼみになってしまうことがあります。この場合、建物の両端の本来垂直線でなければならない外郭線が、曲がって写ることになります。


写真表現として、広角系のレンズで遠近感を誇張する手法として、デフォルメと言うのがありますが、建築写真などで建物が正しく表現されるためには、あくまで直線は直線に写っていなければなりません。


そこで、シフトレンズを使ってレンズの光軸を故意にずらして、デフォルメされて台形になってしまった高層ビルを、もとの長方形に戻してやるのです。


カメラにおける被写体とフィルムは、プロジェクターではスクリーンと液晶パネルに相当します。原画が、カメラは被写体でプロジェクターは液晶パネルであると言う違いはありますが、同じ仕組みで台形になるものを長方形に修正することができるのです。


シフトレンズは、光軸平行移動する事によって画像の歪みを修正するのですが、さらに光軸を傾けることができるレンズもあります。この方法はシフトに対してティルト(自動車のチルトハンドルと同じ)と言い、カメラの場合はレンズの光軸がフィルム面に対して垂直でなくなります。


また、一般的にシフトとティルトを含めレンズ光軸をずらすことを、「アオリ」と言います。


ティルトは、例えばポスターなどの大型風景写真で、至近距離から無限遠まで全てにピントを合わせる場合(パンフォーカス)に使います。一般的なカメラでは絞りを小さくすることにより、被写界深度を稼ぎ広い範囲のピントを合わせるのですが、小絞りによる回析現象や光量が減少するため、画質を低下させる場合があります。


ティルトを使うと、そのような悪影響無しにパンフォーカスを得ることができますので、本格的な風景写真には欠かせないテクニックになっています。


4×5インチや8×10インチのシートフィルムを使う大型ビューカメラでは、蛇腹を使って自由にレンズとフィルもの位置関係を設定できます。また、このような大型カメラには、多くの種類の大型カメラ用レンズを自由に選ぶことができます。


国産ではニコンのニッコール富士フィルムのフジノンがすばらしいレンズを供給していますし、世界最高峰のレンズとしては、シュナイダーのジンマーローデンシュトックのシロナーなどが特に有名です。


大型カメラのピント板を覗き、レンズのアオリを探りながら、1枚の風景写真を渾身の力を込めて「カシャッ!!」、と言うのもデジタル時代に逆行して面白いのですが、その前に大型カメラと大型レンズを持ち運ぶためには、助手の一人や二人を雇わなければなりませんね。(自分が助手になると言う手もあるか、、、)


324.レンジファインダー・デジタルカメラ (2004/03/11)

セイコーエプソンから新しくレンジファインダーを搭載したデジタルカメラが発表されました。これまでのM型ライカレンズを装着できると言うことで、優れたレンズと新しいデジタルカメラの融合を図ろうとしている意欲作のように見受けられます。


デジタルカメラとしては、液晶モニターを内蔵したコンパクトタイプのものが先行し、最近は一眼レフタイプのものが徐々に普及してきていますが、そこに本格的レンジファインダーカメラを引っ提げて、エプソンコシナが共同で高級デジタルカメラの市場の一角を狙おうとしているようです。


予想売価が30万円と言うことで、ライカのレンズを既に所有している、ハイ・アマチュアクラスをターゲットにしているのでしょう。


マウントの規格などの情報はライツ社から有償支給されているものと思われますから、レンズのヘリコイドと距離計の連携などの精度も十分に出ているものと期待します。


ただ、個人的には企画としては面白いと思いますが、そこまでしてレンジファインダーをデジタルカメラに採用する意味があるのか疑問に感じます。レンジファインダーの広角レンズ系での測距精度が優れている点や、露光の瞬間にファインダーの暗転がないことを、レンジファインダー採用の利点として上げられていますが、背面に液晶モニターを搭載している事からも分かるように、レンジファインダーはおまけ的要素が強いように思います。


さらに、レンジファインダーの視野率は85%しかなく、液晶モニターの99.7%に比べてかなり見劣りがします。確かに実像式のファインダーは明るく見やすいのは確かですが、それもライカM3に代表されるような優秀なファインダー光学系があってのことです。


ましてや、撮影レンズを通して確認するTTLが常識になっているデジタルカメラにおいて、今更レンジファインダーでもないような気がします。


ノスタルジックなライカレンズを、最新のデジタルカメラとして使ったら、どのような結像をするのかという興味を満たすには格好のカメラと言えますが、実用的にはあまりにもアンバランスではないでしょうか?


レンジファインダーにはレンジファインダーの良さがあり、デジタルカメラにはデジタルカメラの良さがあるのですが、今回の製品はそれらの良さの相乗効果があるとは思えず、奇をてらっただけという感じがします。


そもそもデジタルカメラにおいては、ファインダーは銀塩カメラほど重要な要素ではないと思います。デジタルカメラは、その特長を生かして銀塩カメラに出来なかった機能を盛り込んで行くべきだと思います。


敢えてファインダーでしか特徴を出せなかった銀塩カメラの後追いをするのではなく、デジタル技術を生かした、進歩性のあるカメラの方が夢があるのではないでしょうか?

322.液体レンズ (2004/03/08)

日経Biz Techに、オランダのフィリップス社焦点距離可変の液体レンズを開発した、というニュースが掲載されています。ドイツのハノーバーで3月18日から開催されるCeBIT
Exhibitionで、デモンストレーションするそうです。


これまでのレンズは、堅いガラスやプラスチックで出来ていましたが、人間の目と同じように液体を使ったレンズを開発したそうです。このレンズの利点は、低コストに出来るため大量生産に向いているそうです。


屈折率の異なる水と油を容器の中に入れ、容器の片側に疎水性加工を施すことによって、水と油の界面は一定の曲率を持った状態で安定し、水の部分が凸レンズの役割を果たします。


疎水コーティング面に直交する電界をかけると、疎水加工面の疎水性が変化するため水の部分の曲率をコントロールすることができ、凸レンズから凹レンズまで自在に変化させることが出来るそうです。


消費電力がほとんどなく、耐久性も100万回での劣化が認められない上に、液体を使っているため高い耐衝撃性を備えているそうです。


試作品は直径3ミリメートルのもので、小型の光学機器に組み込むことを想定しています。デジタルカメラやPDAはもちろんのこと、内視鏡や光学ストレージドライブなどの用途が有望とのことです。


試作品のような小型のものもいろいろな用途に応用できそうですが、これから大口径のレンズの製作が可能になれば、これまでの非球面レンズ異常低屈折率レンズに取って代わる可能性もあるかもしれません。


よくカメラの業界では、カメラレンズで撮影した写真は「感情がない」と言われて来ました。ガラスなどの材料で作られたレンズを通った光は、人間の目ような湿った潤いのあるレンズを通した光と異なり、「非情」であると言われてきました。


今回の液体レンズはレンズ表面が湿っているわけではありませんが、液体をレンズ材料に使った事で、写真表現に何らかの変化が表れることを期待します。


このようにレンズが人間の目に近づけば、次に考えられるのは撮像面(焦点面)を半球状にすることです。1枚のレンズで収差をなくそうとすれば人間の目が理想ですが、液体レンズ半球状撮像素子が完成すれば、これまでの光学系の限界を超える事が出来るようになるでしょう。


フィリップスの液体レンズには、これまでの光学技術を大きく飛躍させる可能性を秘めています。

297.「人間に近づくロボット」と「ロボットに近づく人間」 (2003/12/30)

先日「286.走って投げて打つロボット」におきまして、人間と同じような動作をするようになりつつあるロボットについて書きましたが、ではその逆もありだろうと言うお話です。


最近米国FDAで体内埋め込み半導体チップが認可されたことを受けて、いくつかの企業が商業化に向けて製品を発表しています。


それらは一般的に言う所の無線ICタグの類で、RFIDタグとも呼ばれています。無線ICタグは、もはやスーパーマーケットの商品に取り付けるだけの物ではないようです。


体に埋め込む事のメリットは、本人以外が使用することの出来無くなるとか、どこかに忘れることがないなどがあるそうですが、反対に他人の体内から取り出すような犯罪が起こることも考えられています。


ところで半導体のチップを埋め込むと言えば、SFの世界では体に高感度カメラを組み込んだり、超音波マイクを組み込んだ探偵物のテレビドラマがあったことを思い出しました。


ロボットの研究が進みいろいろなロボットのパーツが進歩していけば、それらのパーツを組み込むことによって、人間の能力を高めたり補ったりする事が出来るものがあるかも知れません。


例えば、超音波が聞ける耳や赤外線が見える目などを簡単に組み込むことが出来るようになれば、音楽や絵画の世界も大きく変わったものになるのではないでしょうか。イルカとコウモリの超音波混声合唱を、コンサートホールで聴いてみるのも面白いかも知れません。(少しうるさそうですが。)


もちろんその為には、人間の神経システムに組み込む事の困難さを克服しなければなりませんが、何十年か後にはロボットのパーツを人間に組み込むことが出来る日が来るのではないでしょうか?


ロボットが進歩して近い将来「アトム」が実現できたとき、人間は「フランケンシュタイン」になるのです!(失敗作にわざわざしないでも良いような気がしますが。)

287.エンタテインメント・ロボット (2003/12/19)

「Quest for CuriosityでQRIOに決めました」とは、ソニー(株) エンタテインメントロボットカンパニー プレジデントのお言葉ですが、その他にもソニーのホームページから入ることができる「QRIO Official Site」には、いろいろな逸話が掲載されています。


QRIOのデザインは、「宇宙生物で8歳の子供」と言うヒントから作られたそうです。あまりにも人間に形が似てしまうと、あるレベルからは不気味さを感じてしまうことから、イメージは人間でありながら宇宙人的な雰囲気を出そうとされたそうです。


もう一つのソニーのロボットにAIBOがありますが、こちらはペットになることを目指しています。対してQRIOは、人間のパートナーとなることを目指しているそうです。確かにいつでもそばにいて、何を話しかけても頷いてくれる相手が欲しい人は、多いかも知れません。


エンタテインメントとして、何をこの新しいロボットが提供してくれるのかまだ良くわからないのですが、人間の形に似てきたことによって、これまでと違った用途が開けて来る事でしょう。


思えば産業用ロボットが登場した時、誰もがその無骨な形失望したものです。単にモーターにアームを取り付けただけの小型のクレーンのような物を、ロボットと呼ぶには違和感がありました。


ロボットと呼ぶならアトムとはいかないまでも、無骨さの限界鉄人28号までだろう」、とささやいたものです。


エンタテインメントと言う分野は、まさにソニーが走り続けてきた分野です。ラジオやテレビ、ビデオにウォークマンと、これまでも人々の生活を豊かにしてきたことに疑いはありません。


映画「ウエスト・ワールド」は、ユル・ブリンナーが主演した近未来のSFでしたが、ソニーのQRIOを見ていると、一つのエンタテインメントの究極の姿がそこにあるような気がしてきます。


機械が発達すると人間は退化します。好奇心の追求進歩的であり続けることを願います。