90.デジタル一眼レフカメラシステムを考える3: 一眼レフカメラはデジタルでどう変わるか? (2003/05/06)

これまでの一眼レフカメラは、デジタル化によって、どのように変わっていくのでしょうか?


まず、良く言われているのは、撮像素子はフィルムに比べて、斜めに入射する光線に対して色のにじみ感度低下を招きやすい、と言う事です。そのために、レンズを含めた光学系を、デジタルカメラ用に設計した方がよいと言われています。


次に、ごみの問題があります。これは、レンズ交換時に外から侵入するものと、フォーカルプレーンシャッターが出す金属粉があります。このごみは、フィルムの場合は撮影ごとに巻き取られていくので、同じ所にごみが留まる事はないのですが、撮像素子の場合はいったん付いてしまうと、強制的に取ってやらない限り、同じ所に黒い点として写り続けてしまいます。ゴミ対策が、デジタルカメラ固有の問題として取り上げられています。


ところで、デジタルカメラになると、今までのフィルムを使った一眼レフカメラでは出来なかった事で、可能になるものがいくつかあります。


例えば、光源に対する適応性です。光源が異なったり、あるいは同じ太陽光下でも、晴天時と曇天時では色温度が異なる為、カラーバランスを取る為には、フィルターを使ったり、光源に合わせたフィルムを使い分けなければなりませんでした。


デジタルカメラの場合は、ホワイトバランスを取ってやるだけで対応できますから、ワンショットごとに光源や色温度がが変わったとしても、対応する事が可能です。


また、これまで一眼レフは、フォーカルプレーンシャッターを使ってきましたが、シャッター速度には物理的な限界がありました。シャッター幕を高速化するには、ブレーキなどのメカニズムが複雑になったり、耐久性に問題が出たりしました。


電子的なシャッターにより、より高速なシャッターを、ローコストに実現できる可能性があります。ストロボの同調速度も上げる事ができます。また、機械式シャッターと組み合わせた機種も既にあるようです。


もし、デジタル一眼レフを、フィルムを使った一眼レフと異なった、新しい規格による光学系で実現すれば、小型のズームレンズが可能になったり、ビデオカメラのような20倍ズームレンズなどが可能になるかもしれません。もし、このような高倍率ズームレンズが可能になれば、レンズ交換式にこだわらずに、レンズ固定式で良いかもしれません。


最後に、これが一番重要なのですが、電子ビューファインダーの可能性です。一眼レフの最大の特徴は、ファインダーで撮影する画像そのものを確認できると言う事ですが、それなら電子ビューファインダーで良いのではないでしょうか?


これまでの一眼レフでは、フィルムと同じ位置関係にある焦点板(フォーカシングスクリーン)上の像を使って、ファインダー像としていました。その為に、大きなミラーで反射させ、高価で重たいペンタプリズムを組み込んでいたのです。


しかし、撮像素子が出力する画像の信号を、小型のモニターに出せば、今まで一眼レフが必要としたメカニズムが、ほとんど要らなくなります。測光も撮像素子から出された信号を使う方が、ファインダー内で測定するより、より正確であるように思われます。


これまで一眼レフは、重いシャッターがうるさいファインダー像が見にくい、などと不満を持っていた人には、電子ビューファインダーによって恩恵を受ける事ができるでしょう。ビデオカメラでも、以前は光学式ファインダーを持った機種がありましたが、最近はほとんどなくなってきています。


これでは、デジタル一眼レフとは言わないとおっしゃる方もおられるでしょう。確かにそのとおりです。では逆に、一眼レフのメカニズムは、デジタルカメラに本当に必要なのでしょうか?私は、デジタルカメラに一眼レフは要らないのではないか、と思うようになりました。


そこで次回は、デジタル一眼レフカメラの新しい規格として提唱されている、「フォーサーズ」を検証し、そこで提唱されているデジタル一眼レフカメラの姿を追ってみたいと思います。

89.デジタル一眼レフカメラシステムを考える2: カメラ形式の比較 (2003/05/03)

さて、ここでいくつかのカメラ形式について、その違いを見ていきましょう。デジタルカメラとして、どのカメラ形式が適しているかを考える参考になるかもしれません。


皆さんは、記念写真の時、写真屋さんが、大型の箱のようなカメラを使っていたのを覚えておられますか?頭から黒い布をかぶって、ピントを合わせます。あのカメラを、ビューカメラと言います。正にプロカメラマンの道具と言った感じです。フィルムは、4インチx5インチや、8インチx10インチの乾板を使います。


ピント板は、すりガラスのような物で、布をかぶって、すりガラスに上下逆に写った像でピントを合わせます。カレンダーやポスターなどの、大型写真を撮影するのにも使います。あおりと言う方法を使って、全画面にピントを合わせることができます(パンフォーカス)。シャッターと絞りはレンズに組み込まれており、測光は単独の露出計を使います。プラウベルやカンボと言うメーカーが有名です。


二眼レフは、撮影用のレンズファインダー用のレンズが別々になっており、交換するときは、一体になった2つのレンズを同時に交換します。縦長のデザインで、ファインダーレンズを通った画像は、ミラーを介してファインダーに導かれ、上からのぞき込むのが普通です。測光は、2つのレンズ以外の、別の取り込み窓を使うことがあります。


距離計連動レンジファインダーカメラは、M型ライカに代表される形式ですが、三角法による測距ファインダー内で行います。有効基線長と呼ばれる2つの窓の間隔が、測距の精度に大きく影響します。広角レンズを使ったときの測距精度は、一眼レフよりも高くすることが可能です。


このことは、M型ライカが広角レンズを使う場合一眼レフよりも優れていると言われる理由です。また、レンズの設計も、一眼レフのように大きなミラーがないため、レンズ後玉とフィルム面の距離に制限がなく、設計の自由度が高くなります。


反面、望遠レンズの場合は、ファインダーの枠(ブライトフレーム)が小さくなるため、ライカの135ミリ以上の望遠を使うときは、一眼レフと同じ様な、レフレックスボックスと言うアタッチメントを、使わなければなりません。


距離計連動レンジファインダーカメラは、自動焦点カメラが登場する前に、コンパクトカメラのほとんどが採用していた形式です。自動焦点式コンパクトカメラは、距離計を三角法による自動焦点モジュールに置き換えたものです。


一眼レフは、全ての処理を、撮影レンズのみで行います。撮影レンズを通った画像は、ミラーによってペンタプリズムに導かれ、正転画像として見ることができます。撮影時は、ミラーが急速に引き込まれ、その後シャッターが開き、露光されます。


撮影時に、逆行ならばゴーストやフレアーが出ることがありますが、これらはレンズごとに違った出方をします。一眼レフの最大の特徴は、フィルムに到達する最終的な画像を、ファインダーで確認してから撮影できることにあります。絞りによる被写界深度の効果フィルターワークも、ファインダーで撮影画像を直接確認する事ができます。


また、一眼レフは、測光測距も撮影レンズを通して行うのが普通です。TTL(Through The Lens)と呼ばれ、より正確な計測に役立っています。失敗が許されないプロカメラマンが、一眼レフを好んで使うのには、このような理由があります。


また、一眼レフは撮影用とファインダー用のレンズが同じであるため、幅広い撮影レンズの選択が可能になります。超広角から超望遠まで、撮影レンズを変えるだけで、ファインダー画像もそれに応じて変化します。


さらに、一般撮影は言うに及ばず、接写や複写、商品撮影、顕微鏡撮影や天体撮影など、一眼レフカメラが活躍する場面には限りがありません。正に、全ての撮影に対応できるシステムカメラと言えるでしょう。


以上、カメラの形式の概要と、一眼レフカメラの特徴を説明してきました。そろそろ、私の意図していることに、気付かれている方もおられるでしょうが、次回は、デジタルカメラと銀塩写真の異なる点について、焦点を当てたいと思います。

88.デジタル一眼レフカメラシステムを考える1: 序章 (2003/05/02)

日本の光学技術を語る上で、一眼レフはなくてはならないものです。戦後、それまで官営だった光学機器メーカーが、民間の手に委ねられた後、真っ先に競ったのは、ドイツのエルンスト・ライツ社模倣品の製造でした。


そもそも、35mmの映画フィルムをスチールカメラ用のフィルムとして、24mm x 36mmのライカ版というフォーマットを作ったのが、現在のライカ社の前身であるエルンスト・ライツ社でした。35mmフィルムを使ったスチールカメラのフォーマットには、いくつかのバリエーションがありましたが、現在に至っているのは、ライカ版のみとなりました。


ライツ社のカメラは、後に距離系連動式レンジファインダーカメラと呼ばれるわけですが、1954年(昭和29年)にライカM3と言う機種が発表されると、その完成度の高さに日本のカメラ業界は、ライカの模倣を諦めることになります。それまで、日本製の高級カメラと言えば、ライカと同じカメラ形式で、ライカに追いつくことを目標にしていたのですが、ライカM3の登場でその希望を打ち砕かれたようです。後にM3ショックと呼ばれた出来事です。


このライカM3がどのぐらい完成度が高かったかというと、それから現在までファインダーの光学系に関しては、ほとんど進歩していないことからも、当時の完成度の高さが想像できます。特に、ファインダーの光学系は、その後今日までライカMとして発表されてきた、どの製品よりも優れているとさえ言われています。


さて、日本の光学メーカーは、M3ショックの後レンジファインダーカメラの後追いをやめ、当時まだマイナーなカメラ形式であった一眼レフカメラの開発に力を注ぎます。やがて、ニコンFというカメラが、アメリカのエベレスト登頂隊に採用され、その頑丈性を世界に広めることとなりました。


さて、その後ニコンは、その次世代の一眼レフカメラ、ニコンF2で、システムカメラとしての完成を見ます。あらゆる写真表現の可能性に答えることのできる、ボディー・レンズ・アクセサリー群を揃え、内外のプロカメラマンに圧倒的に支持されるようになります。


一方、キャノンも一眼レフに注力し、システムカメラとしてのキャノンF1と、そのレンズシステムであるFDレンズ群を完成させていきます。このFDレンズ群は、カラー撮影における色バランス(カラーコントリビューション)を重視し、プロが同じフィルムにおいて様々なレンズを交換して撮影しても、同一のカラー再現ができることを目指しました。こちらもニコンと同様に、プロカメラマンの支持を受け、キャノンF1システムとして完成させていきます。


ニコンとキャノン以外では、旭光学(ペンタックス)、ミノルタ、オリンパス、そしてコンタックス(ヤシカから京セラ)が、システムカメラとして一眼レフを充実させていきます。日本の光学メーカーは、長い年月を掛けて完成した一眼レフシステムによって、世界中の高級カメラの市場で、圧倒的な支持を受けるのです。


すなわち、一眼レフは、日本の光学メーカーにとって、成功体験そのものなのです。デジタルカメラ時代を迎えた今、各メーカーは一眼レフシステムの中に、デジタルカメラを取り込もうとしています。そして、デジタル一眼レフカメラも、これまでと同じ様なシステムカメラとして、提供されようととしています。


さて、システムカメラという場合、その構成要素としてのレンズの意味について、少し触れておきたいと思います。写真は撮影するときは、レンズで決まると言われます。写真の画質・ボケ味・遠近感など、写真表現上の重要な要素がレンズによって決まります。


プロの中には、戦前のレンズをいまだにポートレートなどで使っている例が、数多くあります。このレンズの味を、システムカメラとして有効に利用することができるかが、一眼レフを考える上で重要になります。そして、一度手に入れたレンズをいつまでも使い続ける事ができることが、システムカメラたる所以です。


メーカーにしてみれば、レンズをたくさん揃えているユーザーは、簡単に他のメーカーに乗り換えることができなくなるので、ユーザーの囲い込みができます。ですから、デジタルカメラの場合も、これまでのレンズの資産を無駄にしないような戦略を考えるわけです。実は、この辺りの話が後で非常に重要になってきます。


さて、次回はカメラの様々な形式を比較して、カメラの構成要素を考えていきたいと思います。

87.デジタル一眼レフカメラシステムを考える: 予告 (2003/05/01)

一眼レフカメラは、本格的に写真を撮ろうとすると、誰もが必ず一度は手にするカメラの代表的な形式です。しかし、その一眼レフも、最初の頃は高価であり、撮影に技術を要した為、プロカメラマンや一部ハイアマチュアの為のものでした。


その後、自動露出や自動焦点の進歩により、誰でも簡単に失敗のない高品質な写真を、撮る事が出来るようになりました。


また、最近は入門機として家族写真を撮る事を主なターゲットにした一眼レフも増えてきた為、フィルム式の一眼レフに馴染んだ人も多くなっています。このような既存の一眼レフのユーザーが、今後デジタルカメラに移行していくとすれば、デジタル一眼レフの市場は広がってくるものと予想されます。


これから数回に渡って、デジタル一眼レフのシステムカメラとしての可能性を探ってみたいと思います。何分手持ちの情報が十分ではない為、私の勘違いなどによって、正確性に欠ける可能性がありますが、その際はどしどしクレームして頂きたいと思います。


では、始めさせて頂きます。

80.ダウンサイジング推進計画3: パソコンからの脱却 (2003/04/24)

サーバー&クライアント、または分散処理と呼ばれるシステムにおいて、パソコンはどのような役割を果たしたのでしょうか?


それまでの、電算室に任せっきりだったデータの処理を、データの使い手(本当にデータを必要としている人)の自由な処理に委ねたという事が、一番大きいのではないでしょうか?それまでは、データの使い手は、電卓ぐらいしか自由にデータを処理するのに使えなかったのですから、パソコンがもたらした功績は大きかったと思います。逆に言えば、そのころから電卓の地位は落ちて、鉛筆並の文房具になってしまいました。


しかし、功績が大きければ、今度は次の段階に進みにくくなります。その一つが、ページと言う概念です。


パソコンの画面も、印刷する用紙も、1ページ、例えばA4のサイズに決められています。パソコンが、その発達の歴史においてドキュメントの作製がメインだった為、1ページごとの物理的な情報の切れ目物理レコードなどと呼んでいました)が、そのまま継承されています。


この事は、大きく2つの弊害をもたらします。



  1. 1ページというサイズは、紙に印刷するのに適している為、いつまでたっても紙をオフィスからなくす事が出来ない。
  2. 1ページという大きさは、その時に本当に必要な情報を記載するには大きすぎる為、無駄な情報も羅列され、そのためのデータベースが肥大化し、なおかつデータベース間の融合を図りにくい。

この2に関して、もう少し説明をすると、1ページの中には、論理的に同じ種類のデータが並ぶ訳ですが、実際に同時に必要になる情報が、複数の論理情報にまたがる場合、複数のページを同時に参照しなければならないという事です。まさに、Windowsで複数のスクリーンを立ち上げている様を思い浮かべて頂ければ、わかりやすいと思います。


この1ページにこだわるとどうなるか?その究極の姿は、タブレットPCです。まさに、1ページがそのまま形になったパソコンです。確かに、スタートレックのカーク船長は、それらしきものにサインを求められています。これもパソコンの一つの形として、あっても良いとは思います。


しかし、1ページにこだわらなければ、パソコンをもっと小さく出来るのではないか、つまりパームを含めたPDAのサイズのものに、パソコンを置きかえる事が出来るのではないかと考えています。


でも、ただ小さくしただけでは、不便さだけが目立ってしまい、結局使われる事はありません。何らかの、アイデアが必要です。


ウェブページで、1ページを使いやすいように分ける時、フレームを使いますね。フレームの定義は、いろいろあるのでしょうが、ここでは、ページより小さい単位の物理的な情報の単位とします。


ページからフレームへ転換する事が、パソコンからパームへのダウンサイジングを実現させる為の鍵になります。次回は、「フレームの勧め人間の知性を問う」です。