387.ナパ・ワイナリー紀行3: オーパス・ワン (2004/09/30)

ロバート・モンダヴィのワイナリーのすぐ斜め向かいに、オーパス・ワン(Opus One)はあります。今のカリフォルニアワインを語る上で、オーパス・ワンは欠かすことができません。


カリフォルニアワインの父と呼ばれるロバート・モンダヴィと、フランスのボルドー・シャトーワインのバロン・フィリップの、ジョイント・ベンチャーとして紹介されてからまだ4半世紀しかたっていないにもかかわらず、カリフォルニアワインの中で不動の地位を確立しています。


2人が1970年にハワイのワインコンベンションで出会ったのが、共同事業のきっかけであったと言います。その8年後、ボルドーに集う2人が、事業の骨子を決めるのに1時間もかからなかったといいますから、よほど意気投合したのでしょう。


ハイウェイ29号線から眺めるワイナリーの建物は壮観です。神殿や古墳に似ていると言われるようですが、サンフランシスコの銀行なども手がけた建築家スコット・ジョンソンによる建築物は、ゲートを車でくぐることを一瞬躊躇させるほどの存在感に満ちています。


内部に入ると落ち着いた雰囲気で、どこかの豪邸に招かれたかの錯覚に陥ります。オーパス・ワンのテイスティングは、開始時間がグループごとに決められ、時間が来るとモダンな大理石張りの空間に案内されます。


グラス1杯、25ドル!普通なら「高い!」と言って帰るところですが、「オーパス・ワンに出会えるだけ幸せである」とまで言われるそうですから、ここまで来たら奮発してみましょう。


ロバート・モンダヴィで試したワインをさらに研ぎ澄ましたかのような、見事なCabernet
Sauvignonです。
華やかさはこちらが勝っているでしょう。なるほど確かに、ワインの味や香りを味わう以前に、幸せな気分になってきます。


テイスティングに使われていたワインは、1999年2000年のものでしたが、最近のビンテージで優れているのは1995年1997年のものとの事で、これはナパのどのワイナリーでも同じ事を言われましたので、カリフォルニアで作柄が良かった年なのでしょう。


ここのワイナリーで試飲している他のお客さんは若い人たちが多く、家族連れはほとんどいません。ワイナリー・ツアーの途中に気軽に立ち寄るようなワイナリーではないようです。確かに、お土産に1本買って帰るというのも気安くできる訳ではありません。その代わりにオーパス・ワンのグラスが気に入ったので、記念に買い求めて外に出ました。


きれいに整備されたぶどう畑が見渡せる丘の上でしばらく記念写真を撮っていると、テイスティングルームで一緒だったお客さんたちがリムジンに乗って帰って行かれました。


この建物は建築的な美しさを誇るだけではありません。ワインの製造過程において、通常使われているポンプの代わりに、重力を利用して自然に落下させる様に設計されているそうです。ワインを丁寧に扱うことによって、華やかさが増すのだそうです。


ワイン作りの理想を求め惜しげもなくお金を注ぎ込み、コンセプトをそのまま具現化したこのワイナリーがこれから長い年月を刻んでいく時、歴史に残るすばらしいワインを残していくに違いありません。

386.ナパ・ワイナリー紀行2: ロバート・モンダヴィ (2004/09/29)

まずナパのワインを語る上で忘れてはならないのが、今日ご紹介するロバート・モンダヴィ(Robert Mondavi)でしょう。設立されたのが1966年と比較的新しいにもかかわらず、カリフォルニア・ワインを一級品として世界に知らしめたことにより、「カリフォルニア・ワインの父」と呼ばれています。


ステンレスタンクによる低温発酵と、フランスの伝統的なオークの樽による熟成方法を組み合わせたのを始め、1990年代からはNASAの衛星写真によってぶどうの健康・生育状態をワイン作りに生かしてきました。伝統的な手法と最新の技術の融合によって、肥沃なカリフォルニアの土地に合ったぶどう作りを行い、最高のワインを目指したのです。


サンフランシスコからゴールデンゲートブリッジを渡って80Km程北上すると、ナパ・バレーに到着します。すでにあたりは一面のブドウ畑です。ハイウェイ29をさらに北上するとOakVilleと言う町にロバート・モンダヴィのワイナリーがあります。


優雅なたたずまいの建物には、いつも多くの観光客が訪れています。ナパでナンバーワンと称されるワイナリーツアーは人気があります。ワイナリーの歴史からワイン作りの全工程、最後にテイスティングとワインのお土産付きと来れば、一度試しておく価値はあるでしょう。


工場見学はさておき、とにかく試飲がしたい場合は、テイスティングルームに直行するのもよろしいかと思います。(かく言う私も直行しました。) テイスティングには3つの部屋が用意されていて、それぞれ試すことができるワインのグレードが異なります。


1つ目の部屋はワイナリーの入り口に一番近く、テイスティングは1人7.5ドルワインショップも兼ねてカジュアルな雰囲気です。ただ、テイスティングできるのは普及価格帯のワインに限られます。2つ目の部屋はもう少し落ち着いた雰囲気で1人15ドルお客さんも落ち着いてワインを味わっておられる様子です。


しかしせっかくここまで来れば、あまり日本ではお目にかかれないワインを試してみたいものです。そこで3つ目の部屋でテイスティングと参りましょう。この部屋は、どこかのお屋敷のパーティーに招かれたような雰囲気があり、お客さんも腰を落ち着けて談笑しています。


古くて大きな皮製のテーブルと椅子があり、暖炉の灯が暖かい雰囲気をかもし出しています。


テイスティングできるワインは、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの中でも選りすぐったものばかりです。ワインショップで1本150ドルはするワインを4種類テイスティングできて1人30ドル。ほとんどがCabernet Sauvignon(カベルネ)ですが、Chardonnay(シャルドネ)も選ぶことができます。


まずは1999年物2000年物のそれぞれ2種類のぶどう畑から作られたCabernet Sauvignonをテイスティングしてみました。


はっきり言ってショックを受けました。これまでにこれほどタンニンの渋みが際立ったワインに出会ったことがありませんでした。いかにもこれから年数を重ねるごとに深みを増していくことを予感させます。カリフォルニアワインの真髄を見たような気がしました。


その後、Chardonnayも追加でテイスティングしてみましたが、Cabernet
Sauvignon程の特徴は感じられなかったのが少し残念でした。


ロバート・モンダヴィによるワインの中で、日本で手に入れやすいものとしては、Woodbridgeと言うブランドがあります。本来ロバートの親たちが1800年代にイタリアから入植した町の名前なのですが、ロバート・モンダヴィのサブブランドとして、求めやすい価格で品質の良いワインを提供しています。


カリフォルニアワインを世界に知らしめたロバート・モンダヴィは、ナパ・バレーのワイナリーの中でも、その代表格と言えるでしょう。

385.ナパ・ワイナリー紀行1: 前書き (2004/09/28)

私が初めてワイナリーに行ったのは、ニューヨーク州フィンガーレークエリアでした。Seneca Lake周辺に数多くのワイナリーが集中しており、秋のぶどうの収穫のシーズンには多くの観光客が訪れていました。


各ワイナリーで使われているワイングラスには、"UNCORK Newyork !"と言うキャッチフレーズがワイナリーのロゴと共に、サンドブラストで描かれています。記念に持ち帰ったものが今でもいくつか残っており、良い思い出になっています。


しかしUSのワイン雑誌を見ていると、ニューヨークワインはあくまでテーブルワインであり、本格的なワインとしてはカリフォルニア産が良いと書かれています。そこで今度はサンノゼに行ったついでにホテルにあったパンフレットを見て、「ミラソー」と言うワイナリーに行ってみました。


「ミラソー」(”Mirassou")は家族経営のワイナリーを150年間続けてきたUSで最古参のワイナリーの一つです。日本では「ミラス」と表示されていることが多いのですが、現地での発音は「みらっそーぅ」と聞こえます。


以前はUSで一番古いワイナリーだと称していました。しかし、USには禁酒時代があったために、一番古いワイナリーがひとつではなかったのです。創業年が古いワイナリーと、禁酒時代にも舟で沖に出て醸造し、継続営業年数が長いワイナリーがあったためです。そのせいか、最近は一番古いワイナリーだと言うことにあまりこだわっていないようです。


「ミラソー」があるのは、同じカリフォルニアでもサンフランシスコの南側になり、モントレー(Monterey Country)になります。ワイナリーツアーに参加すると、フランス語訛りの強い気さくなおねえさん(本当はおばさんですが)が案内してくれました。ツアーといっても、その時の客は私を含めて3人だけ。


ツアーの途中で、その年に農学部を卒業したばかりと言うかわいらしい女の子が、長靴を履いてバケツを持ってうろうろ歩いているのに出くわしました。どうもバクテリアを使って赤ワインの熟成期間を短縮する実験をしていると言います。熟成が終わればフィルターでバクテリアは取り除くそうですが、実験はうまくいったのでしょうか?


ただ赤ワインはビンテージを特に気にしますから、いくら熟成が早くなっておいしいワインが出来たとしても、年数が経たない限り市場価値は高くならない可能性があります。


やはり一度行った事のあるワイナリーのワインは贔屓にしてしまい、日本でも「ミラソー」を見かけたときは必ず買ってしまいます。皆さんもMirassouをお店で見かけられましたら是非どうぞ。(宣伝してどうする!)


さて、カリフォルニアワインといえば、ナパソノマが有名ですが、昨年秋にナパのワイナリー巡りをした時の様子を、次回から数回に渡ってお伝えしたいと思います。

384 文化資産と保管コスト (2004/09/22)

asahi.comに「昔のCM10万本、廃棄の危機 保管コストかさむ」と言うニュースが掲載されています。1985年以前のCMの原版のほとんどが捨てられる運命にあるそうです。


1985年までに製作されたCMの総数は30万から40万本あり、そのうち現在でもフィルムやビデオで保管されているのが約10万本あるそうです。


ところが保管コストがかさみ、なおかつ視聴が困難になってきているため、廃棄処分が始まっているそうです。


古いメディアで作られたCMを保管するとしても、良い状態で保管するには温度・湿度管理が十分になされていなければなりません。また、再生するための装置をメインテナンスし続けなければならず、旧式の装置を常に動作する状態にしておくのは容易ではありません。


そこで、デジタル化して情報を新しいメディアに移し替えるのですが、コストがかかるため全てのCMをデジタル化するわけにはいかないようです。


古いテレビCMを見ると、当時の生活を偲ばせるものが少なくありません。また、その時代の新製品は人々の憧れでもありましたから、人々の嗜好や生活の水準を推し量る事のできる重要な資料に違いありません。


「タイムマシン」と言う映画で、主人公は未来の図書館の本棚が、ほこりの塊と化した朽ち果てた書物で埋め尽くされているのを見て嘆きます。人類の英知が継承されなかったために、未来の人類は他の動物と同じような野性的な営みに戻ってしまっているのです。


CMのフィルムやビデオを保管コストが高いからと言って廃棄することは、ほこりと化した書物と何ら変わりません。


全てのCMをデジタル・アーカイブとして保存するのは無理でも、博物館などで視聴出来るように今編集しておかなければ、貴重な文化資産を失うことになるでしょう。一刻も早い対応が望まれるところです。

383.デジタルの向こうにアナログがある (2004/09/17)

今日、仕事に帰りに久しぶりに梅田にヨドバシカメラに寄ってみました。相変わらずの混雑ぶりで、特に全店でポイントアップを行っているようで、いつもより多くのお客さんで賑わっていました。


ヨドバシカメラには白物家電と呼ばれる家庭電化製品もありますが、中心はやはりデジタル家電と呼ばれるものでしょう。音楽、写真、ビデオ・テレビ等の何らかの情報を伝達するための製品は、今はほとんどがデジタル技術を駆使したものなっています。


そればかりか、代物家電の中にもマイクロプロセッサーは必ず内蔵されていますから、家電製品の中でデジタル技術を使っていないものを探す方が難しいかも知れません。


デジタルと言う言葉が、一般大衆に対して初めて使われたのは、おそらくデジタル時計でなかったかと思います。「デジタルって何?」と面と向かって質問することがまだ出来たその頃、山口百恵がテレビCMで「デジタルゥーはカシオ♪」と歌っていたのを覚えています。(古い!)


それからCDが普及し、MDが登場すると一気にデジタル製品が溢れ出しました。今では、「デジタルって何?」などと聞くことが出来ないほど、誰もがデジタル家電に埋もれています。


これほどデジタル製品が多くなってきますと、アナログと言う言葉自体が何か古めかしいもののように聞こえますが、今でもデジタル製品の中には必ずアナログ回路が活躍しているのです。

ソフトウェアでいろいろな高級言語が登場しても、ハードウェアを動かす部分でアセンブラーが使われているのと同じように、デジタル製品と言えども電気信号によってハードウェアを動かす回路は、アナログでなければならないのです。


例えば、DVDレコーダーのモーターを動かす場合、実際にモーターの動きは電圧と電流で決まるわけで、それを10Vで0.1Aと決めるまではデジタルで表現できたとしても、モーターにインプットされるのはアナログ信号です。


また、如何にCDの信号を読みとるピックアップの出力信号が、CDの表面に1ビット単位でとして記録されていても、まずアナログの電気信号が出力され、それをアナログーデジタル変換(DAC)を通して初めてデジタル信号になるのです。


しかも、アナログからデジタルへの相互変換に誤差があれば、ただちに音質や画像ノイズになってしまいますから、アナログの回路設計技術の精度は、デジタル製品が高度になればなるほど、より高いものが求められます。


今や表には出てこないアナログ技術ですが、「縁の下の力持ち」としてデジタル製品の発展に貢献しているのです。