555.根が深い「耐震強度偽装問題」 (2005/11/28)

対象となるホテルやマンションの数が増えるにつれ、直接被害を被った個人や企業だけでなく、建物の周辺までを巻き込んで大きな社会問題に発展して来ました。建築確認申請や建築業界が潜在的に持っていたひずみが、一気に表面化したと言えるでしょう。


今改めて考えてみれば、これまでも欠陥住宅や違法建築は、多くの訴訟を引き起こしてきました。業者の認可や建築確認の制度に問題点や矛盾があったことは、これらの訴訟において常に争われてきましたし、何らかの根本的な改革の必要性があることは、数多く指摘されてきました。


今回の偽装問題によって、個々の建築物についての最善の解決を探ることは当然ですが、改めて制度を確立していくという姿勢が欲しいものです。


欠陥住宅訴訟において、建て替えをするか補修に留めるかが議論されることがよくありますが、建築物はたとえ個人が所有していたとしても社会インフラの一部であると見なされ、建て替えによって社会資産が損失を被る場合は、当事者がいくら立て替えを主張しても認められないことがあります。


今回の問題も、欠陥のある社会的資産が気付かぬうちに増長していたのですから、建て替えるより補強による対応が好ましいのでしょうが、それさえも危険性が伴うほどの脆弱さであったようです。


建築における欠陥が明らかになった場合、より厳格な検査制度によって漏れを防げると考えがちですが、なかなか実際は難しいようです。


以前、自宅の建築に際し建築士の方にお話を伺ったのですが、いくら設計者が現場を頻繁に見て回っても、施工する側がコスト削減などの為に手抜き工事を本気ですれば、決して見抜くことができないと聞きました。


もちろん全てに当てはまるとは限りませんが、設計のプロが検査をしても相手も施工のプロですから、うまくごまかす方法を知っているそうです。


住宅は一生に一度あるかないかの大きな買いものです。住宅購入での失敗は、人生の失敗になりかねません。誰もが住まいを安心して手に入れることができると言うもっとも基本的なことを、私たちの社会はまだ満たしていないようです。

531.「敷引き無効の逆転判決」に思う (2005/07/21)

賃貸マンションの退去時に、保証金の中から敷引きと称して一部を差し引く敷引き特約の有効性が争われた控訴審裁判で、神戸地裁は一審の神戸簡裁判決を取り消し、業者に敷金を全額返還するよう命じる逆転判決が出されました。


裁判長が、「賃借人の利益を一方的に害し、消費者契約法により無効である」と判断したと報じられています。


一般的に賃貸契約では、退去時に返還される保証金(敷金)と、返還されない礼金(敷引き)があります。今回の判決は、このうち「敷引き特約」の無効を認めたものですが、慣例的に広く適用されてきた敷引きの制度に一石を投じたことによって、今後不動産業界に波紋が広がって行く事が予想されます。


業者によっては、保証金が一切返還されないこともあるようです。あらゆる部屋の汚れや損傷を指摘され、改装の為に保証金まで全額取られてしまうケースは、決して珍しくありません。


この判決によって、業者側に一方的に有利な保証金制度が、少しは改善される事を期待したいものです。


ただ、判決の全文を読んでいないため断言は出来ませんが、今回の判決は、あくまで消費者契約法に基づく契約に問題があったと言うことを、指摘したに過ぎないように思います。


つまり、賃貸契約において慣習的に行われている、「賃料以外の賃貸人のお金を改装費へ充当することの妥当性」については、何ら司法による判断がなされていないのではないでしょうか?


賃貸契約における保証金に関しては、USに住んでいた時に次のような経験をしたことがありました。


気に入った賃貸のコンドミニアムが見つかって、初めて賃貸契約を結ぶために地元の不動産屋のオフィスに行った時のことです。


何せ契約社会であるUSのことですから、契約書を読んでいなかったでは済まされません。特に保証金の扱いに注意しながら契約書を確認しました。


USでは礼金や敷引きの制度はなく、デポジットと呼ばれる保証金があるだけです。通常1ヶ月の家賃に相当する金額を、入居時に払うことになります。


賃貸契約を解除するとき、どのような条件で保証金が返却されるかを、おそらく私がしつこく尋ねていたのでしょう。その営業レディは、「安心して良いですよ。賃貸人の権利は法律で保護されていますから。」と言いながら、その州が発行している法律レターのコピーを持ってきてくれました。


概ねその内容は、次のようなものでした。



  1. 保証金(デポジット)を預かるのは、賃貸料の滞納があったときに補填する為である。
  2. 入居・退去するときは、不動産会社の担当者が立ち会いの元で、建物・部屋に損傷がないことを確認し、ある場合は双方同意のもとで内容を確認し記録する。
  3. 使用者の故意による損傷に関しては、使用者の責とする。
  4. 建物・部屋を通常の方法で使用したために生じた汚れや劣化に関しては、使用者はその責を負わない。

つまり、「何らかの原因で壊した部分に関しては、その修復は壊した賃貸人が修理しなければいけないが、通常の使い方による汚れやへたりに関しては、賃貸人は入居前の状態に戻すための費用を負わない」と言うことです。


これにはもっともな理由があります。


もし、賃貸人が退去時に、入居時と全く同じ状態(同じ新しさ)に復活する義務があるとするならば(つまり常に物件を同じ新しさに保たなければ,
同じ賃料をオーナーが得ることができないと言うのなら)、オーナーは今の賃貸人から毎月同じ賃料を受け取る事ができなくなるのです。


もし2年間賃貸するとして、最初の1ヶ月より最後の1ヶ月の方が、おそらく部屋は自然に汚れているでしょう。壁紙や床が汚れたり傷が付いたりするのは当然です。


オーナーはそれを承知で毎月同じ賃料で貸しているのです。もしその自然な汚れを問うのなら、賃料を毎月下げていく必要があると言うのです。


自然に古くなり汚れてくるのは当然のこととして、何年かの後に改修するなどの費用はオーナーが賃料に含めて考えておけばよいと言うことなのでしょう。


日本では、退去後に改装が必要だと言って、保証金を全額返さないばかりか、それ以上の法外な改装費用を請求する業者もいると聞きます。


不動産関連の裁判沙汰が後を絶たない今の日本は、安心して住むことが出来る社会とは言い難いでしょう。


今回の判例によって、賃貸契約で泣き寝入りする人が減ることを期待したいものです。

524.今時消費動向 大衆から階層へ (2005/07/06)

日経ビジネス7月4日号に、「反古典の消費学」という特集が掲載されています。1億総中流と言われた時代は過ぎ去り、階層化が進んだ現在、大衆をターゲットとしたマーケットは大きく様変わりしたと書かれています。


「いつかはクラウン」と言うCMがありました。大衆車といわれたカローラに始まり、次にコロナ、マークIIと買い換えていき、最後はクラウンであがりと言う消費パターンは、誰もが年々所得を増やしていた時代には相応しかったのでしょう。


階段消費と呼ばれるこのパターンも、所得格差が開くにつれて過去のものとなり、今では階層消費の時代に入ったと言われています。


少し前までは、大衆のど真ん中を目がけてストライクを投げれば、間違いなく大当たりしていたのに対し、今はそれぞれの階層に対して、別々の製品を提案をして行かなければならなくなったようです。


パームの世界で言えば、たくさんの製品を市場に投入しながら、個々の製品の特徴がうまく消費者に伝わらなかったソニーのクリエのやり方より、Zire, Tungsten, LifeDrive, Treoと一見バラバラのように見えながら、それぞれ別の階層のユーザーをターゲットにしているpalmOneの方が、今の消費動向にマッチしているのかも知れません。


一方、階層に分かれてきたそれぞれの消費者が、それぞれ明確なポリシーを持って商品を選んでいるかというと、そうでもなさそうです。


女性用の白のカーディガンに青緑色のネックレスをセットにしたものが、単体で買うよりも高いにも関わらずよく売れた例があるそうです。以前ならコーディネートを楽しみながら別々に購入したものを、なぜセットで買うのか?


どうも自分で選ぶことが出来なくなってきているそうです。あるいは、自分で選んだものに自信が持てないと言います。


昔のように、みんなが同じ色、同じ形の服を着て歩いていたのなら、真似をしていれば済んだものが、今や大衆がいなくなってしまいましたから、自分なりの個性を表現しなければならなくなってしまったのです。個性が無い人でも。


以前、「351.選択肢と幸福感」という雑記の中で、選択肢が多くなればなるほど希望のものが見つかる可能性が高くなるはずであるが、最適なものを探し出すことが大変骨の折れる仕事になってしまう、と言う記事を紹介したことがありました。


さらに、選択した後で後悔したくないと考える人は、選択すること自体に苦痛を感じるようになると言うことでした。


あらゆる情報が溢れかえり、自分ではどれを選んだらよいか判断が出来なくなって来たときに、商品を提供する側が、選択の幅を狭める手助けをしてあげるのが、今時の消費者に対する新しいサービスとして注目されつつあるようです。


iPod shuffleが、覚えきれないほどたくさんの曲の中から勝手に選んでくれると言うのも、最適な選択をすることが苦痛になって来たからではないかと書かれています。


パームは、いろいろな使い方ができてとても便利なものです。パームで何をしたいか自分で決めることが出来る人には、その柔軟性が魅力になるでしょう。


しかし、選択の幅を狭めてあげた方が安心して手にすることができる人も、多いのではないでしょうか?


大衆がいなくなり、消費者はもはや一枚岩ではありません。パームコンピューターが、それぞれの階層に訴える魅力を持つ商品に、生まれ変わることは出来ないものでしょうか?(一体誰に問いかけているんだ?)

523.GMは大丈夫か? (2005/07/02)

経済のことは疎いPalmTrotterでありますが、さすがに心配になって参りました。asahi.com「米GM、6月新車販売が41%の急伸 大幅値引きが奏功」などというニュースが掲載されています。


GMと言えば新車販売の低迷が長引いており、会社の存続が危ぶまれていると聞いていたのですが、新車販売が41%増とは一見良いニュースのように聞こえます。


しかし、パームが日本市場で投げ売りし始めたときも、売り上げだけは伸びていましたから、何となく悪い事が起こる前触れではないのかと、勘ぐりたくなってしまいます。


今回の売り上げ増は、在庫減らしのために値引きを大幅に増やした効果だと言いますから、決して業績が立ち直った訳ではありません。既に数十万円の値引きを行っていたのに加えて、5万円から10万円を上乗せたそうですから、一時的な現象と見るべきでしょう。


USでは、トヨタやホンダの車に安定した人気があり、GMやフォードからシェアを奪ってきました。確かに日本製の車に乗った後にUS製の車に乗ると、運転することがイヤになってしまうことがあります。


USに行ってレンタカーを借りるといろいろな車に乗ることが出来ますが、シボレー(GM)キャバリアもよくレンタカーで出くわす車種です。


15年ぐらい前にUSでレンタカーとして借りたときに、何と出来の悪い車だと思ったものです。少し凸凹したカーブでは後ろのタイヤが飛び跳ねているのが分かりますし、外見に較べて中が窮屈でした。内装もかなり安っぽく、同じクラスの日本製、例えばトヨタのカローラに較べてはるかに見劣りがしたものです。


2年前の旅行で再びレンタカーでキャバリアに乗ったのですが、相変わらずの出来の悪さで、一向に改善されている兆しがありません。おそらく日本車に一度でも乗ったことがある人は、この車を購入する事はないでしょう。


革新的な取り組みによって、一時は日本車の品質に迫るとさえ言われたサターン・ブランドも、その経験をGMの他のブランドに十分に活かすことが出来ませんでした。


USに1年住んだ後日本に帰るとき、新車を現金で購入したフォードエスコートを売りに出しました。12,000ドルで買った車を、7,000ドルぐらいで売ろうとして新聞に広告を出していたのですが、なかなか売れません。


一度、奥様のセコンドカーとして買いたいと言う方が見に来られて試乗されたのですが、中古に7,000ドル出すぐらいなら、新車にローンを組んだ方が結局安くなると言われました。当時、フォードは新車販売に強烈なインセンティブを付けていたのです。


1年経った中古より新車の方が安いと言うことは、かなり無理な販売を強いていると言うことになります。優勢である日本車に抵抗するために、一時的に販売をてこ入れするのなら仕方がないでしょう。


しかし、商品価値を高めることもしないでそのようなことを繰り返していては、USの自動車産業の過去の財産を取り崩すだけです。


今のニュースを見ていると、GMの過去の財産が底を突きかけているように見えます。今やGMがどんなに新しい新型車を出すかと言う自動車産業としての興味より、金融市場におけるGM株や債券が今後どのような値を付けるかと言うことに、興味が移ってきていると言われています。


今回、GMの売り上げが飛躍的に伸びた事が、パームの日本市場からの撤退の時と同じように、落ちる前の線香花火でないことを願いたいものです。

515.JAL 多発するトラブルの次に来るものは? (2005/06/22)

日経ビジネス6月20日号に、「御巣鷹山事故から20年 JAL 現場不在の咎」と言う記事が掲載されています。1985年日航ジャンボ機事故から今年で20年になりますが、最近トラブルが続いているJALに何が起こっているかを伝えています。


昔の日本航空は、5年ごとに墜落事故を繰り返していたそうですが、1985年の事故以来墜落事故は起きていないそうです。一見事故を契機に安全性を確立したかのように見えますが、最近のニュースを見ているとそうでもなさそうです。


1985年以前は日本航空が日本の国際線の空を独占してきましたが、1985年からの20年は航空業界に自由化の波が押し寄せ、日本航空もその中で競争に巻き込まれていきます。


国内では全日空が国際定期路線に進出し、さらに海外有力航空会社と提携することによってシェアーを伸ばしています。今やほとんどの経営指標で全日空に負けてしまっているにもかかわらず、未だに日本航空がナンバーワンであるとの自負だけが蔓延っているそうです。


数々の整備不良や乗務員のミスが、特にここ数ヶ月で激増しています。今の日本航空は、過去に消え去った、世界最大を誇ったパン・アメリカン航空の末期の姿に似ていると言います。当時のパン・アメリカン航空内では、決して潰れる事はないと信じられていたそうですが、同じことが日本航空に起こらないとは限りません。


特に、単なるミスの連続だけでなく、整備員の故意によるワイヤーの切断が発生する状態では、もはや安全を語る以前の問題でしょう。その整備員を監視するため、飛行機の整備場に14台もの監視カメラが設置されていると聞いて、まだ日本航空に乗り続けるのんきな乗客がどれほどいるでしょうか?


かつては人気があった日本航空を使ったパックツアーの売れ行きが良くないそうです。旅行会社もできれば他の航空会社を使いたいと言っているそうです。


日本航空でも運行の定時性に力を入れるあまり、安全がおろそかになっていると考えられています。JRの脱線事故の原因と共通する部分が少なくありません。


航空自由化によって、世界中の航空業界は大きく変化しました。かつては格安航空券でしか乗らないと言われたアエロフロート大韓航空が、今や安全性を誇る航空会社に変貌していますし、サービスに関しても、キャセイ・パシフィックユナイテッドなどが、かつてとは見違えるほど良くなったとされています。


しかし一方では、サベナ・ベルギースイス航空のように、実質的に消え去った航空会社があるのも事実です。


日本航空は日本エアシステムと合併して新生日本航空となりました。国内線と国際線の併せ持つ利点を生かして、甦ることができるのでしょうか?


尾翼に映える太陽が、落日の如く落ちて消えてしまうことがないように願いたいものです。