“35.なぜデビットカードが普及しないのか?”、“53.なぜクレジットカードが使われないのか?”と来ましたので、その次はキャッシュについて語らなければならないでしょう。つまり紙幣・硬貨で失敗の代表として、2000円札がなぜ流通しないかと言う疑問に、私なりに答えてみたいと思います。
2000円札は使いにくいという意見をよく耳にしますが、なじみがない券種は、支払いの時に計算するのが面倒ですから、使いにくいのは確かです。
そもそも日本の紙幣や硬貨は、1、5、10の単位のものしかなかったのですから、急に2の単位を使いこなすのは難しいですね。
紙幣や硬貨の種類は、どのように決めるのがよいのでしょうか?要するに、支払いが簡単にできればいいのですが、そのためには2つの条件があります。
- できるだけ少ない数のお金で払えること
- できるだけ少ない種類のお金を用意すること
例えば、798円を支払わなければならないとき、798円玉があれば1つの硬貨で支払えますが、同様に392円とか945円を支払うには、392円玉や945円玉を作らなければなりません。お金の種類が多くなりますし、いつも財布にすべてのお金を持っておくのは困難です。
あるいは、すべて1円玉で支払えば、お金の種類は1種類で済みますが、798円を支払うのに798個の硬貨が必要になります。数多くのお金を持ち運ばなければなりませんから、財布が大きくなってこれもまた不便です。
つまり、いろいろな金額を、できるだけ少ないお金の数と種類で表現できればよいのです。
今、1円と10円硬貨だけが既にあります。それらの中間的な硬貨を、新たに作るとしたら何円の物を作ればよいでしょうか?
そこで、次のような10円までの簡単なシミュレーションをやってみました。
既に1円、10円の硬貨はありますから、新しい硬貨は、2円から9円までのいずれかになります。
その新しい硬貨があったとき、何個の硬貨で、それぞれの金額が払えるかを表にしてみました。少ない数の硬貨で払うことができる方が、良いとします。
”1円のみ”は、1円硬貨と10円硬貨しかない場合、”2”から”9”はそれぞれの硬貨を新しく作った場合の、支払う金額ごとの必要枚数を示します。
支払う金額 |
1円のみ |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
2 |
2 |
1 |
2 |
2 |
2 |
2 |
2 |
2 |
2 |
3 |
3 |
2 |
1 |
3 |
3 |
3 |
3 |
3 |
3 |
4 |
4 |
2 |
2 |
1 |
4 |
4 |
4 |
4 |
4 |
5 |
5 |
3 |
3 |
2 |
1 |
5 |
5 |
5 |
5 |
6 |
6 |
3 |
2 |
3 |
2 |
1 |
6 |
6 |
6 |
7 |
7 |
4 |
3 |
4 |
3 |
2 |
1 |
7 |
7 |
8 |
8 |
4 |
4 |
2 |
4 |
3 |
2 |
1 |
8 |
9 |
9 |
5 |
3 |
3 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
10 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
合計枚数 |
46 |
26 |
22 |
22 |
26 |
26 |
28 |
32 |
38 |
この結果から見ますと、2円玉や5円玉を作るより、3円玉か4円玉を作ったほうが、少ない数の硬貨で支払うことができるようです。
ここでは、1円から10円までを支払う場合について考えましたが、10円から100円、100円から1000円、1000円から10000円まででも同様です。1000円から10000円の場合は、1000円未満は硬貨で支払うので、1000円単位で考えればよく、3000円札か4000円札を作るのが一番支払う枚数が少なくなります。
実は、この支払いを少ない硬貨・紙幣で支払うと言う問題は、金額を指数であらわすと簡単に求めることができます。まず、最小の貨幣を1円、最大の貨幣を10000円と決めた時、それぞれ100と104になります。次にあれば便利な貨幣は、指数的に1円(100)と10000円(104)の中間である、100円(102)になります。
その次にあれば便利なのは、1円(100)と100円(102)の中間の10円(101)と、100円(102)と10000円(104)の中間の1000円(103)です。ここまでで、1円、10円、100円、1000円、10000円が揃いました。
さて、その次にあれば便利なものを考えますが、1000円と10000円の間を例として考えると、1000円(103)と10000円(104)間で103.5になりますから、1円未満を切り捨てると3162円です。
ただ、実際の問題として、他の額面の貨幣と交換する時に、単純な整数枚で交換できなければ互換性に欠けますので、2000円、2500円、5000円が妥当な候補になります。
5000円(約103.7)、2500円(約103.4)、2000円(約103.3)のうち、理想である103.5に一番近いのは2500円になります。2000円と5000円は同じだけ理想から離れています。
もし、2500円札を発行していれば、支払い枚数を減らすことができたでしょう。しかし、2500円はどうも中途半端です。日本では、クォーター(4分の1)は昔からそれ程親しみがありません。最近になって会社の業績が四半期ごとに発表されていますが、これもUSに合わせたのでしょう。ですから、2500円札は残念ながら没です。
そうすると、5000円札はすでにありますから、2000円札しか新しく発行できる券種はありません。そこで2000円札が発行されたと言う事だと思います。そして、その後どうなったかは皆さんご存知の通りです。なぜ2000円札は流通しないのか?これでやっと結論にたどり着きます。
もうお察しの方もおられると思いますが、さっきも指摘したとおり、2000円札と5000円札は、紙幣の券種の理想から同じだけ離れているのです。つまり、2000円札が新たに発行されても、支払いに必要な枚数はそれ程改善されないのです。このことが、2000円札が流通しない原因のひとつであると考えられます。
確かに、1000円札、5000円札、10000円札に加えて、2000円札が増えたのですから、支払う時に使う紙幣の組み合わせ方が増えたのは確かです。しかし、結果として2000円札ができたからと言って、支払う紙幣の枚数は大きくは減らないのです。
もちろん、全ての券種がいつも財布に十分な数が用意されているとは限りませんし、おつりをもらう場合も考えなければならないでしょう。支払いの必要になる金額も、ランダムに発生するとは限りません。実際はもっと複雑な要因が絡むと思われます。
そもそも5000円札は、1000円札や10000円札に比べ、以前から流通量が少なかったのです。それだけ使いにくい券種なのです。そこへ、同じような2000円札を投入したのですから、今の結果は当然のことかもしれません。
敢えて、2500円札を発行していたら、どうなったかと言うことには興味があります。計算が難しくなるため、やはり使われなかったでしょうか?それさえ我慢できれば、2500円札の方が5000円札より流通していたかもしれません。
2000円を流通させると言っても、もともと素性の良くない券種ですから、自然と流通が増えるのは無理だと思います。やはりここは、キャンペーンでも張って、無理やり使ってもらうしかないでしょう。例えば、今なら2000円札が10%増量、2200円分の買い物ができるキャンペーンなどいかがでしょうか?一気に銀行に眠っている2000円札を流通させることができるのは請けあいます。無茶な話ですが。
ところで、ここまで読んでこられた方の中で、USの25セント硬貨(クォーター)のことを思い浮かべられた方も多いかもしれません。25セント硬貨は実際にも使いやすく、このためかどうか解りませんが、50セント硬貨はほとんど使われません。ただ、この4分の1ドルを使いこなしているアメリカ人には、使いこなせるだけの秘密があるのです。それは、また別の機会に書いてみたいと思います。