286.走って投げて打つロボット (2003/12/18)

ソニーのロボットが走って投げれば、東大のロボットがそれを打つ。そろそろ、ロボットによる野球チームが組めそうです。asahi.comに掲載された2つのロボットの記事が、新しい時代の予感を感じさせます。


ソニーのロボットが動くビデオを見ていると、かなり敏捷性が進歩して来たと感じます。初めて2足歩行ができた時から、それほど時間が掛からなかったように思います。


歩いたり走ったりするためには、多くの神経細胞からの情報を処理する必要があります。ただプログラムされた通りにシーケンシャルに制御するのではなく、その時々の状況をセンサーによって検出し制御系フィードバックすることによって、いろいろな状況でも姿勢を維持することができます。


このフィードバックを含む自動制御大変難しい技術です。フィードバックの量が適切でないと発散したり、また逆に発振したりしてなかなか安定状態に持っていくことができません。


さらに、迅速に動くためのモーターや伝達系の設計も難しいものでしょう。これらがすべてうまくかみ合って、走ったり投げたりできるようになるのだと思います。


2001年には映画「2001年宇宙の旅」のようになっていませんでしたし、アトムの誕生日にはアトムのようなロボットは存在していませんでした。しかし、今回のソニーのロボットの動きを見ていますと、これからの進歩は意外と速いのではないかと思いました。


例えば、今は人間と同じように歩いたり走ったりすることを研究していますが、次の段階になって空を飛んだり海に潜ったりするようになると、あっという間に人間の能力を超えたロボットが現れる可能性があります。


コンピューター将棋の腕前もどんどん上がってきているようですから、少なくとも頭脳的・肉体的に普通の人間を超える能力を持ったロボットは、それほど年数が経たないうちに実用化されるのではないでしょうか?


あなたは、ロボットと競い合って勝ち続ける自信がありますか?

284.無沸騰で省エネの茹で麺機 (2003/12/18)

最近は、もはや当たり前過ぎて話題にもなりませんが、パスタの茹で加減は「アルデンンテ」が良いと言われています。アルデンテに関して講釈するほどパスタには詳しくないのですが、ふにゃふにゃであったり芯の残ったパスタが出てきた時は、味以前の問題として苦痛を味わうことになります。


USなどでスパゲッティーを食べると、たいていはふにゃふにゃの麺が出てきます。あれだけ肉の焼き方にいろいろ注文できるのですから、麺の茹で加減もこだわってくれれば良いのにと思いますが、そもそも茹でてからかなり時間がたったものを使うようですから、一切こだわっていないのでしょう。諦めた方が良さそうです。


日本でも、如何にもこだわりを持っているといった評判のお店でスパゲティーを期待して待っていて、鋼のように硬い麺(少し言い過ぎですが)が出てくることがありました。


茹でた後にもう一度フライパンで炒めるからと、堅い目に茹で上げているつもりでしょうが、油で炒めたら確かに火は通りますが麺を茹でるのとは違いますから、芯の硬い麺はそのままか、あるいはさらに硬さに磨きがかかって登場する事になります。


このような麺が、如何にもイタリア料理専門店を標榜するお店で出された時の失望感は、もうそのお店に2度と訪れないようにするには十分です。


意外とチェーンで展開しているスパゲティー屋が、マニュアルで茹でる時間がきちんと管理されているからか、茹で加減が良かったりします。そこで登場するのが「茹で麺機」です。


日経BizTechに「96度でパスタを茹でる、無沸騰で省エネの茹で麺機」と言う記事が掲載されていますが、それまでの沸騰したお湯で茹でるのを改め、96度沸騰する直前の温度で茹でるようにした茹で麺機が紹介されています。


ご存知のように、水は100度で沸騰します。そしてその温度を維持するために沸騰し続けるようにしていたのですが、それでは気化熱を補給し続けなければならないのでエネルギーを大量に必要とします。さらに、蒸発した水を追加して行かなければなりませんから、水道代もかさみます。


この新しい茹で麺機では、使用する水の量は5分の1以下光熱費は20-30%で済むそうです。また、沸騰することによって麺が攪拌され、麺がくっつくのを防いでいたのですが、その代わりに噴流モーターを追加して解決しているそうです。


96度と低い温度になったため茹で時間が少し長くなるそうですが、食感には大差ないそうです。そのうちスパゲティー屋さんの前には、「当店は地球温暖化防止の為に省エネを実践しております!」、なんて掲げられるかもしれませんね。

282.電波はブレーキをダメにする (2003/12/15)

違法無線機の高出力電波によって、バスのブレーキが利きにくくなり事故につながった事があるとして、バスのメーカーがブレーキ部品の交換に応じているそうです。最近のバスは電子化が進んでいますから、強力な電磁波によって制御回路に余計な電流が流れてしまったのだと思われます。


もう30年近く前のことですが、今はほとんどの車に採用されている電子式燃料噴射装置で、同様のトラブルが起こった事がありました。当時、まだキャブレターが主流だった気化器が、電子化され始めた頃でした。


EGI(Electronics Gas Injection)EFI(Electronics Fuel Injection)などの呼び方で、一部の先進的な車種に採用されていたのですが、アマチュア無線などの電波を近くで発射されると、エンジンに異常をきたすことが報告されていました。違法電波に限らず通常の出力の無線機を積んだ車が隣に並ぶだけでも、問題が発生したそうです。


電波によって回路に起電力が発生すると正常な機能が損なわれますから、電子機器には電波を浴びないように、電磁遮蔽(シールド)などの処理が必要になる事があります。


今回の問題は、特別に大きな出力の違法無線機が原因らしいですが、大きい出力の電波と言えばこんな話もありました。


大阪の生駒山上には多くの放送局のアンテナがあります。その中で最も出力の大きいものがラジオのNHK第一・第二放送局でした。500Kwの出力で放送すると、生駒山の近くの街灯が音声に合わせて灯っていたそうです。


また、そのような電界強度の強いところでは、ワンターン(ワンタンではありません)ランプと言うものが光るのです。ワンターンと言うのは1回のターンと言うことで、豆電球の両端子に、銅線を直径10センチぐらいの輪にしたもの(腕輪のような感じです)を接続した物を、ワンターンランプと言います。


この輪になった銅線の中を磁界が時間的に変化すれば、銅線に電流が流れて電球が光るのです。直感的には有り得ない様に思うのですが、電池も何もない銅線だけで電球が光るのです。


電波が存在すれば、共振した回路には起電力が生じます。携帯電話を掛けると、妙に頭が冴えるとか、古いことを思い出したりする人はいませんか?

279.戦闘機 vs. フェラーリ (2003/12/12)

この手の競争は、どちらが勝っても負けても面白い物です。特にフェラーリユーロファイターイタリアが世界に誇る技術を駆使したものですから、どちらが勝ってもイタリアの宣伝効果があるようです。


今回のレースの結果は、ニュースによって少しずつ異なっていますが、当のフェラーリのサイトを参照すると次のようになります。



  • 1回目は600メートルで競われ、フェラーリが9.4秒で勝ち、ユーロファイターは9.6秒でした。フェラーリの最高速度は294Km/hでした。
  • 2回目は1200メートルで競われ、ユーロファイターが14.2秒で勝ち、フェラーリは16.7秒でした。フェラーリの速度は308Km/hに達しました。
  • 3回目は900メートルで競われ、ユーロファイターが10分の2秒差13.0秒で、13.2秒のフェラーリに勝ちました。濡れた路面でグリップが十分でないながらフェラーリは305Km/hのトップスピードでした。
  • 1931年に行われた飛行機と自動車の初めてのレースでは、タイガー・モスアルファロメオ 8C 2300で連続した4回のラップタイムで競われ、アルファロメオが3回連続で勝った後、1秒のアドバンテージをもらったタイガー・モスが4回目でやっと勝つことができました。アルファロメオの最高速度は185Km/hでした。

以前話題にした、「江夏投手の球と新幹線のどちらが速いか」ではないですが、全く普段は比べることのない物同士を競わせるのは面白いものです。


1931年に行われたレースでは、自動車に飛行機がなかなか勝てなかったというのが面白いと思います。1931年と言えば、昭和6年のことです。その当時、自動車で185Km/hの速度を出したと言うことは驚異的です。


航空機は、その後ジェットエンジンと言う画期的な発明があり、飛躍的に速度が向上しました。自動車も技術は大きく進歩してはいますが、タイヤと路面の接地部分での限界によって、飛躍的な速度の向上を阻害しているようです。


鉄道もレールと車輪の限界を超えるべく、リニアモーターカーに挑戦し続けていますが、原理的には可能でも採算ベースで実用化するとなると、まだいくつかのハードルを越えなければならないようです。


いずれにしてもイタリアの誇るF1マシンと最新戦闘機、技術もさることながらイタルデザインのすばらしさには脱帽です。

278.窮地に立つ日本の宇宙開発 (2003/12/11)

asahi.comに、“「のぞみ」断念で「全員が再出発必要」宇宙開発委が苦言”、と言う記事が掲載されています。日本の宇宙開発における最近の事故多発を受けて、「これらの失敗の直接原因だけでなく、(組織のあり方も含めた)踏み込んだ原因の調査と対策が必要だ」、との宇宙開発委員長の言葉があったようです。


事故が起こる度に新聞や雑誌を見ていますと、組織的な問題点人事考課制度の問題点を指摘している記事が多いようです。精神論でロケットが飛ばせるうちはそれだけで解決するかもしれませんが、複雑なシステムになるロケットや人工衛星の場合は、もう少し科学的なアプローチが必要になるのではないでしょうか?


委員長の言葉にもあるように、失敗の直接原因の究明は当然ではありますが、それでは同じ原因による事故は無くすことができたとしても、似たような原因はごまんとありますから、いつまで経ってもシステム全体の信頼性は向上しないのではないかと思います。


最近の大規模なLSIでは、数億個にも及ぶトランジスターが相互に接続されていますが、単純な論理の変更・修正によっても、思わぬところで正しい機能を損なうコード(バグ)を作り込んでしまう危険性があります。複雑さがあるレベルを超えると、精神論では解決できない領域に入ってしまうのです。


そこでLSIの設計現場では、フォーマル・ベリフィケーションと言う手法が取り入れられています。変更・修正が正しく行われたかどうかを、システム的にモデル解析を行って検証するのです。この検証作業を行うことによって設計のエラーを検出することができ、実際のハードウェアでトラブルが起こることを未然に防ぐことができるのです。

実はこのフォーマル・ベリフィケーションは、NASAのLangley Research Centerが開発した手法なのです。


1970年代後半航空宇宙分野でのシステムの信頼性を向上するために、NASAではSIFTと呼ばれたプロジェクトを立ち上げました。SIFTとは、Software Implemented Fault Toleranceの略で、ヒューマン・エラーがあっても正常に機能する航空宇宙分野のオペレーティング・システムの開発を目指したものでした。


このプロジェクトは結局成功しないまま終了するのですが、その成果は1988年VIPERというプロセッサーを航空宇宙分野で採用する時に応用されました。人間の手によっては到底できない未曾有のレベルのアナリシスをシステマティックに行い、このプロセッサーの不完全さを取り除いて行ったのです。


その後、様々な検証作業にフォーマル・ベリフィケーションが採用され、スペースシャトルGPSの検証にも使われたのです。この過程でハードウェアモデルの検証のみならず、ソフトウェアモデルの検証にも使われるようになってきます。


1990年代には、NASA航空機制御システムの改良に採用されます。また、初期のペンティアム・プロセッサーバグが発見されたことをきっかけにして、フォーマル・ベリフィケーションはLSIメーカーの間で広まって行きます。


2000年からの10年間で、致命的な航空機事故の80%を削減する計画が進んでおり、航空システムを安全にするためにフォーマル・ベリフィケーションは欠かせないものになっています。


さて、LSI一つでさえも人手では検証できないぐらい複雑になって来ています。ましてやH-IIAロケットになると部品の数は28万点にも上ると言われています。どの一つの部品を取っても、設計・製造・組み立てのミスは致命的になります。これは組織を変えたら解決したりするほど簡単な事ではないのは明らかです。


日本には優れた工業技術がありますが、それに頼り過ぎると同じ程度の信頼性しか得られない可能性があります。


よく工業製品で信頼性の高いものを表す時、99.999%などと言う数字が出てきますが、これは0.001%の欠陥率、すなわち10万個に一つしか欠陥品がないと言うことです。1000個の部品を使う製品があれば欠陥率の合計は1%ですから、100個の製品のうち1つが不良品となる程度です。


しかし、同じ信頼性の部品を28万個集めると280%となってしまいます。単純な掛け算が正確ではないとしても、99.999%の部品を使っていてはロケットは作れないと言うことが解ります。これまでの工業製品の限界を超えるための技術的なブレークスルーが必要になってきます。


これまでの事故の教訓を十分に生かし、信頼性を飛躍的に改善して行かなければ、日本の宇宙開発に明日はないでしょう。「科学無き者の最後」にならないように、あらゆる英知を結集する事が今求められているのです。