20年ほど前からでしょうか、それまでの大型機依存の弊害から脱却すべく、ダウンサイジングと称して大改革が行われました。大型機で集中的に処理していたものを、クライアントに分散させて、同時にシステムのオープン化を図ろうとしたのです。
その結果、世界中のクライアント・パソコンに同じオペレーションシステムが搭載されてしまう、という事態に陥っているのはご承知の通り。
セキュリティーホールが発表されるたびに、世界中のコンピューター・ネットワークが同時に危険にさらされている状況は、社会インフラとしてみた場合あまりにも脆弱です。一企業の製品の不始末によって、社会の基盤が揺れ動くことが近代的な社会だとは思えません。
そこで、MacOSであったりLinuxという勢力が覇権を奪い返そうと(しているかどうかは判りませんが)しており、これからもパソコンを始めとするクライアントマシーンのOSの勢力争いは続いて行く事と思われます。
一方、このパソコンのOS争いとは別のところで覇権を狙っているのが、サン・マイクロシステムズです。"Go light, get right."のキャッチフレーズで新しいクライアントマシーンの形態を提案しています。簡単に言えばダウンサイジングの逆を行くだけなのですが、OSとCPUを搭載したパソコンがクライアントマシンとしてこれほど普及した後から聞くと、かえって新鮮に感じます。
"Sun Ray Ultra-Thin Client"と名付けられたそのシステムは、「複雑で維持コストの高いファットクライアント」より進んだシステムだと言っています。
キーワードはステートレス。データを保持するディスクもなければOSもないそうです。つまりディスクもプログラムもクライアントにはないのです。昔のダム端末と似ていると言えるでしょう。そのためウィルスにも感染しませんし、ソフトウェアのインストールも必要ありません。
今のパソコンが完全に家電になりきれない理由はいろいろあるでしょうが、OSやソフトウェアのインストールの煩雑さや、ディスク等のハードウェアの管理の難しさが大きな理由であると思われます。それらがないデバイスならば、従来の家電のように誰にでも扱うことが出来るようになるかも知れません。
またパソコンは価格も家電にしては高価です。ステートレス・デバイスならハードウェアがシンプルになりますから、製品の価格をパソコンより押さえることができるでしょう。
パームの"HotSync"に似た名前の機能で、"HotDesking"と言う機能があるそうです。作業の途中で中断した時にサーバーにセッションの情報を記憶させることができ、次に接続したときに引き続き作業を行うことが出来るそうです。
重要な事は、その時にクライアントマシンは別のものでも良い点です。あらゆるステートはサーバーに保持されますから、会社と自宅などにクライアントマシンがあれば持ち運ぶ必要はありませんし、もし自分の端末を持ち歩く場合でも、今のノートパソコンよりははるかに軽いものになるでしょう。
低速なネットワークにも対応していますし、セキュリティー上もディスクに機密データが残ることもなく、サーバーでのウィルス対策も行いやすいでしょう。ネットワークがどこにでもあり、いつでも使える状況では、ディスクで大量のデータやプログラムを持ち運ぶ必要はありません。
携帯電話のビジネスモデルに近くなりますが、ホスティングサービスの利用に応じた料金体系と価格を低く抑えた端末によって、パソコンビジネスが大きく変わる可能性がありそうです。
今やいつでもどこでもコンピューティングの時代です。使う人がどこでも使えるのなら、アプリケーションを実行するのもどこでも良いのではないでしょうか?
「パソコンの時代は終わった」と言われる日は、近いかも知れません。(だってPDAの時代だけ終わるのは癪じゃないですか。)