214.アメリカ人と議論と小切手 (2003/10/06)

「アメリカ人は議論が好きである」と言われることがあります。自分の主張を押し通す事を良しとし、リベートなどの練習を積んでいますから、議論すること自体を得意としているかに見えます。


仕事の上でも、当然自分の意見を主張することが求められ、日本の様に角が立たないようにうまく収めるのはもってのほか、議論その物を楽しんでいるのではないかと思えるぐらい、積極果敢にまくし立てます。


ところが本当にアメリカ人はみんな議論が好きなのでしょうか?


例えば自動車を買う時、価格の交渉が楽しいという人もいるでしょうが、面倒だと思う人もいるでしょう。一生懸命交渉しても、結果は誰もが同じ値引きを獲得するだけ。それなら、最初からハッスル・フリーで均一価格で販売すればいいと、全国均一料金、値引きなしの新車販売方式が受け入れられたことがありました。


GM系のサターンが採用したこの販売方式は、日本車を研究した生産方式による品質と相まって、大きな支持を得ました。つまり、アメリカ人の中にも、ハッスルした議論や交渉を、できれば避けたいと思っている人がいると言う事なのでしょう。


USに住む時に、真っ先に必要な物は自動車です。日本では、新車は注文してから納車までしばらく時間が掛かりますが、USは広いヤードにある在庫の中から選んで、支払いが終わればすぐに納車です。納車と言っても自分で乗って帰るだけですから、何も特別な事ではありません。


1997年の冬、私はフォードの新車の価格交渉を終え、新しく自動車保険にも加入し、車の代金を小切手で支払おうとしていました。パーソナルチェックと呼ばれる小切手は、1ドルであろうと1万ドルであろうと使えますから便利です。私は、ブランクの小切手を取り出し、金額を記入し始めました。


通常小切手には、本人の名前や住所と電話番号が印刷されています。ところが、銀行口座を開設したての頃は印刷が間に合わないために、口座番号以外は記入されていないブランクの小切手を一時的に使います。金額と一緒に自分の名前や住所を書くのです。


さて、自動車のセールスマンは、そのブランクの小切手に書き始めた私を慌てて止めました。「その印刷されていない小切手は、信用できないから受け取れない」、と。


つまり、偽造がしやすいブランクの小切手は、信用することができないと言うのです。私は、まだ印刷された小切手が出来ていない事を説明しました。しかし、今日この車を手に入れないと明日から生活することができません。何としてもこの小切手を受け取ってもらおうと、ハッスルする心構えをしました。


セールスマンは、別室の支配人に相談しに行きました。私は、どのようにして議論を展開しようかと思案していました。


しばらくして、セールスマンがやって来て、支配人と話をしろといいます。私は、覚悟を決めて支配人の部屋に乗り込みました。


一通りの挨拶が終わると、突然支配人は私に、「今日は車を持って帰って、明日銀行渡し小切手(Bankers’
Check)を作って持って来れば良い。」
と言うではないですか!


新車を、見ず知らずの外国人が買いに来て、一切お金を払わないのに持って帰らせると言うのはどういうことですか?信用できないからと言って小切手を拒否したのに、私はそんなに信用できる顔をしていましたか?


次の日、銀行で小切手を作って持って行きましたが、受け取った時安心したような顔をしましたから、やはり不安だったのでしょうね。しかし、アメリカ人のビジネスのやり方に感心したと同時に、それからはアメリカ人が何を考えているのか、解らなくなりました。

208.運転免許の更新(USの場合) (2003/09/28)

運転免許の更新は面倒なものです。たとえ講習を受けない場合でも、土曜日などに行ったものならごった返していて、どこが行列の最後尾か判らない、と言うより人が多すぎてそもそも列を成しているようにさえ見えません。一昔前の場外馬券売場さながらの光景です。


USに滞在する場合、州によってまちまちですが、1ヶ月以上滞在するときには、地元の運転免許を取らないといけないことになっています。国際免許の有効期限が1年あるため、たいていの人は1年以内は日本の免許で通してしまう事が多いようですが、事故を起こした場合等に不利になることがあると言われています。


一度USで免許を取ってしまうと郵送でも更新が出来るので、定期的に忘れさえしなければ永久に持ち続けることが出来ます。USやUSのテリトリーでのレンタカーの運転なら、国際免許が要らないので便利です。


郵送で更新が出来ると言うことは、本人の写真がありません。写真が無くとも運転免許として通用するところが少し変な感じがしますが、免許なしでは生活が出来ない国ですから、偽造等の心配が無いのかもしれません。


勿論、写真付きの免許も希望すれば可能であり、5ドルほど余分に払えば、その場で写真を撮ってくれます。若い人は、アルコール類をスーパーで買うときに、必ず年齢の確認を取られますから、写真付きの免許が必要になるようです。


さて、郵送による免許の更新は便利ではあるのですが、一つだけいつも不安になることがあります。USの免許と言っても、日本の住所に変更することが出来、免許そのものにローマ字で住所が記載されます。問題は、USでは州の2文字のコードになるところが、日本の住所に場合「Japan」を省略して「JA」と記載されてしまいます。


これが、そのまま自動的に封印されて郵送されてくるのですが、この「JA」を郵便屋さんは「Jamaica」と思って、ジャマイカに送られてしまうのです。5年前に更新したときは、3ヶ月ぐらい掛かってジャマイカから転送されてきました。


さて、今回はどうも郵送中に紛失されたようで、ついに届かなかったようです。テロ事件以後、USとの間の郵便物の歩留まりは悪く、私の場合は3分の1ぐらいしか無事に届いていません。


最近になって、これまで郵送で申請書とチェックを送っていた更新手続きが、ウェブで出来るようになったらしく、クレジットカードで支払うことが出来るそうです。写真が無いからこそ出来るのでしょうが、更新手続きによる利用者の負担を減らそうとする努力が見られます。


日本でも多くの人が数年ごとに行う免許の更新手続きを、もう少し快適に行えるようにする事は出来ないのでしょうか?

191.中国製ベンツはいかが? (2003/09/09)

ダイムラー・クライスラー社が中国の企業と合弁で、ベンツの生産を中国内で行うと発表したようです。ベンツのEクラスCクラス、トラックなどを生産する予定だそうです。


現在のベンツ Cクラスの右ハンドル車は、初期のものを除いてドイツでは作られておらず、南アフリカ製だと聞いていますが、今後はアジアに輸出する車種は中国製が主流になる気配です。


ドイツの工業製品は昔から定評がありますが、それは設計思想ばかりではなく、マイスター制度を代表とするドイツの製造工程に対する信頼によるものでした。しかし最近は、それまでドイツ製だと思っていた製品が、実は他の国々で製造されていたという場面に、出くわすようになってきました。


1970年代の後半、それまで絶対的な信頼を得ていたドイツ製カメラが、ドイツ以外で製造され始め、その製品に対する評価がカメラ雑誌などで盛んに討論されていたことがあります。


ローライという、二眼レフのローライフレックスや、35mmコンパクトカメラのローライ35で有名だったドイツのカメラメーカーがシンガポールで製造を始めたときに、それまで「Made in West Germany」と表記していたのを、「Made in Singapore」とはせずに「Made by Rollei Singapore」としたことを覚えています。


当時のカメラ雑誌の記事によると、ドイツ国内で製造されていないのはダメだという風潮が強かったようです。しかし、その後ライツ社がカナダで製造を開始し、「Made by Leitz Canada」と表記し始め、復活したコンタックスヤシカカメラ(その後京セラが買収)から発売され、いつまでもドイツ製にこだわり続けることができなくなってきました。


しかし、いまだにコンタックスのレンズの場合、日本製よりドイツ製の方が描写が良いと言われていたりします。本当に違いがあるのか、単なるドイツ製信仰のなせる業なのかの議論があるのですが、趣味としてはこのあたりのところにこだわりを持たないと面白みにかけますから、議論を大いに楽しむのがよろしいかと思います。


ベンツの話に戻しますが、現行のCクラスを南アフリカで製造するに当たり、製造技術に左右されないように設計を工夫したそうです。高い製造技術を用いなくとも同じ品質が保てるようにしたらしいのですが、その結果はめ込み部品が増えたりパーツのユニット化が進んで、ベンツの高級車としての雰囲気が失われてきたと嘆く人もいるようです。ベンツぐらいの生産規模になると量産車メーカーですから、手作りの良さをかもし出すのはすでに無理があるのかもしれません。


パリでタクシーに乗った時、そのプジョー406に興味を持った私が運転手に、プジョーはいい車かどうか聞きました。彼は、「プジョーも悪くはないけど、すぐに傷んでしまう。それに比べてベンツは丈夫だから、壊れるまでに倍ぐらい長い距離を走ることができる。でも高いから俺はプジョーしか買えないんだ。」と言っていました。


このベンツが中国で生産が開始されると聞いて、これまで築いてきた信頼を中国製のベンツが裏切らなければ、世界の製造工場として、また一層中国が飛躍することになるだろうと思いました。

183.アテンション・プリーズ2: 鑑真にて (2003/08/27)

1985年7月、私は中国の貨客船「鑑真」に神戸から乗船し、海路、中国の上海を目指していました。神戸から出国すると、パスポートには珍しい「KOBE」と書かれた出国スタンプが押されます。船内で乗船手続きを終え、後は48時間後に上陸するまでの長い船旅と思って船室にいました。


ところが、先ほどからどうも船内で人を探しているようです。何回も放送が入りますし、船員が船室ごとに顔を出して探しに来ています。どうも、乗船手続きをしないまま乗ってしまった人がいるようです。


私は、そのうち騒ぎが収まるものと思って、悠然と構えていました。同じ船室の日本人の学生たちは、ちゃんと手続きが終わっていないと、中国に入国できなくなるなどと話していました。


さて、そのうち収まると思っていたのですが、一向に解決する気配はなく、その後も何度も船員がやってきますし、呼び出しの放送も続いています。そのころになってやっと、放送で何を言っているか、聞けるようになってきました。


よく聞いてみると、何と私の名前を呼んでいるではありませんか!しかし、発音が中国語訛り(音読み?)である上に、最後に「先生」がついているので、まったくそれまで気付きませんでした。


あわてて、上のデッキに上がり、何事かと聞いたのですが、どうも乗船手続きと同時に、中国への入国の手続きの一部をやるはずだったのが、私だけ乗船手続きしかしていなかったのだということでした。


船の放送が聞こえにくく、発音が違っていて、先生まで付いていたので、かなり長い間気づくのにかかってしまいました。鑑真はその年から運行をはじめ、私が乗ったのはまだ3便目だったので、手続きも慣れていなかったのかもしれません。


この中国旅行は、スタートでつまずいただけに、その後も波乱に満ちたさまざまな経験を重ねていく事になります。上海から、桂林、武漢、南京、蘇州と周り、また上海から鑑真に乗った時ほど感傷に耽った事はないでしょう。一番思い出深い旅の始まりの、些細な出来事でした。

182.アテンション・プリーズ1: ボストン空港にて (2003/08/27)

皆さんは、自分の名前が放送で呼び出されたことがありますか?日本でなら「お呼び出し申し上げます」で始まりますが、デパートやスーパーなどの人ごみの中で、思いもよらず呼び出されても、なかなか聞き取ることは難しいものです。ましてや、一人で海外に行ったときはなおさらです。


1996年6月に、ボストンローガンエアポートに降り立った私は、乗り換えのローカル便のカウンターへ急いでいました。到着が遅れたために、チェックインの時間はすでに過ぎていました。


だらだらと歩く人をかき分けかき分け、やっと空港の発券カウンターが並ぶところに出ました。次の便は、エアーリンクという小型の飛行機なので、搭乗口に行って搭乗券をもらわなければなりません。


先を急いで歩いていたのですが、さっきからなんとなく私の名前を誰かが呼んでいるような気がしていました。立ち止まってよく聞いてみると、「アテンション・プリーズ。ペイジング、ミスターxxxx」と私の名前を呼んでいるではないですか。まさか、こんな大きな空港で、自分が呼ばれているなどとは思いもよらなかったのです。


ましてや私の名前の発音が少し違います。(つまり英語読みで間延びしています。)。よく聞かなければ判りませんでした。搭乗口に行くと、「あなたが何度も呼び出されていた乗客ね、急いで!」みたいに言われて、搭乗券も受け取らずにバスに放り込まれたのでした。


案の定、飛行機に乗り込むと、搭乗券がなぜないのかと問われる訳ですが、それはともかく、なれない場所での呼び出し放送は、聞き取りにくいということを実感したのです。アテンション・プリーズには、注意しましょう。予想していない場合はなおさらです。


実は、私には同じような経験が過去にもありました。あれは、もう18年も前のことになります。