ダイムラー・クライスラー社が中国の企業と合弁で、ベンツの生産を中国内で行うと発表したようです。ベンツのEクラスやCクラス、トラックなどを生産する予定だそうです。
現在のベンツ Cクラスの右ハンドル車は、初期のものを除いてドイツでは作られておらず、南アフリカ製だと聞いていますが、今後はアジアに輸出する車種は中国製が主流になる気配です。
ドイツの工業製品は昔から定評がありますが、それは設計思想ばかりではなく、マイスター制度を代表とするドイツの製造工程に対する信頼によるものでした。しかし最近は、それまでドイツ製だと思っていた製品が、実は他の国々で製造されていたという場面に、出くわすようになってきました。
1970年代の後半、それまで絶対的な信頼を得ていたドイツ製カメラが、ドイツ以外で製造され始め、その製品に対する評価がカメラ雑誌などで盛んに討論されていたことがあります。
ローライという、二眼レフのローライフレックスや、35mmコンパクトカメラのローライ35で有名だったドイツのカメラメーカーがシンガポールで製造を始めたときに、それまで「Made in West Germany」と表記していたのを、「Made in Singapore」とはせずに「Made by Rollei Singapore」としたことを覚えています。
当時のカメラ雑誌の記事によると、ドイツ国内で製造されていないのはダメだという風潮が強かったようです。しかし、その後ライツ社がカナダで製造を開始し、「Made by Leitz Canada」と表記し始め、復活したコンタックスがヤシカカメラ(その後京セラが買収)から発売され、いつまでもドイツ製にこだわり続けることができなくなってきました。
しかし、いまだにコンタックスのレンズの場合、日本製よりドイツ製の方が描写が良いと言われていたりします。本当に違いがあるのか、単なるドイツ製信仰のなせる業なのかの議論があるのですが、趣味としてはこのあたりのところにこだわりを持たないと面白みにかけますから、議論を大いに楽しむのがよろしいかと思います。
ベンツの話に戻しますが、現行のCクラスを南アフリカで製造するに当たり、製造技術に左右されないように設計を工夫したそうです。高い製造技術を用いなくとも同じ品質が保てるようにしたらしいのですが、その結果はめ込み部品が増えたりパーツのユニット化が進んで、ベンツの高級車としての雰囲気が失われてきたと嘆く人もいるようです。ベンツぐらいの生産規模になると量産車メーカーですから、手作りの良さをかもし出すのはすでに無理があるのかもしれません。
パリでタクシーに乗った時、そのプジョー406に興味を持った私が運転手に、プジョーはいい車かどうか聞きました。彼は、「プジョーも悪くはないけど、すぐに傷んでしまう。それに比べてベンツは丈夫だから、壊れるまでに倍ぐらい長い距離を走ることができる。でも高いから俺はプジョーしか買えないんだ。」と言っていました。
このベンツが中国で生産が開始されると聞いて、これまで築いてきた信頼を中国製のベンツが裏切らなければ、世界の製造工場として、また一層中国が飛躍することになるだろうと思いました。