610.ぐるっと回って何回転? (2006/11/11)

久しぶりに算数の問題です。あなたなら何と答えますか?


問題


(1)半径2センチメートルと10センチメートルの、大小2つの円があります。今、大きい方の円を固定して、その外周に小さい方の円を、すべらないように接しながら大きい円の周りを1周させたとしたら、元の位置に戻るまでに何回転するでしょうか?


(2) (1)と同じ円において、大きい方の円を固定して、小さい方の円を大きい円に内接するようにしてすべらないように1周させたとしたら、元の位置に戻るまでに何回転するでしょうか?


半径の比が1:5ですから、円周の比も1:5になります。ですから大きい円の周りを1周回る間に、小さい円は5回転するはずですから答えは「5回転」


(2)も、外接しようが内接しようが円周の長さに変わりがあるはずもないので、「5回転」


そりゃそうでしょう、ピッタリ円と円が滑らずに円周を寄り添いながら回転するのですから、円周の長さだけを考えていれば良い筈です。


(でも、外接と内接が同じ答えではいけないような気もするな。しかも、これでは小学校6年の問題にしては簡単すぎるか?)


少し不安を感じながらもこれで合っているに違いないと解答を見てみると、


(1) 6回転

(2) 4回転


とな。


「うーむ!」 


思わず唸りましたね。「何なんだ! このテーブルマジックは! トリックがわからん!」 (別にマジックではないですが。)


しばらく悩んで思い出したのは、月の自転でした。月は地球の周りを公転する間に1回自転をするために、地球からはいつも同じ部分が見えています。地球から見ていると、月は自転していないように見えますが、実際は1自転していると言うのと同じ原理です。


大きい円の外周を回るときは同じ回転方向に1回多くなり、内接する場合は1回少なくなるのです。


「やってくれたな」と苦笑いでごまかしながら、またカッコ悪いお父さんを演じなければならないのでした。

609.クレジットカードによる国際電話にご用心(その2) (2006/11/01)

先日のクレジットカードによる国際電話の話の続きです。あれからいろいろとインターネットを検索していたのですが、いくつか発見がありましたのでここにまとめてみたいと思います。


USのサイトにおいては、この問題は既に「詐欺」(scam)事件として扱われています。しかし、残念ながら日本にはこれらの苦情を専門に扱うサイトがないため、先日もご紹介した一部の海外旅行関連のサイトの掲示板や、個人サイトのコメントとして掲載された情報が参照できるに留まっています。


この問題は、国際電話の発信国、つまり旅行者が滞在し国際電話をかけようとした国・地域が、世界中に広がっていることです。2005年から被害が報告されているようですが、問題が解決されるどころか一気に全世界の公衆電話に広まってしまったようです。


海外で詐欺に会う場合、本人の不注意が原因であると片づけられることが多いのですが、今回の"BBG Communications""INFONAA"ならびに"INFONW"というUSに存在する企業が絡む事件は、十分注意していても引っかかる恐れがあります。


NTTコミュニケーションズが提供する「国際クレジットカード通話」は、海外から専用のアクセス番号を入力することによってNTTコミュニケーションズに接続し、その後クレジットカード番号を入力することによって、安く国際電話を海外からかけることが出来るサービスです。


しかしNTTコミュニケーションズのサイトに書かれた情報によると、海外の一部の電話から利用した場合、途中から自動的に他社のサービスに強制的に接続されてしまい、高い通話料金を請求されるという事件が報告されているそうです。NTTコミュニケーションズの正規のサービスと同様に、日本語のガイダンスが流れるため、別の電話会社のサービスに切り替わっていることに気付かないようです。


同様に、KDDIのサービス「スーパージャパンダイレクト」を、海外の一部公衆電話から利用すると、他社のサービスに強制的に接続される場合があるようです。


KDDIのサイトには、「KDDIスーパージャパンダイレクトご利用に関するご注意」という警告があります。「こちらはKDDIです。カード番号とシャープをどうぞ」というアナウンス聞き逃さず確認するよう呼びかけています。


ただ、さすがにここまで被害が広がって来ましたから、いくつか対策を講じる動きが出てきているようです。


スイスの政府機関である"The Swiss Federal Communications Office"は、法外な国際電話料金をユーザーに課してきた"BBG Communications"に対し、スイス国内の電話回線に接続する事を禁止したそうです。観光が重要な資源であるスイスにとって、観光客が国内で詐欺に遭うのを見過ごす訳にはいかなかったのでしょう。


また、日本のクレジットカード会社のうち、一部ではすでに全額返金に応じ始めているそうです。(顧客重視のクレジットカード会社か?)私が確認した別のクレジットカード会社では、国際業務部でこのような国際電話のクレジット請求が以前から頻発しており、それが異常に高い電話代であることをすでに認識していたそうです。


犯人が誰だか分からないスキミングと違って、クレジットカード会社はこの国際電話の会社と契約しているのですから、その振る舞いにはクレジットカード会社は相当の責任を持つ必要があると思います。さもなければ、クレジットカード会社自体の信用(クレジット)が危うくなります。


このクレジット国際電話詐欺事件が、一刻も早く収束することを願っております。(他人事のように言っている場合ではありません。)

608.クレジットカードによる国際電話にご用心 (2006/10/30)

最近はスキミングなどのクレジットカードの不正利用が頻発していますから、海外旅行から帰った後に来るクレジットカードの請求書は、十分注意をしてチェックしておかなければなりません。


さて、インドに出張に行ってから一ヶ月が経ち、クレジットカードの請求書が届いたのを見て驚きました。帰りにクアラルンプールの公衆電話からかけた電話代の請求金額が、1件当たり約40米ドル。それが計6件も請求されてきたのです。利用店名には、"INTL CL*"と表示されています。うまく電話がかからなかったために2枚のクレジットカードを試したので、それぞれのクレジットカード会社からの請求に含まれていました。


使用した公衆電話機は、クアラルンプール中央駅構内にあったものです。公衆電話の横に国際電話の使用方法が説明してあり、ある特定の電話番号をキーインした後に、クレジットカード番号相手先番号を入力することによって、クレジットカード払いの国際電話がかけられるものです。


その使用方法を記したものは、如何にも電話機の設置者が掲示したものに見えましたから、何も疑問を持ちませんでした。また国際電話にかかる費用に関する一切の表示はありませんでした。


さて、その余りにも高い電話代と、接続できなかった場合にも請求されている事から、今日2つのクレジット会社に請求内容を電話で問い合わせてみました。


一つ目のクレジットカード会社は、とりあえず支払いは保留しておき、電話会社に詳細を問い合わせてみるが、結果が分かるのは2・3ヶ月先になるだろうとのこと。


もう一つのクレジットカード会社は、国際業務部の担当者(Y氏)が対応され、この電話会社は、"International Call"という名前の会社で、世界中で営業をしており、いつも通話一回当たり35米ドルぐらいを請求してくるとのこと。請求内容に関する苦情は直接電話会社にしてくれと言うことで、その会社のメールアドレスを教えてもらいました。


さて、そのメールアドレス("info@bbgcomm.com")を手がかりに、インターネットを探してみると、BBG Communicationsという会社が見つかりましたが、どうも怪しい雰囲気の会社です。(注:サイトのアドレスは、http://www.bbgusa.com/ ですが、その怪しさ故、参照することはお勧めいたしません。)


クレジットコールによる国際電話を扱っている会社にしては、サイトに掲載されている情報があまりにも貧相です。サイトそのものの完成度も低いですし、会社の情報もほとんど記載されていません。


これは何か変だと思い、さらに検索してみると出てくるは出てくるは。同じ手口で高い国際電話代をクレジットカードに請求された人が他にも大勢いたようです。


アムステルダムやパリの空港の公衆電話で、あるいはドイツのホテルの公衆電話で。その他南米やアジアまで。また被害にあったのは、日本人ばかりではないようです。


それらの掲示板の情報を元に整理すると、電話料金は回線使用料として接続されたかされなかったかに関わらず一律15米ドル、通話料は一分当たり約5米ドル。ただし最低通話時間5分と言うことで、どんなに短い通話であっても、あるいはつながらなかった場合でも、最低40米ドルほどが課金されるようです。


クレジットカードに請求してくる会社名には何通りかあるようですが、すべてBBG Communicationsと言うUSにある企業の子会社のようです。私の場合は、クレジットカード会社で教えてもらったメールアドレスからその企業名が分かりましたが、"INFONAA"という名前で請求してくる場合もあるようです。


掲示板を見ていると、被害にあった人は概ね泣き寝入りする人が多いようですが、中には電話会社にメールをしたりUSまで電話で抗議したりして、電話会社に一部返金させた人もいるようです。また、海外の掲示板の情報によると、USのFCC (Federal Communications Commission)FTC (Federal Trade Commission)にクレイムしながら同時に電話会社と交渉し、全額返金させた人もいるようです。


ただ、この電話会社の苦情受付電話の応対が英語かスペイン語のみで、かなり早口でしゃべりまくられるそうですから、一部返金だけで納得してしまう人が多いようです。


交渉するときのポイントは、



  • 電話機に料金が明示されておらず、もしそれを予め知っていたら利用しなかったこと。
  • クレジットカードによる国際電話が、公衆電話の設置者が提供するサービスであるかのように見せかけていたこと。

でしょうか。


BBG Communicationsのサイトで、Clientsというページを見に行くと、ホリディインやシェラトン、リッツ・カールトンにような有名ホテルの名前が並んでいます。これらのホテルは、この企業が法外な電話料金を吹っ掛けていることを知って契約をしているのでしょうか?


また、クレジットカード会社も、請求金額が異常に高いと知りながら、そのような企業を放置しているのは、法的に問題がないとしても、消費者に注意を喚起するなどする必要があるのではないでしょうか?


さあ、それでは私もBBG Communicationを相手に返金交渉をしてみますか。さて結果は如何相成りますでしょうか。


ご参考のために、この問題に関するリンクを掲載します。


607.「ゲノムひろば2006」のご紹介 (2006/10/28)

商用化に適した宇宙船をいち早く実用化したものに賞金を与えるとして、世界中の注目を集めた米カリフォルニア州の非営利教育機関「X賞財団」が、新たに10日間で100人の遺伝子を完全に解読したチームに、1000万ドルを与 えるという賞金レースを始めたそうです。


日経ビジネス10月23日号が"The Wall Street Journal"の記事を紹介するところによると、解読される遺伝子の提供者として、グーグルやマイクロソフトの創業者が名を連ねているそうです。


ヒトゲノムの解読計画は2001年に第一段階が終了し、平均的とされるな匿名のDNAドナーが解読されています。DNA情報を解読する事によって、どの薬を飲むべきか、どの病気にかかる危険性が高いかをあらかじめ知ることができ、また新しい病気の治療方法を探す事ができると期待されています。


DNA配列の解析にかかる費用は、近年急激に下がってきているそうですが、
基本的な手法である「サンガー法」は20年来変わっておらず、まだ誰もがその恩恵にあずかれるほど手軽に行うことはできません。今回のX賞を獲得する為には、まったく新しい解析方法を開発しなければならないと予想されています。


5年以内には実現可能だと考えているそうですが、最終的には人のDNA解析にかかるコストを1000ドル程度まで下げようとしているそうです。今私たちが医療機関で受けている検査と同じ手軽さで、DNA解析が可能になる日も近いかも知れません。


さて、そこで「ゲノムひろば2006」のご紹介です。先日から当サイトのトップページにリンクを掲載させていただいておりますが、11月に東京と京都で、生命科学分野の最新の研究テーマを一般の方々に公開するための「ゲノムひろば2006」が開催されます。


当サイトでは、2003年に「244.ゲノムひろば (2003/11/05)」「247.ゲノム三題1: ゲノムとDNA (2003/11/09)」で紹介させていただきました。


「ゲノムひろば2006」では、さらに進化したゲノム解析の最前線情報が満載です。国内の最先端の研究者がこぞって参加されておられますから、きっと面白いテーマが見つかるに違いありません。ひょっとしたら、その中から1000万ドルの賞金レースを射止める研究テーマが出てくるかも知れません。


特に今年は、コンピューターサイエンス(計算機数学)を応用した、バイオインフォマティクス分野での成果が面白そうです。


東京は11月4日・5日に丸ビルで、京都は11月18日・19日に京都大学で開催されます。少しでもご興味をお持ちの方には、きっと新たな発見があるのではないかと思います。ぜひお立ち寄りください。

606.正露丸訴訟について (2006/10/25)

日経ビジネス10月16日号の「敗軍の将兵を語る」という記事に、正露丸訴訟で敗訴した大幸薬品の社長の言葉が掲載されています。


この訴訟については、すでに語り尽くされている感がありますが、この記事を読んで少し疑問に思ったことがありましたので、書かせていただきたいと思います。


この訴訟は、「平成17年(ワ)第11663号不正競争行為差止等請求事件」として、大阪地裁で平成18年7月27日に判決が言い渡されたものです。事件名として不正競争行為とあるように、「正露丸」という商標や製品のパッケージの意匠を中心に争われています。


原告の大幸薬品の主張は、以下の通りです。



  1. 最近10年だけに限っても約60億円の宣伝広告活動を行ってきた。
  2. 同期間に約285億円の販売実績を記録しており、正露丸という名前の医薬品のブランドを築いている。
  3. 被告の和泉薬品工業が、その類似した医薬品名と製品パッケージによって、大幸薬品の商品イメージに便乗した商売をしている。
  4. 消毒薬のクレオソートを主成分とする点で似た医薬品であるが、和泉薬品工業の製品には「ロートエキス」という緑内障,排尿困難,心臓病等の患者には症状を悪化させる可能性がある成分が含まれており、それにより大幸薬品の製品に対する信頼や信用が毀損されている。

さて、判決文を読んでみると、結局大幸薬品の「ラッパのマーク」と、和泉薬品工業の「瓢箪マーク」を、消費者が混同するかどうかだけが焦点になっていることが分かります。


製品のパッケージそのものの類似性は当然のものとして、マークが明らかに異なるために混同する恐れはないと言うのが、判決文の趣旨です。


さて、日経ビジネスの記事の中で大幸薬品の社長は、「争点が商標や意匠にすり替わってしまったが、本当に訴えたかったのはロートエキスの副作用による信用喪失であった。」と言われています。実際に消費者から苦情があり、返品された商品を受け取ってみると異なるメーカーのものであったことが頻発するようになってきたため、訴訟に踏み切ったと言うことでした。


判決では、ロートエキスが添加されている事による副作用に関しては、もし現に症状の悪化が生じているとしても、包装箱に禁忌例を記載するなどによって解決すべき問題であるとしています。また、ラッパ瓢箪のマークが明らかに異なっているので、それらを消費者が取り違える可能性はないとしています。


ここで消費者の立場で考えてみると、同じ「正露丸」という医薬品名である以上、一般にその成分に大きな違いがあるとは想像しにくいことです。「ロートエキス」が配合されていることが成分表示から知ることが出来ても、その成分によってどのような影響があるかは容易には分かりません。


ロートエキスは、一種の興奮状態を作り、腸の動きを一時的に止めることによって腹痛を鎮める効果があるそうですが、その為に細菌性の下痢の場合には腸内で細菌が繁殖し、悪化することがあるそうです。


O157が流行した時に、ある種の胃腸薬を服用すると、かえって症状を悪化させるという例が報告されていました。ロートエキスがその一因として考えられるのなら、成分を解りやすい場所に表示する事が、ラッパや瓢箪のマークにこだわるより重要でしょう。


一般的に、クレオソート製剤と言うことで全く同じ効能があると思っていましたが、添加された成分によって大きく異なってくると言うのなら、同じ「正露丸」という製品名を付けるところに問題があるのかも知れません。


登録商標の「正露丸」をめぐっては、過去に最高裁判所で商標の無効、すなわち普通名称として広く使うことを認める判決が出されています。しかし、消費者にはいまだに特定の商品名だと思っている人が多いようですし、ましてや成分に違いがあると思っている人は少ないのではないでしょうか?


「正露丸」は元来「征露丸」と呼ばれ、日露戦争当時から使われてきた医薬品名だそうですから、類似した医薬品が同じ名称を付けることは仕方がない部分もあるでしょう。そもそも、「正露丸」という普通名称か商品名か消費者が容易に判断できない曖昧な名前を使い続けることが、すでに問題であるように思います。


大幸薬品は、大阪高裁に控訴したようです。控訴審では、商標・意匠の問題にとどまらず、医薬品表示や販売方法にまで踏み込んだ判断を仰ぎたいものです。


参考までに、判決文(PDFファイル)のURLを、リンクを張らずに記載しておきます。興味のある方はご参照ください。→ http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060731093511.pdf