75.引き返す飛行機 (2003/04/18)

飛行機に乗ってトラブルがあるとしたら、預けた荷物が出てこない事が、良くありますね。最近は、3回乗ったら1回ぐらいの頻度で、荷物が出てこないことがあります。あまり、乗り継ぎ時間に余裕のないスケジュールにすると、やはり出てこないことが多くなるようです。


さて、機体にトラブルがあることも、結構多いのですが、飛ぶ前に油圧が上がらないとか、機体のチェックで異常があるなどの理由で、出発が遅れることは良くあります。


しかし、飛び上がった後にトラブルがあった時には、いったい何が起こっているのか、機長のアナウンスを真剣に聞かなければなりません。今日は、私が体験した引き返し飛行について、お話ししたいと思います。


その1.ナビゲーターが狂ってしまった


あれは、1989年の5月でした。私たちの乗ったスイス航空ボーイング747-300型機は、チューリッヒからボストンに向かって飛び始めて、2時間が経とうとしていました。ちょうど、おそらくフランスと思われるヨーロッパ大陸の端にさしかかり、大西洋上に出ようとしていたときでした。


私たちは、ヨーロッパ大陸を名残惜しんで、外の景色を見ていました。が、海岸線を真下に見る辺りで、急に旋回を始めました。最初、大西洋に出たら、航路が変わるため、進路を変えているのだと思っていたのですが、旋回が90度を超えると、何かおかしいなと思い始めました。


前方のスクリーンには、地図の上に飛行機のマークが軌跡と共に表示されていましたが、その飛行機も同じところで回り出しました。そこで、機長のアナウンスがありました。


「当機は、ナビゲーターが故障した模様です。これから、大西洋を横断するのは、困難ですので、一旦チューリッヒ空港に引き返します。チューリッヒ空港は、スイス航空の本拠地ですので、到着次第、予備の用意された代替機に乗り換えて、すぐに出発できるようになっております。ご安心ください。」


さて、壊れているのはナビゲーターで、エンジンは調子がいいみたいなので、乗客一同、取りあえず安心してチューリッヒに着くのを待ちました。着陸もうまくいき、みんな乗り換えの案内があると思って待っていましたが、一向にその気配がありません。


最初は、機内で待機していましたが、長くなりそうだと言うことで、待合室に誘導されました。当時、スイス航空は安全な航空会社と言うことだったらしく、乗客は口々に、


「スイス航空だから、無事引き返せたけど、他の航空会社だったら、とっくに落ちていたわよ。」


みたいなことをしゃべりあっていました。ところで、代わりの飛行機は結局用意されてはいませんでした。ボーイング747-300型機は当時一番大きい飛行機でほぼ満席だった為、代替機を用意しても一機では乗り切らないので、とにかく修理をしようとしていると言うことでした。


2時間ぐらいの修理時間の後、再び同じ機体に搭乗したのですが、ちょうど2階席で修理したメカニックが、道具を持って降りていくのに出くわしたのですが、ほんとにこの人が直せるのかな、と言う感じで、ボストンに着くまで不安で一杯だったのを覚えています。


その2.オーバーヒート


今度は、1998年2月、デトロイトからホノルルに向かうノースウエスト航空DC-10に乗っていたときの話です。飛び立って1時間半程した時です。機長のアナウンスが入りました。


「当機は、現在高度xxフィート、時速xxマイルで飛行しております。」


私は、”おかしいな、さっき機長は同じ様なアナウンスを既にしているのに、何で2回目のアナウンスをしているのかな?それと、なんか高度がいつもより低いし、速度も少し遅いな”、と思っていました。


機長は、アナウンスを続けているのですが、どうも歯切れが悪く、何を言っているのかよく分かりません。どうもこのまま飛行を続けるのに、自信がないと言っているようです。


「これから、ハワイまではまだまだ遠い様ですが、太平洋も越えて飛んでいかなければなりません。この飛行機は、ダグラスDC-10と言いまして、エンジンが3機付いておりますが、そのうちの第2エンジンと言うのが、後ろの垂直尾翼に突き刺さっているようにあるのですが、、、」


何とも歯切れが悪い、もう5分ぐらいしゃべっています。乗客も、何となく変だなと気づいてきました。


「実は、先ほどから、エンジンの温度計を気にしているのですが、どうも、第2エンジンがオーバーヒートしているみたいなので、このまま使い続けると、火災が発生するかもしれないので、先ほど、第2エンジンを、アイドリング状態にしました。」


何!エンジントラブルだと!乗客はざわつきます。


「ご心配なく。DC-10は、エンジン2機でもハワイぐらいまでなら、飛んでいけます。ご安心ください。ただ、もう一つエンジンが止まると、高度を維持することが難しくなります。従って、これから、デトロイトに引き返すことにします。」


一刻も早く引き返してください。その1時間半が長かったこと。しかも、今度はエンジンが2つしかないので、着陸も心配です。


「ガタン、ゴトン。」


少し大きめのショックがありましたが、無事着陸しました。さて、今回も代替機があるように機長は言っていたのですが、着いてみるとやはり用意されてなく、修理が終わるまで機内に閉じこめられて、2時間程して再び飛び立ちました。


機長が言いにくそうに説明していたは、乗客にショックを与えないようにしていたのでしょう。パニックにならないようにするためには、何を言っているのか分からないぐらいが、ちょうど良いのかもしれません。


これ以外に、デトロイトで乗り継ぎの時に、搭乗口に行ったら、乗るはずの飛行機のエンジンが、その場でバラバラに分解されて修理中だったこともありました。搭乗口の係員は飛ばしますと強気でしたが、どう見てもエンジンを元に戻せないだろうと思っていたら、案の定フライトキャンセルになりました。


このようなことが、一度でもあると、たまにしか乗らない私などは、飛行機は怖いと思ってしまうのですが、昨日登場したスチュアーデスさんは、飛行機ほど安全なものはないと信じ切っていました。少しでも不安を感じたりしたら、搭乗業務はできないのでしょうね。