マスコミ、またはマスメディアと言えば、新聞や雑誌などの出版業界か、ラジオ・テレビの放送業界を指していました。出版と放送(Publication&Braodcast)は、1対多(mass)の情報伝達の方法です。
個人がネットワークによって接続されていない時代においては、マスメディアは唯一の確立された情報ラインでありましたから、その社会的重要性は絶対的なものでありました。また限りのある電波を利用すると言うことから、放送免許を与えられる放送局には公共性が必然的に求められました。
地域ごとに与えられる放送免許は限られており、放送事業そのものが通常の需要と供給で市場が形成されるものと異なっていました。社会的な特権と言えるでしょう。ラジオやテレビの放送として利用できる電波の周波数帯が限られていたため、そう簡単に放送局を増やすことができなかったのです。
ところが電子技術の発達によって、放送・通信機器で扱える周波数帯域はどんどん広がって来ました。
昔なら1Ghzを越える周波数帯を使おうとすると、その装置を構成するのは一般的な電気部品ではなく、板金加工によって作られる導波管のような物でした。また、高周波出力には必ず特殊な真空管を必要としていました。しかし、半導体技術の進歩により、これらの高い周波数が半導体だけで実現できるようになりました。2Ghzを超える高周波発信回路がが携帯電話の小さな筐体で実現できていることはご存知の通りです。
放送や通信で利用できる周波数帯域が以前に比べ格段と増えた結果、放送ではBS放送やCS放送が始まりました。通信でも携帯電話や少し利用形態が異なりますがRFIDや無線LANなどが登場することになります。
さて電波の利用が増えたのと同時に、インターネットに個人のパソコンなどが接続されました。放送の場合は常に1対多の関係でしたが、インターネットの場合はアドレスをユニークに持つことにより1対1の関係であったり、多くのアクセスを誇るサイトがあるように1対多の関係も起こります。放送が不特定多数の相手に対して流しっぱなしだったのとは大きな違いです。
このように以前は絶対的な情報の支配力を誇った放送も、メディアの多様化に伴って社会に対する影響力が年々低下してきているのです。放送業界内部だけで競争をしていたのでは、メディアとしての存在そのものが脅かされるようになって来ています。
昔のように放送免許を持っているだけで情報の一元的な発信者になることができた時代は終わりました。放送ももはやマスメディアと言うよりは他の多くのメディアの一つに過ぎなくなり、テレビ放送のメディアとしての優位性は失われてきています。そのような変化の中で、テレビ放送はこれまでのマスメディアの特権を忘れ、自ら優れたコンテンツを生み出していくように変わっていかなければならないのではないでしょうか?
地上デジタル放送が本格的に始まろうとしていますが、技術的な利点を誇示することをやめて、コンテンツの充実を図る努力を怠らないようにしてもらいたいものです。