asahi.comに、「トヨタ、マイカー通勤自粛呼びかけ 渋滞、環境対策」という記事が出ています。本社・工場の2万8千人の通勤時に起こる交通渋滞の解消の為に、最寄り駅からのシャトルバスを採用し始めたという事です。自動車メーカーが始めるのは違和感がありますが、自動車は渋滞のないところで快適に乗る物であるとの割り切った考えがあるようです。
交通渋滞や排気ガスによる公害を減らす為に、自動車の利用を自粛しようという運動は、USでも昔からあります。1994年、ボストン・ローガンエアポートに向かって急いでいた私たちは、高速道路のI-95を走っているうちに、"Car Pool"と書かれた車線に入っているのに気づきました。最初は気にしないで走っていたのですが、そのうちに何度も"Car
Pool"という標識が目に入り気になるものですから、隣の車線に戻ろうとしたのですが、間にポールがあったり分離帯があって、車線を移動する事ができません。
"Car Pool"って何だろうと考えたのですが、車がプールに入るというと駐車場かなと思いました。ボストンの町の中の、大きな駐車場に行く人だけが通る車線に来てしまったのだと思いました。結局、街に近づくと自然と車線の仕切りがなくなって、自由に車線間を行き来できるようになったので安心したのですが、一時は空港に辿り着けないかとひやひやしました。
さて、その後"Car Pool"が、自動車の乗り合い制度であると言う事を知りました。都会では渋滞の解消が主な目的であるようですが、郊外に行くと、スクールバスがない学校に通う児童の為に、近所の家庭が共同で、送り迎えをする事が多いようです。
"Car Pool"は制度化されている地域も多く、地域を取りまとめる役割を持った事務所に連絡すれば、集合場所や当番制に関して、情報を得られるようになっています。
スクールバスがある場合では、治安が悪いからか、スクールバスの乗り降りする場所まで必ず親が付き添います。子供だけで道を歩いている事は、まず見た事がありません。通学時に、いかなる事故も起こさない様に、徹底的に危険を排除する姿勢が感じられます。スクールバスのあの無骨な形も、安全性を優先した物だそうです。
そう言えば、私が学校で英語を習い始めた中学1年生の頃、学校の帰りに友人と2人で歩いていると、アメリカ人とおぼしき一人のご婦人に、訪ねられた事がありました。「君たち、カープールはどうしたら良いか知ってる?」、てな事を聞かれたような気がします。もちろん英語で。
もう30年も前の事です。しかも、英語を習い始めて間もなく、"This
is a pen."な私たちは絶句しました。最近はあまり見かけなくなりましたが、以前は駐車場には「モータープール」と書かれていましたから、てっきり聞き間違いだと思い、「モータープールはあそこにあります。」みたいな答えをしたように思います。
ご婦人は、「モータープールではなく、カープールなのです。駐車場ではありません。」みたいに食い下がるのですが、そもそもそのような物を知らない上に、英語もThis
is a penな私たちは、必死に理解しようとするのですが、いつまで立っても平行線のままです。30分ぐらいでついにご婦人は諦めて、その場を去って行ったのでした。
その方は、おそらくそれまでも何人かの日本人に訪ねてきたのでしょう。しかし、当時の日本人は、外人が寄って来て話しかけるだけで、首と手を横に振って顔を背けて立ち去る人がほとんどでしたから、私たちのような中学生なら、経験しているので一番知っていると期待して、話し掛けてこられたのでしょう。恥ずかしながら、ボストンで再び"Car
Pool"に出会った時も、中学生だった頃と同じ発想しかできなかったのでした。
ボストンでの経験からしばらくして、私はやっとカープールの本当の意味を知る事になります。もし今、そのご婦人が私に訪ねてこられたら、的確にお答えできるのにと思うと非常に残念です。
今ならこう答えます。「日本にはカープールの制度はありません」と。