さて、また昔の話しになりますが、私の家にはソニーの6石トランジスターラジオがありました。今でも家のどこかに置いてありますが(本当はダンボール箱に突っ込んであります)、まず壊れるようなものではなかったのです。一度足で踏みつけた為、スピーカーが陥没した事があったのですが、町の電気屋で修理されて完璧によみがえった事がありました。
あるいは、真空管式のラジオやテレビがトランジスター式になった時には、オールトランジスターやらソリッドステートと言われ、その寿命は半永久的であるとさえ言われていたものです。
それに引き換え最近の電気製品においては、やたら電子部品の使用が増えている為もあるでしょうが、故障が多いような気がします。テレビやビデオは言うに及ばず、洗濯機や冷蔵庫、電子レンジや掃除機に至るまで、その主要機能部品の故障もさる事ながら、コントロールする目的で搭載されているLSI部品の故障が、結構多いのではないでしょうか?
勿論、昔のアナログの製品に比べると、デジタル機器は徐々に調子が悪くなると言うより、突然動かなくなる事が多いですから、壊れるときに印象が強いのは確かです。しかし、もう少し壊れない作り方もあるのではないかと思います。
もう1年近く前になりますが、半導体のパッケージの封止材が問題になったことがありました。パソコンにおいては、ハードディスクの交換にに応じたメーカーも多かった事は、まだ記憶に新しいと思います。実はこれと同じような現象が、LSIの内部においても起こっています。
LSIに経年変化を来す現象の一つに、エレクトロマイグレーション(EM)があります。これは、金属中に電流が一定方向に流れ続けると、金属原子が電子流によって押し流される現象で、温度と電流密度によって進行速度が異なってきます。LSIの内部回路を接続している金属配線で、特にクロック系の配線は、常にEMのストレスにさらされているのです。
CMOSは、基本的にゲートのチャージ・ディスチャージを繰り返しますから、双方向に電流が流れる配線もあるのですが、電源バスやグランドバスに接続されている配線については、一定方向のみの電流が流れるため、EMの影響を大きく受けることになります。
アルミより銅の方がEMの影響が少ないため、銅配線が採用された時は、これからはEMの事を考えないでデザインできると喜んだのも束の間、さらに微細化された配線幅によって、銅配線でさえもEMを考慮した配線を求めなければならなくなりました。
また温度上昇や内部スイッチングは、十分にシミュレーションされている筈ですが、プロセスの振れや実際の動作状態の把握を完全に行うのはかなり困難です。LSIチップの一部だけが異常に発熱することや、機器内部のエアーフローが計算値より低下している場合など、設計段階での予想寿命が、そのとおり実現できない事も起こり得ます。
LSIのコストと設計の安全性は背反する事が多いですから、コストを下げる事により重きを置くメーカーの製品は、ギリギリの設計をしてしまう事が多いようです。特に電源周りの設計は、手を抜けばコストを下げられますから、安易に行われる可能性がありますが、動作が不安定になったり、耐用年数が出せなかったりして、性能の低下も顕著に表れます。
壊れにくいLSIにするには、先端技術をギリギリのところで使わないのが良いのですが、スペックを競い合うにはギリギリを狙わないと負けてしまいますから、なかなか難しいところです。デルは、独自技術を使わずに汎用の技術のみを使うと言われていますが、それも一つの故障のリスクを避けるテクニックなのでしょう。
ところで、USの潜水艦に搭載する装置に使われている半導体は、2・3世代前のテクノロジーを使ったものだと聞いた事があります。究極の信頼性は、枯れたテクノロジーに限るという事でしょうか。