357.中と外のトポロジー4: CADにおける古典的ドーナツ問題 (2004/06/29)

ドーナツを食べれば胃の中に入る。簡単に片づければそれでお仕舞いですが、せっかくですから、もう少しこの2つの間に関連を付けてみましょう。


今ドーナツの絵を書いてくださいと言われたら、どのような絵を描くでしょうか?単純に書くのなら、同心円で、半径が異なる円を2つ書くでしょう。確かに、ドーナツ型をしています。


しかし、「大小2枚の丸いお皿が重なっている」と言われれば、そのようにも見えてきます。つまり、小さい方の円の中が詰まっているのか空いているのか、見方によって変わってくるのです。


CADのような平面図形を扱うソフトウェアでは、同心の2つの円をどのように解釈するかが困難です。単に円が2つ重なっているだけでは、ドーナツなのか、2枚のお皿なのか判りません。


図形を構成するは物の境界を示してはいても、その境界のどちら側にものがあるか明確ではないからです。


ドーナツ型の場合は、外側の円はその内側にものが存在し(Inside Topology)、内側の円はその外側にものが存在する(Outside Topology)と言う属性を持たせることによって区別します。


これで解決したように見えますが、例えば内側の円(Outside
Topology)を拡張(Expand)させていき、外側の円より大きくなると変なことが起こります。


また、同心円を2つに切った場合、アルファベットの"C"の文字が向かい合ったような形になりますが、その場合はInside/Outsideの区別がなくなります。再び結合させたりすると、さらに複雑になってしまいます。


これら一連のドーナツ図形を扱う上での問題を、「古典的ドーナツ問題」と呼ぶことがあります。


このようにあらゆる図形の演算に対して、取り扱いが煩雑になるため、ドーナツ型を作るときは、最初から"C"の文字を向かい合わせてような作り方をします。


また、"C"の空いている部分を延ばして閉じた円になるようにした場合、少しでも重なってしまうと"Self Intersection"と称してやっかいな現象が起こります。正に、ヘビが自分のしっぽを食べたかのように、図形が消滅する事になります。


さて、胃の中の話しに戻りますが、2つの大きさが違う同心円を見て、2つの大きさの異なる丸いお皿が重なっていると考えれば、胃の中は体の中になりますし、ドーナツだと考えれば、胃の中は体の外になるのです。考え方によってどちらにも見える訳です。


ここまで考えてくると、お化粧をする女性にとって、「デパートの化粧室は中でデパートの売場は外」であるとしたら、「電車の中は中で電車を降りたら外」と言う理屈もあるのかも知れません。電車の中でお化粧をしている女性は、自分ではプライベートな世界にいるのかも知れません。


おっとその前にもっと重要なことに気付いていませんでした。そもそも電車でお化粧をする女性は、隣に座っているおっさんを男性(異性)とは思っていなかったのですね。

356.中と外のトポロジー3: ヘビが消える? (2004/06/27)

「人間の胃の中は体の外にある」と言うのは、動物の進化の過程を考えると分かりやすいかも知れません。


最初の動物は消化器官を持たず、体の表面に接する液体から養分を吸収していました。しかし、それでは接している時間が短いため、全ての養分を吸収することが出来ません。動物としてより活発に活動するためには、もっと効率よく養分を吸収することが必要です。


そこで最初はくぼみであった養分を吸収する組織が進化して、体を貫通する消化器官になったそうです。消化器官は体の表面の形が変化して出来たものなのです。


そう考えると人間は、トポロジー的には「ドーナツ型」をしていると言えるでしょう。


おなかの空いたヘビが、間違って自分のしっぽを食べ物だと思って食いついてどんどん食べていき、最後に頭の部分を食べたら消えてしまったと言う話しがあります。


これは冗談だとしても、ドーナツ型には不思議な現象が起こることがあります。


「メビウスの帯(輪)」は、裏と表がない図形として様々な研究の対象になっています。


試しに適当な長さの2センチ幅ぐらいの紙テープを、一回ひねって輪を作ります。そのテープの真ん中にぐるっと一周線を引き、その線上をはさみで切って輪を2つにしたとき、2つの輪は分かれているでしょうか?それともつながっているでしょうか?


実際にやってみると、予想と違う結果になることがあります。(と言うか、問題自体が誤った表現をしていますね。)そこでなぜそうなるかを説明するための数学がトポロジーです。


トポロジー(Topology)とは、辞書で引くと「位相幾何学」と訳されますが、大雑把な図形間の相対的位置関係を扱う数学です。


ドーナツ型は日常的によく目にする図形ですが、注意して扱わなければならない要注意図形です。それにはトポロジー的な考え方が必要になります。


では次回は最終回、「ドーナツはドーナッてんの?」をお送りします。(いや、あまりにもベタですので、題はちゃんと考えます。)

355.中と外のトポロジー2: 胃の中は外? (2004/06/25)

先日夜中に目が覚めたのでテレビをつけてみると、高校の生物の講座をやっていました。受精卵が細胞分裂を繰返しながら、成体になっていくようすを解説していました。


一つの細胞からある程度の数に分裂が進むと、やがて表面にくぼみが出来始め、組織の表面がそのくぼみに吸い込まれるようにして入っていきます。


そしてそのくぼみが深くなっていき反対側に到達するようになると、そこで新たな開口部ができます。では、新しい開口部最初のくぼみができた古い開口部の、どちらがでどちらが肛門になるのでしょう?


素人考えでは、口になるか肛門になるかははっきり決まっていて、最初のくぼみが口になり、新しくできたのが肛門のように想像してしまうのですが、人間の場合は新しい開口部が口になるそうです。このような動物を新口動物と呼び、ほ乳類の他にはカエルやウニなどが含まれるそうです。


これとは逆に、最初のくぼみが口になる動物旧口動物と呼び、昆虫やミミズが分類されるそうです。以前は新口動物と旧口動物の違いに、何か特別な意味があると考えられていたそうですが、その後の研究で生物学的にはあまり重要な意味はないとされているようです。


になる反対の開口部は肛門になるわけですから、同じ開口部と言っても気分的には大きな違いがあるのですが、生物学的には食べ物を入れるところと出すところは機能的に補間関係にありますから、同じ種類の器官であり、似たもの同士と考えるようです。


さて、くぼみが成長して消化器官になっていきますが、くぼみができる前は体の表面にあったわけですから、皮膚と胃・腸の壁は、最初は区別がなかったのです。


あなたの鼻の横にあるイボは、ひょっとして胃の中のポリープになっていたのかも知れません。


ところで「胃の中は体の中か外か?」、と言う質問に答えるのは簡単ではありません。例えば体内には血液やリンパ液が循環していると定義すれば、胃の中は体の外と考えることが出来ます。


トポロジー的に考えると、「皮膚と同一面を形成するものは、体の内部と外部を隔てるとなります。ですから胃の中は感覚的には体の内部であっても、トポロジー的には体の外部になってしまうのです。


ものの捉え方によって、中か外か判断が変わってくるのです。ひょっとして電車の中でお化粧をする人にとっては、電車の中がプライベートスペースなのかも知れません。

354.中と外のトポロジー1: パブリックとプライベート (2004/06/24)

最近電車に乗っていて思うのですが、どうも「電車の中でお化粧をする女性の方が増えてきている」のではないでしょうか?


確かに、昔から口紅やコンパクトをちょっと出してきてお化粧を直す方は見かけましたが、電車の中で本格的にお化粧をされる方が増えているように思うのです。


私が利用する電車だけの傾向かも知れませんが、多い日には隣に座った女性が入れ替わり立ち替わり次々と化粧をして行かれることがありますし、混雑した電車で立ったままされている方も少なくありません。


男性が電車の中で電気ひげ剃りを使う事もたまに見かけますが、それに比べると女性のお化粧に出くわす事の方が増加傾向にあると思います。


もっとも男性が電車の中でお化粧を始めないだけましですが、何となく見てはいけないような気がして、早く終わらないか気になってしまいます。


なぜ見てはいけないように感じるかというと、お化粧が進むにつれて見違えるように美しくなって行くのも怖いですし、一生懸命やっている割に改善が見られないのも気の毒なような気がして、できるだけ視界から外すようにしています。


まあ、「かぐや姫が鶴になって、機を織っている姿を見てはいけないのと同じ」、としておきましょう。


しかし元来、化粧などと言うのは完全にプライベートな作業であるはずで、パブリック・スペースでは禁止だと思うのですが、最近はそれらの区別がなくなってきているのでしょうか?


欧米では、子どもの小さいときからパブリックプライベートの区別をはっきり躾けますが、日本ではあまり意識していないせいか曖昧になりがちです。


そう言えば、携帯電話インターネットによって常に誰かのそばにいるような安心感があるそうですが、逆に言えば常に外界から隔離された実感が薄れてきているのかも知れません。


家の中にいても、外出しているのと同じように買い物をしたり情報を手に入れることができ、つまり家のの区別がなくなってきているのです。


世の中が便利になると、家の中と外の区別がなくなり、昼と夜の区別がなくなり、男と女の区別がなくなる(?)。全てのものがボーダーレスになってくるのです。


おそらく電車でお化粧をしている方々は、家の外でお化粧をしているという意識はなく、電車の中でしているとお考えなのでしょう。


どこまでが中でどこからが外か、簡単なように見えて奥が深そうです。

353.「小数点記号論争」の結果 (2004/06/21)

もうだいぶ前になりますが、「217.小数点記号論争 (2003/10/10)」で紹介した小数点の付け方の話題を覚えておられるでしょうか?その後、結果がどうなったか気にはなっていたのですが、ほったらかしにしておりました。遅ればせながらご紹介したいと思います。


小数点の付け方には、ピリオド(dot)「.」を使う国と、コンマ「,」を使う国があり、国際的な商取引や学会等で混乱を引き起こす可能性があるので、どちらかに統一を図ろうと言うものでした。


ピリオドを使う国には、日本を始め、中国、韓国、英国、米国などがあり、コンマを使う国にはフランス、ドイツなど、ヨーロッパを中心に多くの国があります。


パームでも環境設定書式を選択しますが、国ごとにどちらを採用しているかを知ることができます。


一般に小数点にピリオドを使う国では3桁ごとの位取りにコンマを使い、小数点にコンマを使う国では反対に位取りにピリオドを使うため、さらに混乱に拍車を掛けることになります。


例えば、小数で「1.23」「1,23」は間違えにくいでしょうが、「1.234」「1,234」では、小数点なのか3桁ごとの位取りなのかがこれだけでは解らなくなってしまいます。


また、「1,234.567」「1.234,567」となってくると、もうどうでも良いように思えてきます。


各国が使い慣れた方法を国際標準に採用してもらうよう働きかけたようですが、さて結果はどうなったのでしょうか?


第22回国際度量衡総会において決議されたという内容を要約すると、次のようになります。



  1. 小数点に使う記号は、ピリオドでもコンマでもどちらを使っても良い。
  2. 数字を読みやすくするために3桁ごとに数字を区切る場合、それらを分けるスペースには、ピリオドもコンマも挿入することはできない。

つまり、現状小数点としてピリオドもコンマも同様に世界中で広く用いられているため、どちらか一方に決めることはせず、同一文章中において統一されていれば、どちらを使っても構わないと言うことです。


また、3桁ごとに数字を区切ることは許されるが、スペースのみによって分け、ピリオドもコンマも使用してはならないとしています。


この3桁ごとに分ける方法は、既に1948年の会議で決められていたことの再確認をしたと言うことだそうです。


数字の間に挟むことができるのは、小数点としてのピリオドかコンマだけで、3桁ごとに分ける場合は、はるか昔からブランクに決まっていたようです。


ただ、1948年に決まっていたことを再確認するぐらいですから、定着していなかったのでしょう。たまに外国製のドキュメントで3桁ごとにブランクを入れた数字を見かけることがありますが、それほど多くの例があるとは思えません。


特にWEBワープロ・表計算ソフトなどにおいてブランクを挟んだ数字を扱えば、どこまでが一連の数字か判断できずに途中で改行が入ってしまったり、計算を間違えてしまうことも考えられます。


コンマやピリオドを使うことが小数点と混同する可能性があるなら、代わりにアンダースコアを使うのも良いかも知れません。


いずれにしても、長く使われてきた表し方を変えて行くのは、パームの普及と同じぐらい難しいのではないでしょうか?