249.ゲノム三題3: 分子生命科学 (2003/11/09)

さて、このようにゲノム研究の最前線情報が盛りだくさんの「ゲノムひろば」ですが、当サイトにメールを頂いたYさんは、その全体のコーディネートをされておられる研究者メンバーのお一人です。


学会や勉強会などの専門家が集まる場所での研究成果の発表は、国内的にも国際的にも多くの機会が提供されていますが、一般大衆に向けた最新情報の提供は、それほど多くの試みがあったとは言えないでしょう。


コンピューターや電子工学の分野で、一般の人に向けられた最新技術の発表の場がどれほどあったでしょうか?コンシューマー製品の発表の場はいくつかありますが、それは売るための展示会に過ぎません。純粋に技術そのものの理解を、一般の人に広めるためのイベントは、全くと言って良い程無かったと思います。


ゲノムという難解な(少なくとも私には)テーマを取り上げながら、一般の人にその活動を理解してもらおうとするこのようなイベントは、評価されるべきでしょう。また、子供たちがこのイベントで覗いた新たな感動が、明日の科学の世界を切り開いて行く事になるかもしれません。


ゲノムを代表とする分子生命科学は、これまでの科学の分野で言えば、生物学、農学、工学、薬学、医学などの発展・応用であり、また、分析機器に関しては、物理学化学が大きく関連しています。


つまり、様々な科学分野がお互いを補完しながら絡んでいるわけで、それらの基礎科学が重要であり、さらにその上に応用技術も必要とされる、実に奥の深い科学分野だと言えるでしょう。


京都のイベントは今日で終わりですが、来週11月15日(土)、16日(日)はゲノムひろば2003 in 東京が、東京・お台場の日本科学未来館で開催されます。お近くの方は、是非会場に行って、最新の科学に触れられては如何でしょうか?

248.ゲノム三題2: 実験生物とミュータント (2003/11/09)

ミュータントと言えば、トータル・リコールを思い出してしまうのですが、突然変異体と言うことらしいです。ミュータントを作るために、発ガン性物質UV(太陽光線)を使うそうです。これらを使うことによって、遺伝子に傷が付くそうです。


ゲノム解析の為には、ゲノムの操作がやりやすく、結果の評価がやりやすい生物が用いられます。また、成長が早く世代の交代サイクルが短い事が重要です。ゲノムの変化がどのように成体に影響を及ぼすかが、短期間で確認できる必要があります。そこで、メダカ線虫が登場するわけです。


小学生の子供を連れていったのですが、メダカは家でも飼っているので、色の違いひれの形の違いがどのようにメダカの生態に影響するかなどは、それなりに興味を持ったようです。また、ゲノム操作によってひれの形が変わったり、背骨がないメダカが出来たりして、それらを顕微鏡で直接見ることが出来るのは、子供にとって良い機会だったと思います。


私も小学生の頃、高校の文化祭で顕微鏡のアメーバを見たことを、今でも覚えています。私の子供も、オリンパスやライツの如何にも高そうな顕微鏡を自由に触って良いと言われる気前の良さに、かなり喜んでいたようです。


さて線虫ですが、数週間で成虫になって卵を産み落として行くそうです。顕微鏡で見るとゼラチンの中を這う線虫の周りには、産み落とされた卵が転がっていました。


線虫は雄雌同体で、卵子と精子が同じ体内に存在していて、どんどん細胞分裂を進めながら徐々に体内から卵が排出されます。雄と雌を掛け合わせることが出来ないので、遺伝によるバリエーションが作りにくいのかと思ったのですが、雄雌同体だけでなく雄はいると言うことです(雌はなぜかいないそうです)。


その雄の精子は、雄雌同体のものに対して優勢であるらしく、力の強い物が繁殖していくようになっている自然界の法則が、ここにも存在しているようです。


わずか1ミリしかない線虫。最初動いているのを見たときは、気持ちの良い物ではありませんでしたが、説明を聞いた後にもう一度見ると、少しかわいく思えてきたのは私だけでしょうか。


ただ主食が大腸菌ですから、お友達にはなれそうもありませんが。

247.ゲノム三題1: ゲノムとDNA (2003/11/09)

昨日、京都の四条烏丸で開催されていました、「ゲノムひろば」に行って参りました。244の雑記で紹介した事もあり、自分の目で確かめなければと思ったのです。また当サイトを読んで頂いているYさんと、会場でお会いすることも楽しみでありました。


ライフサイエンスと言う言葉が、最近色々なところで使われるようになってきました。またクローン牛ゲノムの解読遺伝子操作大豆なども、私達の普段の生活の中で頻繁に耳にするようになってきました。


しかし、私のようにライフサイエンスが広まる前に教育を受けた者には、この新しい科学の体系的な位置づけが解りにくいものです。何かが起こっているのではないかという想像は出来るのですが、これからの世の中が一体どうなって行くのか、不安に思っている人も多いのではないでしょうか?


その昔、コンピューターという言葉が使われ初めて、人間の脳が全て計算機に置き換わってしまうと考えた人がいたのに似ているかもしれません。


この「ゲノムひろば」というイベントは、そのような疑問に答えてくれる格好の機会を与えてくれました。ところが、私が会場で初めて聞いてみた質問は、既に的を外していたようです。


「DNAはゲノムの一部分なのですか?」


素人は知ったかぶりをしてこのような質問をするから困ります。こんな質問は、もっと理解してからするべきでしょう。しかし、私に質問された方は、このど素人の質問に、言葉を選びながら丁寧に答えてくれました。


要するに、「DNAは物質であり、ゲノムは機能を持った全体を指している。これらはお互い包括関係にあるのではなくて、全く概念的に異なったものだ」、とのこと(と私は解釈しました)。


遺伝子やDNAと言った言葉は、よく分からないながらも長年使ってきましたから、その中に無理に割り込まそうと考えてしまうのですが、ゲノムという言葉は概念的にもう少し難しいもののようです。


さて、取っかかりからつまずいてしまいましたので、後は怖い物はありません。多くの第一線の研究者の方々が、最先端の研究テーマを引っ提げて待ちかまえています。では、面白そうなブースを覗いてみましょう。

244.ゲノムひろば (2003/11/05)

昨日、当サイトを読んでくださっているYさんと言う方から、メールを頂きました。“一般の方々に科学をもっと広く知ってもらおう”、と活動をされておられるそうです。


ご専門が生物の分野だと言うことで、ゲノムに関する一般向けのイベント「ゲノムひろば」を、紹介していただきました。今週の週末に京都の四条烏丸で開催されるそうです。


イベントのタイトルが親しみやすい感じがしますし、サブタイトルも、「ゲノムに触って!ゲノムで感じて!市民との交流イベント」、とあるように、何かゲノムと簡単に触れ合えることができる予感がします。


私も、科学する心は幼少の頃に養われるものと考えておりますので、このような企画のイベントは、出来るだけ子供を連れて行くようにしています。ゲノムは、私の年代では学校では習わなかったので、かなり手強そうな感じがしますが、このイベントは楽しめるかもしれません。


ゲノムと言えば、あらゆる動植物のゲノム解析が進行していたり、最近解析結果が特許申請されたりして、言葉としてはよく耳にするようになってきました。また、生命の誕生や進化、病気や遺伝の話は、実は生活に一番密接に関連したテーマでもあるのです。


また子供にとっては、メダカショウジョウバエを見たり、普段あまり見ることのできない、ホヤ,線虫,細胞性粘菌などを顕微鏡で見ることができると言うことで、生物に対して興味を持つきっかけになるかもしれません。


そう言えば、昔ショウジョウバエを研究対象にしていた方から、「ショウジョウバエ羽を動かす筋肉は1本だけであり、遺伝子を操作してその筋肉の運動能力を変化させることによって、色々な筋肉に関するデータが集められるのだ」、という講釈を受けた事を思い出しました。


筋肉は、ショウジョウバエも人間も同じ組織からできていて、ショウジョウバエの筋肉はその基本を成すものだと教わりました。ショウジョウバエの筋肉より原始的になると、繊毛運動などの違う動きになるので、筋肉を持つ生物の研究には、ショウジョウバエが欠かせないのだと言われていました。


あれから15年が過ぎようとしていますが、その間のライフサイエンスの発達は目を見張るものがあります。


秋の行楽シーズンです。もし、京都の紅葉を見て疲れたなら、細胞性粘菌を顕微鏡で覗くのも、新たな発見があるかもしれません。(かなり新鮮かもしれない!)

137.モンテカルロ法 (2003/06/30)

モンテカルロ法がどのようなものであるかは、ここに分かりやすい説明があります。


この中に、モンテカルロ法を使った円周率πの求め方が紹介されていますが、ここで大切なのは、ランダムに発生させた事象評価して、採択するか棄却するかを決めている事です。


LSIの論理セルも、これと似たような方法で配置を求めていきます。まず最初に、全くランダムにすべてのセルをLSI上にばら撒きます。次に1つの論理セルに注目して、他の論理セルと交換した場合の評価を行います。改善されれば採択、されなければ棄却します。評価は、仮想配線長が短くなるかどうかで判断します。これを満足できる結果が出るまで、延々繰り返すのです。


この方法には、二つの欠点があります。一つ目は膨大な量の計算をしなければならない事です。特に大規模なLSIになればなるほど、指数関数的に計算量が増えますから、常識的な時間内で結果が得られるように考慮しなければなりません。


二つ目は、前にも述べましたが、最適解ではなく極小解に陥りやすい事です。いったん極小解に陥ると、そこから抜け出すには大きなエネルギーが必要になります。そしてどの極小解に陥るかは、初期条件に大きく影響されます。最適解が求まらないまでも、より良い極小解を導く為には、優れた初期条件を与えてやる事が重要です。


この事を、文学的に表現すると、次のようになります。


一つの最適解と無数の極小解が、広がりを持った空間に漂っています。一つの極小解を見つけた人は、さもそれが最適解だと信じて喜ぶのですが、すぐに別のもっと良い解がある事に気づくと、今度はその新しい解を最適解と信じるのです。そして、それを幾度となく繰り返すうちに最適解の存在さえ疑うようになり、もはや本当の答えを追求する事を諦めてしまうのです。