135.窓側、それとも通路側? (2003/06/28)

そろそろ、夏休みの旅行の計画を立てる時期になりました。SARSも取りあえず一段落しそうですので、海外旅行に久しぶりに行こうとしておられる方も、いらっしゃるのではないでしょうか?


ところで、みなさんは飛行機に乗られるとき、窓側通路側のどちらを希望されますか?窓側は、景色が見られる反面、トイレに行くときに気を使いますし、通路側はトイレに行きやすい反面、内側の人が通る時に立たなければなりませんし、景色もあまり見ることができません。


家族旅行などでは、身内ですからあまり気にしなくても良いのですが、一人で乗るときには、座席の場所は特に気になるでしょう。


DC10型機の中央席は、5列が並んでいますので、その真ん中に座らされたらきついです。その代わり、同じDC10の窓側席は2列ですので、窓側からでも比較的楽に通路に出られますから、同じ飛行機でも天国と地獄です。


ところで、非常口のすぐ後ろの席は、足下が広くて、離着陸時にスチュアーデスさんとお話ができると言うことで人気がありますが、ある時席に着いたら何と目の前についたてがあり、すごく閉塞感があったことがあります。


私は、トイレを我慢してまでも景色を見たいたちですので、いつも窓側を指定するのですが、ある時US国内線でチェックインの時に、窓側をリクエストしたら、「全部窓側で且つ通路側だ!」と言われたことがあります。


聞き違えたと思っていたのですが、搭乗したのは確かに通路を挟んで1列ずつ、サーブ製プロペラ機です。エアーと書かれたノブを引くと、直接外が見えます。


当然タラップのひもを引っ張ってドアを閉めたのはパイロット愛想笑いを振りまいて操縦席に着きます。


まあ、マイクロバスに乗っていると思えば何と言うことはありませんし、機体との一体感があっておもしろいといえばおもしろいかもしれません。


着陸は明らかに機首を下げて滑走路に突っ込んで行く感じがたまりません。預けた荷物は、降りたところで受け取れます。


気流の関係で揺れるときは半端ではありませんから、大きく揺れた経験がある人は二度と乗ることはないようです。


地方の都市に行くとき、飛行機のチェックインで窓側か通路側か聞いてくれないときは、覚悟をした方がよいかもしれません。

134.NP完全 (2003/06/27)

小学校の算数で習う円周率四捨五入でさえも結構難しいものなのですが、実際の世界では当然のようにもっと複雑な問題があります。


研究室で本当のサイエンスのテーマとして扱われる物には、我々の生活とはあまり関係がないようなものも多いのですが、逆に複雑な問題でありながら私たちの生活になくてはならないものもあります。


先日お話ししましたパソコンのハードディスクを例に取ってみましょう。基板の実装面が見える状態ならば、数多くの部品が基板上にはんだ付けされているのが分かると思います。たいていは、表面実装の部品の小ささに気を取られますが、いくつかのLSI部品も同時に見える筈です。


製品によって異なりますが、最近のハードディスクの場合なら、一つのLSIチップ数百万から数千万ものトランジスターが搭載されています。


論理回路の最小単位は論理セルと呼ばれ、数個から数十個のトランジスターによって構成されます。それぞれの論理セルには複数の端子があり、別の論理セルと相互に接続されます。接続する為の配線は短いほど遅延が少なくなり、LSIの性能を向上させる事ができますから、できるだけ接続関係のある論理セルは近くに配置してやらなければなりません。


メモリーセルのような、同じ形で同じ機能のものを規則正しく並べるなら良いのですが、各々違う機能を持つ論理セルの場合は、そう簡単に並べる事はできません。


数学的には巡回セールスマン問題と言う、セールスマンが複数の都市を巡回するのに最短経路を見つける古典的な類似の問題がありますが、これまでに1万数千の都市までしか数式による解法は得られていません。


計算しなければならない対象が増えると共に、計算量が指数関数的に増える為、計算で求める事ができないとされています。このような問題を、NP完全問題と呼びます。


このような場合、数式による計算によって求める事はできず、ヒューリスティックな解法、つまりいろいろ場当たり的に試しては評価して、満足できる答えなら採択する、駄目ならもう一度やり直すといった方法を取ります。


ただ、いろいろ試すといっても、行き当たりばったりではいつまでも良い結果は出ませんから、早く収束するアルゴリズムを使う必要があります。


LSIの論理セルを配置する時に使われるアルゴリズムの一つに、シミュレーテッド・アニーリングがあります。擬似的焼きなましとでも言いましょうか。


固体の温度を融けるまで上げて分子に運動エネルギーを十分に与え、自由に移動させてから徐々に温度を下げる事によって、分子を安定した状態で再凝固させるのです。論理セル同士の接続の長さをポテンシャルとして定義してやれば、自然とポテンシャルの低い安定した位置に収まってくるという訳です。


ただ、最適解に落ち着くのが理想なのですが、極小解にはまってしまう事があり、しかも悪い事にどれが最適解か誰にも分からないので、何度も何度も繰り返してみて、少しでも最適解に近づけようと努力します。


このようにパソコンのハードディスクの部品一つ一つが、苦労を伴いながら設計されて行くのです。


そこで一言。


計算で答えが出てくるうちは、計算を楽しんでやろうじゃないか、小学生諸君! (でも計算は面倒くさいね!おじさんも嫌いだよ。)

133.四捨五入は妥当か? (2003/06/25)

今日は、四捨五入のお話です。わざわざ説明するまでもありませんが、小学校で習って以来慣れ親しんできた、数字を丸める為の手法の一つです。


ある数字の桁に注目して、4以下なら切り捨て、5以上なら切り上げます。そうすると近いほうの切りの良い数字になりますから、その後の数字の扱いが楽になります。切り捨てる場合と切り上げる場合がありますから、一見最終結果に悪い影響を与える事はなさそうに思えます。


今、90から100までの数字が並んでいます。1の位を四捨五入するとき、四捨五入する前と後で、合計に変化があるかどうかを調べてみましょう。


90 → 90

91 → 90

92 → 90

93 → 90

94 → 90

95 → 100

96 → 100

97 → 100

98 → 100

99 → 100

100 → 100

四捨五入する前の合計は、1045、四捨五入した後の数字の合計は、1050です。


0から9までの数字で、0は切り上げも切り捨ても行われませんから、残りの1から9までの9つの数字で数の増減が起こります。1から4の切り捨ては9から6の切り上げに対応しますが、5を切り上げているのに対応する切り捨てがありません。切り捨てを4回、切り上げを5回行ったので、増加しているのです。


95を切り上げた時の5が合計の増加分になります。1の位の数字に0から9までの数字が出る確率が同じだとすれば、切り上げが必ず多く発生します。


また数字の取り方が5刻みの場合で、(79.5, 80.5,
68.0, 92.5, 84.0)のような場合に、下1桁を四捨五入した場合は、切り捨てがなく切り上げしか行われませんから、明らかに大きくなってしまい結果の妥当性に疑問が生じます。


そこで、5以外はこれまで通りに切り捨て・切り上げを行い、5の場合のみ50%の確率で起こる事によって切り上げるか切り捨てるかを選択する方法が考えられます。例えば、その一つ上の位の数字が奇数なら切り上げ、偶数なら切り捨てるなどの方法があります。(この方法では結果が偶数になりますから、後から2で割る場合などに有効です。)


このように数字を丸める方法を、四捨六入と呼び、測定値の計算などで広く使われています。必ず0から9までの数字が同じ確率で登場するとは限りませんし、母数の分布も傾向があるなど、その場合に応じた方法を採る必要がありますが、四捨五入には結果を少し大きく見せる傾向があるという事は、知っておく必要があります。


数字は一度結果が出てしまうと、途中の計算過程で何が起こっていたかが分からなくなるので、常に計算方法の妥当性に気を配りたいものです。

132.円周率π=3? (2003/06/24)

日経サイエンス8月号に、円周率πに関する記事が2つ掲載されています。


一つ目は、「TOPICS」の中の「コンピューターが明かすπの神秘」と言う記事です。


そもそもノイマン型のコンピューターを考案したのは数学者でしたが、純粋数学分野ではコンピューターは単なる計算機として扱われ、積極的に研究に応用するには処理能力が不足していたらしいのです。


ところが最近のコンピューターの進歩によって、今まで知られていなかった定数の規則性公式を発見する事ができるようになってきたそうです。その成果の一つとして、円周率の任意の桁の値を、公式によって求めることが可能になったそうです。


これまでの解法は前の桁の結果を使わなければならなかったそうですから、画期的なことだそうです。この公式を使って、これまでに計算により求められてきたπの値の検算作業が、進められているそうです。


ここまでが、円周率πの桁を増やしていく話です。二つ目は逆に桁を減らす話です。


「いまどき科学世評」と言うコーナーで、「地震防災とπ=3の勘違いと言う記事が掲載されています。この中で円周率πを、小学校の計算でこれまでの3.14からにするという改正がされようとしているが、とんでもないことだと訴えています。


3.14から3にするのは、計算の負担を軽減するのが目的ですが、それよりももっと重要な事を見失ってしまうと述べています。


円に内接する正六角形を書いたとき、六角形の頂点によって、円周は6等分されます。半径をrとすると、円周は2πr。これが6等分されると2πr/6でπr/3になります。もし、π=3ならば、6等分された円周はr、つまり半径と同じになります。


一方、正六角形の一辺の長さは、半径を一辺とする正三角形を構成しますから、半径rです。円弧と直線の長さがどちらも同じと言った、直感的に変な結果が起こります。


著者は、3.14でなくても3.1で良いから、3より少なくとも大きくしておかないと、計算して求めた結果が論理性を失うと警告しています。


ここまで真剣に考えなくても良いと思う人もいると思いますが、私はこの意見に賛成です。この正六角形の例は特殊なケースかもしれませんが、円周や円の面積が簡単な数字で表される物ではないと言うことを、常に感じておくことは必要だと思います。今は100マス計算が流行る程、計算力の重要性が再認識されているのですから、円周率の桁数を減らす必要はないでしょう。


有効数字を減らすと、一見計算が楽になって得をしたような気になりますが、元の数字が持つ意味をよく考えておかないと、結果の数字に意味がなくなってしまうことがあるので注意が必要です。


そう言えば、小学校で習う四捨五入でも、似たような話があります。

131.ビールは何と言ってもチェコが一番 (2003/06/22)

神戸市北区に、キリンビールの神戸工場があります。以前はJR尼崎駅前にあったのですが、数年前に今の場所に移転して新しい工場を建てられたようです。


予約なしで自由に見学ができ、ビールの試飲ができることもあって、週末はかなりの盛況のようです。見学コースの最初には、ビールの原料がいろいろ並べられており、麦芽やホップの種類の違いによって、どのようなビールができるかが説明されています。


ホップは主要な原料の一つですが、世界最高と言われているのがチェコ産のものだそうです。ビールと言えば、ドイツやベルギーが有名ですが、チェコビールも、馬のおしっこと並び賞される程有名です(この例えの本当の意味は私も知りません)。しかし現地に行っても、なかなかビールにありつける所は少ないようです。


1989年5月にプラハに行ったとき、まだ旅行シーズンには早く観光客もまばらでした。そもそも、それほど賑やかな町ではありませんからレストランなども少なく、昼間見つけたカウンター形式のパブのような店で、やっとチェコビールにありつくことができました。


少し濃いめの色と、いかにもから作られたという独特の香りが特徴です。日本やアメリカのように、冷えたビールをグイッと飲むのではなく、味わいながら一口ずつ頂く感じですが、確かにうまかったのを記憶しています。


こんなにうまいビールがあるのに、夕食のレストランでビールはあるかと聞くと、「そんな低級なアルコールは置いていない、ワインならある。」と言われ、仕方なくワインを飲んだのですが、ビールに比べて此と言った特徴が見あたらないワインであったため、明日もう一度昼間にビールを飲むぞと決意したものでした。


詳しくは書けませんが、東欧の国らしい理由により、次の日はビールを飲むことができませんでした。結局一度しか飲むことができなかったのですが、是非また飲んでみたいと思っています。よくピルスナーと呼ばれるタイプのビールがありますが、チェコのピルゼンビールがその代表です。


ドイツのビールも良いのでしょうが、少し私には味がきつく感じます。ドイツビールではライト系の方が私には合うようです。また、フランスのビールなどと言うとまがい物みたいですが、結構私の好みに合っています。それから、オーストラリアビールもうまいと思います。どの銘柄を選んでも太陽の恵みを受けた穀物の香りがします。


USのビールは、大抵はアメリカンテースト、つまり味が薄いのですが、アイスビールになると結構味がシャキッとしていて、アルコール度数も高めになりお勧めです。バッド・アイスは、私のお気に入りです。


ただ、日本とUSのビールはチンチンに冷やして飲みますが、ドイツ人に言わせると「まずいから冷やさないと飲めないんだ」などと言い出します。まあ、それぞれのお国に合ったビールを、お好きな飲み方で頂くのがよろしいかと思います。