140.通勤電車+無線LAN=PDA (2003/07/04)

少し前に、JR西日本が無線LANを使った実験を始めたと言うニュースがあり、少し気になっていました。「無線LANの鉄道への応用技術開発-未来を拓く鉄道の変革をめざして-」には、車両の運行状況の把握や駅の案内表示の為の情報を、大量かつ高速通信する事を目的としていると書かれています。


JR宝塚線の沿線に、無線LANのアクセスポイントを400-500メートルごとに配置し、130Kmで走行する車両から社内のネットワークに接続する事ができたと報告されています。


確かに、最近列車の事故が増えていますし、乗務員に事故の情報や復旧の予定などが伝わらず、数時間も車両に閉じ込められたと言う事が何回か起こっていますから、情報の伝達方法の改善は必要だとは思います。


しかし、それにしては不自然なスペックがいくつかあります。例えば:



  • 無線LANとして広く一般に普及していると言う理由で、IEEE802.11bを採用した事。
  • 複数のネットワーク(複数の線区)を同一IPアドレス移動できる事を目指した事。
  • 130Kmで走行中の車両から、2-3Mbpsの伝送速度の送受を行った事。
  • 乗務員室から、WEB形式で閲覧できる事を確認した事。
  • IP電話普通の電話と同じ品質で使える事を確認した事。

これを見て、通勤電車で近い将来、無線LANが使えるようになると予想しない人がいるでしょうか?


もちろん、列車の運行情報の伝達でも、このような事が要求されるのかも知れませんが、それならもっとそれに特化した方法がありそうに思います。


そして、昨日の発表は更に期待を膨らませるものでした。「駅における無線LANによるインターネット接続サービスの実験」は、そのものずばりです。取りあえず新幹線の駅の待合室だけのようですが、走行中の列車と駅の両方で無線LANを実用化しようとしている事が、はっきり分かります。


最近は、アメリカン航空のように航空機の中でも、携帯電話の利用制限が緩くなってきているようです。現在は、携帯電話の利用が列車内で制限されていますが、無線使用可能車両を指定するなどの動きも出ています。


さて、通勤電車で無線LANが使えるようになったら、その端末の主役は当然PDAしかないでしょう。


これまで駅のキオスクなどで、ソフトウェアや電子書籍のダウンロードの実験をしていましたが、電車内でダウンロードできるようになれば、利用は飛躍的に拡大するに違いありません。通勤電車の必需品になりますから、まず駅のキオスクパーム特約店契約を結びましょう!


ここは一気にパームを普及させるチャンスです!

139.ADSLスピードアップ (2003/07/03)

これまでのADSLを6月末で解約し、7月から別のプロバイダーに乗り換えました。これまでは1.5Mbpsだったのですが8Mbpsになりました。12Mbpsも選択できたのですが、どうせ長く使い続ける訳でもなさそうなので、今回は8Mbpsで様子見です。


今回のモデムはリンク速度を測定できます。電話局からは2.3Km離れていますが、7.1Mbpsぐらい出ています。ところがスループットを計って見ると、2.4Mbps程しか出ていません。リンク速度の80%ぐらい出るそうですから、明らかにどこかにボトルネックがありそうです。


お決まりのMTU/RWINは、問題なさそうです。そこでWEBで情報を捜してみると、無線LANのスループットに問題がありそうで、無線LANの11bを使う場合3Mbpsが限界のようです。


11gでさえ10-15Mbps程度のようですから、無線LANの併用を考えた場合、8MbpsのADSLでさえ持て余す感じです。本当は有線で計測したら良いのですが、わざわざモデムを付け替えるのも面倒なので、2.4Mbpsがトータルの実力と言うことで、しばらく使ってみようと思います。


パソコン関係は、同じ環境のままだと飽きてきますから、たまには変更してみるのも気分が変わって良い物です。特に今回の変更は、スピードアップと共にコストダウンを図っていますから、Better and Lessと言う事で良しとしましょう。

138.PDAの配置問題 (2003/07/02)

さて、LSIにおける論理セル配置問題が、なかなか最適解にたどり着けない事を説明してきましたが、最適解を見つけることが難しいのは、PDAの世界でも同じ事のようです。


PDAの業界全体を一つのLSIに例えると、その構成要素はあたかも論理セルのようです。PDAやソフトウェアのメーカーを始め、ユーザーやフリーウェア作家やユーザーコミュニティーなどが複雑に絡み合って、引っ張り合ったり反発し合ったりしています。


何となくある一定の状態で収まっているかと思えば、今まで2つだったものが1つに合体したりして、そうするとまた別のところで連鎖的に影響し合って、また別の分裂消滅が起こったりします。


大きなな論理セルには、PalmWin MobileLinuxザウルスなどがありますが、どうもWin Mobileは、運動エネルギーが他よりも大きいみたいで動きが活発です。しかし、ただ右往左往していると言った感じで、ヒューリスティクに解を見つけようとしているのでしょう。まだ最適解がどこにあるのか分からない様子です。


Palmは最近Handspringと合体したのですが、勢いは以前とあまり変わっていないようです。


どうもこのままでは、PDA全体としての最適解にはたどり着けそうもありません。初期条件が良くなかったのかもしれません。こうなったら、一度大きな力で全体的に運動エネルギーを与えて、根本的に大きな変化を引き起こしてやるのが良いかもしれません。


さてPDAの中でなかなか最適解が見つけられない内に、同じ基板にある別の機能を持つ2つのLSI統合して、3つのLSIを2つにする事になってしまいました。こうした方がコストを削減でき、性能も向上する可能性があるからです。


これまで、PDAのLSIにあったPalmWin Mobileは、それぞれ2つのLSIに別々に吸収されていったのです。その2つのLSIとは、パソコン携帯電話でした。


Win Mobileは、パソコンと同じLSIに吸収されましたが、ほとんどパソコンと似ていた為、その存在意義を失い、その名が消えるまでにそう長い時間はかかりませんでした。一方Palmは携帯電話と同じLSIに吸収され、そこでの存在意義を見つけ最適解を捜し始めました。


さらに時代は進み、次はパソコンと携帯電話が小型化され、ついに一つに統合されてしまいました。その統合された小型の携帯電子機器を、人々は偶然にもPalmと呼びました。過去にそのような名前の小型コンピューターが実際にあったことも知らずにーーー。

137.モンテカルロ法 (2003/06/30)

モンテカルロ法がどのようなものであるかは、ここに分かりやすい説明があります。


この中に、モンテカルロ法を使った円周率πの求め方が紹介されていますが、ここで大切なのは、ランダムに発生させた事象評価して、採択するか棄却するかを決めている事です。


LSIの論理セルも、これと似たような方法で配置を求めていきます。まず最初に、全くランダムにすべてのセルをLSI上にばら撒きます。次に1つの論理セルに注目して、他の論理セルと交換した場合の評価を行います。改善されれば採択、されなければ棄却します。評価は、仮想配線長が短くなるかどうかで判断します。これを満足できる結果が出るまで、延々繰り返すのです。


この方法には、二つの欠点があります。一つ目は膨大な量の計算をしなければならない事です。特に大規模なLSIになればなるほど、指数関数的に計算量が増えますから、常識的な時間内で結果が得られるように考慮しなければなりません。


二つ目は、前にも述べましたが、最適解ではなく極小解に陥りやすい事です。いったん極小解に陥ると、そこから抜け出すには大きなエネルギーが必要になります。そしてどの極小解に陥るかは、初期条件に大きく影響されます。最適解が求まらないまでも、より良い極小解を導く為には、優れた初期条件を与えてやる事が重要です。


この事を、文学的に表現すると、次のようになります。


一つの最適解と無数の極小解が、広がりを持った空間に漂っています。一つの極小解を見つけた人は、さもそれが最適解だと信じて喜ぶのですが、すぐに別のもっと良い解がある事に気づくと、今度はその新しい解を最適解と信じるのです。そして、それを幾度となく繰り返すうちに最適解の存在さえ疑うようになり、もはや本当の答えを追求する事を諦めてしまうのです。

136.NP完全問題の続き (2003/06/29)

NP完全の話は、おそらくあまりピンとこないと思いますので、もう少し分かりやすく説明できるか挑戦してみたいと思います。


LSIの中でも論理LSIはメモリーと異なり、設計の段階で複数のトランジスターから構成される論理セル(ANDやOR等の基本ブロック)を、如何に平面的なシリコンウェハー上に配置し、如何に相互間を配線するかが重要です。


配線が長くなると信号遅延が増大するため、動作周波数(クロック速度)に制限を与えてしまいます。できるだけ配線長を短くするためには、まず論理セルの配置が適切に行われていなければなりません。


各論理セルには、それぞれ信号の入力と出力の為の端子があり、たとえば3入力のANDの場合は、3つの入力端子と1つの出力端子があります。


出力信号は、ほとんどの場合同時に複数の論理セルに接続され、多い物では100以上もの論理セルと接続されます。これらの論理セルを、すべての接続を最短にするように配置する事は、容易ではありません。


分かりやすくなるかどうか分かりませんが、別の例で考えてみましょう。


今、40人の生徒がいるクラスの席替えをしようとしています。できるだけ生徒全員が満足する席の配置を目指します。


仲が良い3人の友達と一緒になりたいという生徒がいたり、5人と仲がよい生徒がいたり、クラス全員の人気者がいたり、いろいろな条件がありそうです。


さらに、勉強したいから一番前で先生の話がよく聞こえる席が良いという生徒がいたり、先生から目が届かない席に行きたがる生徒がいたり、憧れの異性の側に行きたがる生徒がいたり、それぞれ異なった要求が出てきます。


問題は、ある一人の生徒を満足させるだけなら簡単なのですが、それが他の生徒を満足させるとは限らないと言うことです。LSIの場合は、生徒が数百万人いる教室の席替えをするようなものですから、あまり関わりたいとは思いませんね。


まだ問題の難しさがよくわからんとおっしゃる方がおられたら、こんな例は如何でしょうか?


家系図は、先祖から子孫への系譜を示す物ですから、だんだんと末広がりにわかりやすいように書いていますが、実際は先祖にたどっていく方向にも広がって行くわけです。


つまりすべての親から子、子から親の関係を図示し、数百万人分の系図を一枚の紙に書くのと同じ作業だと言えば、そう簡単ではないのが分かるのではないでしょうか。


話をLSIに戻します。ある一つの論理セルAの出力が、別の論理セルB、C、Dの入力に接続されており、論理セルBの出力は、別の論理セルE、F、Gの入力に接続されている。これを数百万個のセルに対して繰り返すのです。


初めから決まったルールや解法がないので、乱数を発生させながらヒューリスティックな方法で最適解を探して行きます。このような方法を、一般にギャンブルに例え、モンテカルロ法と呼んでいます。


さて、問題の複雑さを理解していただけたでしょうか?何かごちゃごちゃしていると感じて頂ければ十分です。


次回は、モンテカルロ法についてです。