491.さおだけ屋の経営学 (2005/03/27)

「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」 (山田真哉、出版社:光文社、発行:2005年2月、ISBN:4334032915)がよく売れていて、ベストセラーの2位辺りをキープしているようです。インターネットには、多くの書評が掲載されていて、なかなか好評のようです。


「さおだけ屋はよく見かけるが、実際に買った人の話しは聞かない。」すなわち、さおだけ屋からさおだけを買っている人はほとんどいないという前提で、「なぜさおだけ屋は潰れないか?」を、経費利益を説明しながら会計学の観点で分析しています。


しかし、商売として成り立つためには、同時に社会のニーズがなければなりません。


そこで、さおだけ屋から実際にさおだけを購入した経験を交えて(本当に買ったんかいな?)さおだけ屋の社会的ニーズについて、考えてみたいと思います。


5年ほど前になりますが、長年住んでいたマンションから別のマンションに引っ越したときのことです。当然以前のマンションで使っていたさおだけ(勿論竹製ではなく鉄製)を、引っ越しの荷物として持っていったのですが、新しいマンションでは長さが足りず、使えなかったのです。


マンションのベランダに、さおだけを引っかけるためのフックが2つ付いていますが、そのフックの間隔が新しいマンションでは広くなっていて、以前使っていたさおだけの長さでは届かなかったのです。


まだ子どもが小さかったこともあり、洗濯は生活する上で必須でありました。引っ越しの荷物に埋もれながら、とりあえず洗濯ロープでしのぐ事も考えていたその時、「さおーだけーー」の声が近くでするではありませんか!


早速外に飛び出しさおだけ屋さんのトラックを探しましたが、引っ越ししたばかりで土地勘がありませんから、声はするけど姿は見えず。いったいどっちの方角にいるのやら見当が付きません。


通りすがりにさおだけ屋のトラックを見かけた時にはゆっくりに見えますが、いざ追っかけてみるとこれが意外に速いのです。「さおーだけーー」の声を目指して走って行っても姿はなく、次は又別の方角から聞こえてくるのです。


やっとの思いでトラックを発見した時には、引っ越しの疲れも相まって息も絶え絶え。もともと買う気が十分あるところへ追っかけ続けましたから、「さおだけ欲しい欲しい」の極限状態です。提示されるさおだけの値段が高いか安いかを判断する余裕はありません。


勿論敢えて高級品を選ぶようなことはしないで、その中では一番手頃な値段のものを2本購入したのですが、あとから考えてみればホームセンターで普段売っている値段の5倍はしていたでしょう。


しかし、その時は値段のことより、引っ越しでバタバタしていた時に良いタイミングでさおだけ屋さんが来てくれたと喜んだのでした。


さて、これを会計学的に見れば、経費がほとんどかからない売り方をしているため、たまに売れればすべて利益になるという事らしいのですが、私が購入したさおだけ屋さんは、かなり遠くから来られていましたから、それなりに経費はかかっていたのかも知れません。


その後、ホームセンターでさおだけを2本買い足し今に至っているのですが、確かにホームセンタのものは安かったです。しかも、普通の車で運びやすいように収縮出来るようになっています。


ただ使い続けていると、収縮できるタイプのものはどうしても中に雨水が入るため金属部分が錆びてしまい、さおだけ自体が汚れてしまうのです。さおだけ屋さんから購入したものは、そのようなことはありません。


さおだけもフルサイズの4m近くのものになりますと、トラックでなければ運ぶことが出来ません。結局、長いものは配送にコストがかかってしまいます。あるいは、自分で車に乗らない人にとっては、さおだけ屋は欠かせないのではないでしょうか?


さおだけ屋のさおだけがあまり売れているのを見たことがないとしても、少ないながらも確実に存在する社会のニーズに応えているのかもしれません。


さて、最後にさおだけ屋の移動速度さおだけの価格設定について、触れておきたいと思います。


さおだけ屋のトラックを探すのに苦労したと書きました。さおだけが欲しいと思って、そぐそこにいるはずのトラックを探すも、なかなか追いつけない。そこで追いかけるわけです。追いかけるけど、追いつけない。


これは、目の前にニンジンをぶら下げられた馬みたいなもので、どんどんと欲しいと言う気持ちが強くなるわけです。そこでやっと見つけたさおだけ屋から買おうとする時には、欲しいという気持ちが十分熟成していますから、多少高くても気にならないわけです。


当然さおだけ屋は、その地域でのさおだけの需要を把握していなければなりません。しかし、それだけでさおだけ屋が務まる訳ではなく、追っかけてくる購入者にすぐに発見されずに相手を焦らしながら、しかも追いかけるのを諦めさせない、地域の道路事情を考慮した速度を維持しながら、トラックを巡回させることが出来なければならないのです。


ただ漠然とトラックで徘徊しているように見えるさおだけ屋ですが、ホームセンターより5倍高いさおだけの価格を維持するために、実に綿密な計算をしているのです。(本当かいな?)


さて、どなたか「さおだけ屋のドライブテクニック」について、本を書いてみませんか?