196.デジタルカメラの新しい潮流 (2003/09/17)

9月16日にソニーが発表した新しいデジタルカメラ、「サイバーショット DSC-F828」のプレスリリースを見て、高機能デジタルカメラのひとつの標準形ができあがって来たと感じました。先立って発表されているミノルタ「DiMAGE A1」とともに、これからのデジタルカメラのひとつの潮流を形成して行くと思いました。


これらの2機種には、共通しているスペックがありますが、それは単なる偶然や模倣ではなく、これからの高機能デジタルカメラが必然的に備えなければならないスペックのように思います。


その共通したスペックとして、、



  1. レンズを固定式ズームレンズにし、焦点距離を35mmカメラ換算で28mm-200mmに設定したこと。
  2. 一眼レフ式ファインダーを使わず、TTL電子ビューファインダー視野率100%を実現したこと。
  3. デジタル画像処理によって多彩な機能を提供したこと。

の3点を上げることができると思います。


まず、レンズに関してですが、焦点面のごみの問題もあってデジタルカメラでは固定式レンズが望ましいのですが、交換できないため1本であらゆる撮影をこなす、オールマイティなレンズの搭載が必要になってきます。この両者が採用する、28mm-200mmという焦点距離は、それに最も相応しい選択だと思われます。


28mmより短焦点の24mm21mmになると、単により広い範囲が撮影できるだけでなく、その特殊な効果(デフォルメ)を積極的に使った広角レンズ特有の面白い写真を撮ることができます。しかし、ディストーションが顕著に表れ、画像の湾曲が不自然に見えることがあるため、一般的には使いこなすのが難しいと言われています。


また、200mmより長焦点になると、たとえば300mm400mmは、引き寄せ効果が大きいので、迫力のあるスポーツ写真や、遠近感を強調した立体的な写真が可能になります。しかし、肉眼で見るのとは異なる世界であるため、相応しい被写体を探すのにはそれなりの経験が必要になり、また通常の撮影においてはそれほど使う機会がないと言えるでしょう。


そもそも、一眼レフ魚眼レンズから超望遠まで使えますが、誰もがそのすべてを必要としているわけではありません。また、ライカレンジファインダーカメラなどでは、28mmからせいぜい135mmぐらいまでが常用レンズであり、逆に言えばこれまで人々に感動を与えてきた写真の多くは、その範囲のレンズで撮影されたきたわけです。


135mmでは、さすがに引き寄せ効果が少ないので、200mmまで伸ばしたのでしょう。35mmカメラに比べて、イメージサークルが小さくなるデジタルカメラでは、レンズを小さく設計できますから、無理なく7倍ズーム常用レンズとして搭載可能になったということだと思います。


2番目のTTL電子ビューファインダーは、一眼レフに今もこだわるメーカーにとっては悩むところです。これまで、一眼レフがカメラの最高峰であると宣伝してきたカメラメーカーにとって、それ以外のカメラを手がけることは方針の転換を意味します。ライカが、レンジファインダーカメラMシリーズを供給しながらも、一眼レフRシリーズを手がけたのと似ています。


ただ、電子ビューファインダーが100%視野率TTLで実現できるのに、わざわざ高く重い光学系を搭載する必要もないと思います。一眼レフのクイックリターンミラーは、振動と騒音をきたし、機械系に高い制動力を要求しますし、光学式のファインダーで100%の視野率を実現するには、コストがかかります。


しかも、その高価な一眼レフファインダーが見やすいかと言えばそうとも言えず、フォーカシングスクリーンを通して見る画像は、正に磨りガラスに映ったぼやけた像でしかありません。現在、一眼レフファインダーを搭載する機種を提供しているメーカーも、いずれは電子ビューファインダーになって行くと思われます。


最後のデジタル画像処理は、今後最も進歩が期待でき、デジタルカメラの新しい試みがどんどん提案されていくことでしょう。これまでのフィルム式のカメラは、ファインダーで絵作りをするため、ファインダーがカメラで一番重要でありました。しかし、これからは、デジタル画像処理による撮影後の絵作りが重要になってきます。


このことは、2番目のファインダーが重要でなくなってきたことにも関係します。以前は写真の基本的作業、すなわち合焦露出フレーミングにはすべてファインダーが重要な役割を担ってきました。フィルムに露光した時点で、写真の出来具合がほとんど決まってしまったからです。ファインダーの良し悪しは、写真の出来具合に決定的な影響力を持っていました。


しかし、デジタルカメラでは露光した後からでも、画像処理によって写真に変化を付けることができるようになります。ファインダーの性能より、デジタル画像処理のアルゴリズムに、写真の出来具合が左右されるようになって来ました。


デジタルカメラは、これまでのフィルム式のカメラで苦労した、フィルム感度の問題光源の適応性現像プロセスのばらつきの問題などを解決することもできます。またこれまでは、一部の趣味の世界であった暗室作業と同じ事が、画像処理プロセッサーによって誰にでも失敗なく行うことができるようになります。


このように、デジタルカメラはこれまでの銀塩カメラを置き換えるだけでなく、全く新しい写真表現を実現することが可能になるのです。これまでの一眼レフにこだわり続けるのではなく、デジタルカメラの可能性を理解し、十分に生かしきる技術を投入して行くメーカーだけが、生き残って行くように思います。


デジタルカメラの新潮流を感じたこれらの機種が、どのように市場を形成していくか、注目しています。