9月1日号の日経ビジネスに、「深層 中村修二氏の訴えを揺さぶる特許国際化の波」という記事が掲載されています。少し前に新聞の記事にもありましたので、覚えておられる方も多いかと思います。
同じ発明がそれぞれの国に出願され、別々の特許法によって保護された場合、ある国では発明の対価が会社のものだとされ、ある国では発明した社員のものだとされると、その対価を求めて社員による訴訟が数多く起こされることが予想されます。
元来、USでは、職務発明に関しての発明の対価は、会社のものとみなされるため、このような訴訟は起こらないそうです。しかし、日本の特許法の第35条(職務発明)の3・4項では、職務発明であっても社員が相当の対価を貢献度に応じて受け取れるようになっています。
ということは、USの企業が日本の特許法によって保護される発明を実施し、対価を得たときは、USの企業の社員は、対価を受け取ることができるということになります。
これまでUSでは、職務発明の対価に関して企業が独占してきたにもかかわらず、日本に限っては社員が貢献に応じて受け取れると言うのでは、日本の特許を取得することを躊躇することもありえます。
ましてや、USの法律も日本のようにしろと世間が言い出さないとも限りません。気づかれないうちに日本の特許法を圧力をかけて改正してしまえば、USの企業にとって日本での特許に関する不安はなくなります。
そもそも第35条4に書かれている、「対価の額は、その発明により受ける利益の額、及び使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。(勝手に抜粋)」というあいまいな規定では、訴訟が増えて当然です。これまで、日本は訴訟を起こすことに抵抗がありましたから、このような規定でも問題にならなかったのでしょうが、USから見ればこのようなあいまいな条項は、訴訟の種にしか見えないのでしょう。
ただ、日本側としては、USの危惧を理解することは必要ですが、簡単に法改正してUSの機嫌を伺うのだけは避けてもらいたいものです。もし単に法改正すれば、日本の企業の発明を生み出すモチベーションを失う可能性があります。
難しいのは、特許法だけの問題ではなく、勤務規則や契約条項にも関係するので、かなり社会の深い部分にまで影響が及ぶということです。十分に議論を行い、日本とUSの互いの利益になるような解決策をひねり出してもらいたいものです。