「遠い明日しか見えない僕と
足下のぬかるみを気に病む君と」
ーさだまさし まほろばよりー
ソニーの新パームPEG-UX50の話題で盛り上がっています。パームコミュニティーの最近の話題をvega21社と二分するほど、ソニーの製品には注目が集まっています。
各サイトのみなさんのご意見を読ませていただいていると、「なかなか良いのだけれども今回は買わない」と断言されているサイト管理者の方が多いのが目立ちます。あと、デザインがどこかに似ているということと、キーボードが期待できないといったところでしょうか。
それとAirHの対応がないということに失望されているようで、次回のマイナーチェンジで対応されれば、購入に踏み切る方も多そうですね。ソニーの発表で言われていたように、今回は電池の持ちを優先してカードスロットを付けなかったということですから、使い勝手より電池の寿命にこだわったということなのでしょう。
デザインにしても、ザウルスと酷似しているという意見はもっともですが、ノートブックパソコンを縮小したらすべてこのような形になってしまうでしょうから、模倣性があると言うよりは必然性であると言えるかもしれません。もちろんザウルスと開発時期が重なっていれば、偶然似てしまったとも言えるでしょう。
一般の消費者にはノートブックパソコンを縮小した形の方が、使い方が分かりやすいと思われます。これまでのパームの形のままでは、いつまでたっても電子手帳の殻は破れないと考えたのかもしれません。
多くのサイトで既に様々な視点からレビューがされていますし、パームボンチで奥の深い考察がなされていて、見事にPEG-UX50のベールが剥がされています。そこで私は、今回の製品の意味について少し考えてみたいと思います。
Handheld Engine(ソニーのTMの様です)と言う少し端臭いネーミングですが、これを採用したことに意義があるのだと思っています。そしてその優位性を示すために、電池寿命を延ばすことが必要だったのです。
このLSIの特徴は、ARMコアーとDRAMを1チップに搭載し、DVFM(Dynamic Voltage and Frequency Management)を世界で初めて採用したことにあります。ロジックとDRAMを混載するには、専用の半導体プロセスが必要ですが、今回64Mbと言う大きなメモリーを同一チップ上に搭載したことによって、コストを抑え消費電力を低減することが期待できます。
DVFMは、速度を必要としない時に、クロックを低下させると同時に、電圧も下げるものと思われますが、消費電力にはクロックは1乗でしか効きませんが、電圧は2乗で効きますから低消費電力化には欠かせない手法です。
しかし、クロックを急激に変化させることには回路的な難しさもありますし、同じトランジスター構造で電圧を下げても、トランジションタイムが長くなるため無駄な貫通電流が増えることがありますから、DVFMに関しては今後もソフトウェアも含めた改良が継続的になされていくことと思われます。
さらに、その他の製品にHandheld Engineを採用したときに、その必要なパフォーマンスに応じて電圧やクロックを設定することによって、幅広い機器に適用が可能になり、大量生産により製造原価の低下が期待できるでしょう。携帯電話や電子辞書、携帯AV機器などに、同じLSIを搭載する事を目指しているのかもしれません。
また近い将来、ARMではなくソニー自社製のCPUが搭載されると思われます。そして、今後発展すると期待されているネットワーク端末や情報家電の中枢部を担う、デファクトスタンダードになることを目指しているのではないでしょうか?
汎用コントローラーとして多くの機器に採用できるように、広い範囲のクロックに対応し、メモリーもDRAMによって比較的安く組み込むことが可能で、電圧もアプリケーションによって自由に設定できるようです。
日本は、パソコンの時代はUSにハードとソフト両面で負けたので、情報家電の分野では主導権を取ろうと狙っています。ソニーが目指しているのは、将来のインテルの姿ではないでしょうか?パソコンの時代に成功したのは、すべての製品に同じ部品を供給する、デファクトスタンダードを擁する企業だったのです。パソコンの時代の成功体験は、そう簡単に忘れ去ることはできません。
「デザイン、キーボードの出来、AirHの未対応などは、足下のむかるみのようなものだ。われわれは、そんなことよりもっと将来の夢を追いかけているのだ」という、ソニー首脳の声が聞こえてきそうです。
そう考えると、ザウルスがLinuxに向かっているのも、マイクロソフトの方向を目指しているのでしょうか?いや、シャープは、長い間日本でPDAを発展させてきたという自負がありますから、ザウルスを大切に育てていきたいという気持ちの方が強いように思われます。
しかし、ソニーはどうでしょう。これまでソニーはCLIEに対して、エンターテインメントの新しい実現方法の一つと考えていたように思います。しかし、これからはそれに飽きたらず、ネットワーク時代のコンピューティングを世界制覇するための先兵として、CLIEに力を注いで行くのではないでしょうか?