534.ユビキタスの照明 (2005/07/29)

「目は口ほどに物を言う」と言いますが、これからは照明も口ほどに物を言う」時代になりそうです。


2005年6月30日(木)と7月1日(金)の2日間にわたって、 関西国際空港2階国内線チェックインロビーにおいて、「照明光を用いた情報通信による情報提供に関する実証実験」が行われたそうです。


ユビキタス社会を目指すからには、ネットワークを意識しないで使える環境を整えることが不可欠です。携帯電話無線LANが普及してきましたが、今後さらに多くの機器をネットワークに接続していくためには、さらに回線を増やしていく必要があります。


無線方式の問題点は、無線の周波数帯域が限られていることです。既存のラジオやテレビ、通信回線などでほぼ使い切っており、携帯電話への新規割り当ても容易ではありません。


そこで今注目されているのが、可視光を使った情報通信です。パームにおける赤外線ビームと似ていますが、可視光を使うことによって照明器具がそのまま送信機光源として使えるため、設置の費用を低く抑えることが可能です。


また、無線の場合さまざまな法規制がありますが、可視光の場合は規制がほとんどなく、照明が届く範囲だけに限定して情報を伝えることができます。


関西空港での実験では、100人のモニターが携帯電話に装着する機器を用いて、搭乗する便の情報を得たり、施設の案内情報を参照することができたそうです。


これまでネットワークに端末を接続する場合、回線がつながる場所に移動する必要がありましたし、ネットワークから必要な情報を探し出さなければなりませんでした。


照明光による通信は、人間がちらつきを感じない速さで点滅させることによって、デジタル情報を伝えます。届く範囲は照明で明るい所だけですから、局所的に必要な情報だけを限定して配信することができます。


光源としては、変調装置を追加すれば既存の蛍光灯がそのまま使えます。ただ、蛍光灯の場合、時間応答性が悪く、10Kbps程度が限界だそうです。


光源として開発が進んできたLEDを使えば、数十Mbpsで通信を行うことができますが、まだ高価であるため、用途に応じて使い分けていく必要があります。


空港なら、発着案内の掲示板の前に立てば、自分の飛行機のスケジュールが自動的に表示され、ラウンジに近づけば場所の案内や混雑状況が表示されるなど、今いる場所によってさまざまな情報が提供されます。


基本的に照明が情報の発信源になるところがシステムの要ですから、双方向通信をターゲットにしている訳ではなさそうです。


また、光源がたくさんあると、それぞれの照明器具に情報を配信するネットワークも必要になりますが、そのためにケーブルを引き回したり無線を使ったのでは面白くありません。電力線通信などの新しい方式が、期待されているようです。


関空での実験には、JAL、NTTドコモ、松下電器・電工が参加して行われたようです。空港のように多くの人が集まる場所で、必要な情報が手軽に得られるようになれば、初めて訪れた場所で困ることが少なくなるでしょう。


しかし、光源として照明が使え、電力線による配信が可能になると言うことは、今後普及が期待される家庭内LANにおいて、威力を発揮するものと思われます。


日常空間を照らす照明によってすべてのものがネットワークに取り込まれたとき、私たちはネットワークを空気のように意識しなくなるのでしょう。

529.ロボカップ2005大阪 (2005/07/19)

1997年に始まったロボカップ世界大会の第9回世界大会が、今年の7月13日から7月17日までインテックス大阪で開催されました。


西暦2050年までに、サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる、自律型ロボットのチームを作る」事を目標に掲げ、ロボットの研究を通じて人工知能ロボット工学の発展を支えていく事が、ロボカップの趣旨です。


最終日の17日に会場に行ったのですが、会場内には大勢の人が詰めかけ、ロボットサッカーの試合が行われているフィールドはどこもすごい人だかりでした。


そもそも競技大会ですから、広い会場と言えども半分ぐらいの面積は競技参加者の為の準備エリアになっていますから、見学者はその間を縫って見て回ることになります。


中学生以下は入場が無料になっており、たくさんの子どもたちが目を輝かせて、真剣にロボットに見入っている姿が印象的でした。


さまざまな競技部門があり、サッカーだけでもソニーアイボを使った4足走行ロボット車輪走行小型・中型ロボット2足走行ヒューマノイドなどの部門があります。


メインはサッカーロボットですが、そのほかにもダンス部門や迷路を走るレスキュー部門など、ロボットの可能性に挑戦する部門がたくさんあります。


ロボカップ・ジュニアには小学生の参加者もいて、キットで手に入れることのできるロボットをベースに、テレビカメラを追加したりソフトウェアを書き直すなどの改良を施し、その技を競い合っていました。


どの部門も見ごたえ十分です。ボールを探し回るアイボの愛嬌あるしぐさは微笑ましいですし、ロボットが高速でボールに向かって突進する様は迫力満点です。


ヒューマノイドがバランスと取りながらシュートをした後ボテッと転ぶ姿に、会場は拍手喝さい、動きの一つ一つに驚きの声を上げ、シュートが外れるとため息が漏れます。


さすがに世界大会と言うだけあって参加者には海外組みも多く、中国の大学チームやPhillipsのチームなど、かなり力が入っている様子です。


また、人工知能の研究を目的とした一見テレビゲームのような競技がありましたが、サッカーの11人の選手それぞれが別々のコンピューターによって制御され、全体としてひとつのチームを構成し、局面ごとに11台のコンピューターが独立して判断し、チーム全体として如何に戦略を維持できるかを競い合っていました。これなどは、実際のサッカーの試合で使う戦略開発に使えるかもしれません。


会場にはデモンストレーションとして、大学の研究室や企業の出品もあり、ピンク色のスーツを着た女性アンドロイドがインタビューをする実演では、ゾクゾクッと寒気を感じるほどでした。それほど人間に近づいてきていると言うことでしょう。


来年の第10回大会は、サッカーのワールドカップ開催にちなんで、ドイツのブレーメンで開催されます。ロボットが人間にサッカーで勝つのは、まだだいぶ先のこととしても、サッカーとしての面白さではロボットサッカーも負けていません。


本物のワールドカップ・サッカーの前座としてロボット・サッカーが登場する日が来るのは、それほど遠いことではないのかも知れません。

509.アップルがインテル製MPUを採用する時 (2005/06/07)

さすがにパーム系サイトは、アップル情報が早いですね。既にたくさんのサイトで紹介されていますが、アップルがついにインテル製プロセッサーを採用することになるそうです。


これで、ほとんど全てのパソコンのMPUインテル製となり、片やほとんどのゲーム機IBM製MPUを採用するという棲み分けが完成することになります。パソコンとゲーム機がそれぞれ独自の進歩を遂げるためには、いずれこうなる運命だったのかも知れません。


パソコンとゲーム機に要求されるプロセッサーの要求性能はかなり異なりますから、パソコンに特化したインテル製MPUの方が、あらゆる面で使いよさがあるのでしょう。しかし、結果としてMac
OSがWindowsと似てくることは避けてもらいたいものです。


汎用品であるDRAMの世界では、高いシェアを確保した企業以外は長らく苦戦を続けてきました。同じものを競い合って製造する場合は、生産規模を拡大したものが勝者になるのです。


パソコンのMPUも汎用LSIですから、ひとつのパーツを如何に多くの機器に搭載することができるかで製品の優劣が決まります。アップル1社にMPUを供給し続けることは、そもそも無理があったのかもしれません。


汎用品としてのMPUが、ひとつのものに集約されていくと言うのは、考えようによっては昔のビデオ規格と同じであると言えます。すなわち、最初は複数の規格が勢力を拮抗させていても、いつかは強いものがひとつだけ残っているのです。


ビデオテープは「メディア」と呼ばれますが、MPUもひとつの世界を築いている点において「メディア」と考える事ができるかも知れません。パソコンのOSも同様にメディアであると考えるならば、いずれはひとつになってしまうと言うのは、いささか早計でしょうか?


さて、パソコンのMPUがインテルに統一されたと言っても、それは汎用品の話です。おそらくMPUの数としては、MPUコアとしてLSIに搭載(エンベッド)されているものの方が、圧倒的に多いでしょう。


今のデジタル家電と言われるものには、軽く10個ぐらいはMPUが搭載されているでしょうし、その中には32ビットの高速MPUも含まれています。


カスタマイズされたチップの中には、MPUコアを始め各種演算器データバスデジタル・アナログ・コンバーターDRAMなど、ありとあらゆる電子回路がひとつのチップとして集積されているのです。


今はアップルがMPUをインテル製に変更することがニュースになりますが、パソコンのMPUがいつの間にかマザーボードから消えてしまうのも、それ程遠くはないかも知れません。

452.ハードディスクを内蔵しない新モバイル端末 (2005/01/05)

日立新しい発想に基づいたモバイル端末を実用化したと言うニュースです。キーワードは情報セキュリティーPCのディスクにある機密情報が盗難・紛失された場合のリスクを、根本的になくそうと言うのが狙いです。


これまでにも多くの情報の漏洩が問題となってきましたが、ユビキタス環境においては企業の機密情報を個別に管理することには限界があると言うことでしょう。


まず日立の社内でモバイル端末を置き換えていく計画のようですが、将来的には社外に販売していくことも検討されているそうです。


新しいモバイル端末はネットワークを介してサーバーに接続される訳ですが、CPUストレージは別個の専用装置として開発したそうです。2005年度中に合計で1万台のモバイル端末を導入するそうです。


「435.ステートレス・デバイス」 サン・マイクロシステムズでのアプローチをご紹介しましたが、どちらもディスクやCPUをPC本体から取り除こうという考えのようです。どちらもセキュリティーの向上を謳い文句にしていますが、ウィンテルの牙城を崩そうとしているのは明らかです。


ただ、これらの新しいモバイル端末は、ビジネス用途のパーソナルコンピューターを対象としているように見えます。今のパソコンはビジネス用も個人用も、ほとんど同じハードウェア構成になっていますが、本来これらは別々に進化して行くべきだったのかもしれません。


ビジネスで必要とされるセキュリティー要件は、個人使用では必要がない場合もあるでしょう。目的に応じてパソコンに要求される機能もかなり異なるはずです。


ビジネス用のモバイルパソコンが大きく変われば、個人用のパソコンにも変革が訪れる可能性が高いでしょう。そして家庭の中に溶け込む事のできる、本当の意味の家電に生まれ変わることができるかもしれません。


さらに、パソコンがWindows一辺倒から脱却するならば、パソコンとPDAの役割に大きな変化が生じるでしょう。PDAにハードディスクが搭載される流れもありましたが、パソコンからディスクがなくなれば、パソコンとPDAのハードウェアにおける違いは、ディスプレーキーボード入出力部分だけになります。


そうなれば、もはやパソコンとPDAの決定的な違いはなくなり、単に大きさだけの違いになってしまいます。ノートブック型手帳型の違いはあっても、どちらもネットワーク端末というだけになってしまうでしょう。


パソコンやPDAを含めたモバイル端末の新しい潮流が、確かに始動しはじめたようです。

445.目指せ光パソコン (2004/12/29)

日経サイエンス2005年2月号に、「実現近づく光パソコン」と言う記事が掲載されています。最近のマイクロプロセッサーの性能は、コンピューターのほかの部品の性能を大きく上回るようになり、プリント基板上で実現できる伝送速度の限界を既に超えているとしています。


最新プロセッサーが3.6GHzで動作しても、マザーボード上の配線には1GHzの速さでしかデータを流すことができず、結果的にプロセッサーは75%の時間を待機していることになるそうです。


プロセッサーの速度が3.6GHzのクロックで動作していると言っても、数クロックを要する演算もありますから、1クロックごとにプロセッサーが出力するわけではありません。しかし反対に、処理をパイプライン化するなどの演算を高速化する工夫もしますから、結果的にプロセッサーの性能がマザーボードの伝送速度を上回る事になります。


このようにプロセッサーの場合は、テクノロジー(製造技術)の進歩以外に、アーキテクチャーの部分で高速化を行うことができますが、プリント基板の場合は、テクノロジー以外では伝送速度を上げていく方法がありません。


また基板上の伝送速度が高くなってくると同時に、信号の減衰も大きくなりますから、消費電流や伝送線路間の干渉の問題も増加して行きます。


そこで、注目を浴びてきたのが、光接続です。伝送線路が長くなってしまうシステム間の接続に光通信技術を採用すれば、一気にこの問題が解決すると言うのです。しかし、比較的距離が短いプロセッサーとメモリー間などでは光接続を採用しにくいため、システム全体の高速化の足かせになるだろうとしています。


プロセッサーなどの半導体にしても、加工技術の微細化だけで高速化が果たせた時代は終わり、配線間を微細にすることによって配線間容量が急激に増えるようになってきました。


例えば、長さを半分にするような微細化を行った場合、伝送距離は半分になりますが、配線容量は距離の二乗に反比例しますから4倍になり、かえって速度が落ちてしまうことさえあります。


そのためには単に微細化を進めるだけはなく、低誘電率素材の採用やアルミニウムから銅配線への転換など、数多くの改良を重ねて高速化を図っているのです。


そして、それらの改良だけでは進化できなくなった時、プロセッサー自らが量子コンピューターのような新たなステップを踏み出すのでしょう。


このほかにも、宇宙そのものが一種のコンピューターであるとする記事や、地球温暖化が逆に氷河期を早めてしまうかもしれないと言った記事が掲載されています。


興味のある方は、是非図書館でご覧ください。(もちろん本屋で買っても良いですが、、、)