先月、携帯電話の機種変更をしました。相変わらず分厚い使用説明書が付いてきました。
最初に携帯電話を持った時は、懸命に説明書を読んですべての機能を確認しようとしました。しかし、結局複雑な操作が必要になる機能は滅多に使うことはありませんでしたし、その時まで覚えていられるほど操作は簡単ではありませんでした。
携帯電話に限らずデジタルカメラやDVDレコーダーなど、デジタル家電と言われるものは簡単に機能を追加しやすいため、どんどん機能が増えて気が付けばメタボリック家電になってしまいました。
もう少しスリム化して、シンプルで健康的な昔のPalmのような製品が増えてくれば良いのですが、、、
さて、複雑化する家電にも搭載されているLSIを見てみると、半導体プロセスが微細化するにつれて設計工程が格段に複雑化してきています。
例えば、以前なら設計ルールを逸脱しているかどうかだけをチェックしておけばよかったのですが、今ではそれに加えて製造工程における微小部分での不適合をチェックするDFM(Design For Manufacturing)やDFY(Design For Yield)なども考慮しなければならなくなりました。
同様に論理設計を行うフロントエンド設計においても作業の複雑化に設計環境が対応できなくなってきています。特に複雑な回路の検証にかかる時間が飛躍的に増大してきたため、品質にかかわる問題も多くなって来ているように思います。
本当に、ここまでの複雑な機能を製品に詰め込む必要があるのでしょうか?
買っても使いこなせないユーザー、売っても儲からないメーカー、達成感を感じられない設計者。(それは私!)
「もっとゆっくり納得できる仕事をしたい」、「ゆったりとした日常の時間を過ごしたい」といった基本的な欲求を満たすことが難しい世の中になってしまいました。
USのバーモント州にストウ(Stowe)という小さな町があります。州内で一番高い山、マウント・マンスフィールドの麓にたたずむ美しいところで、冬はスキー、夏はハイキングやサイクリングで賑わいます。
バーモント州は"Green Mountain State"と呼ばれていて緑豊かな山がたくさんありますが、地ビールの名前にもなっている"Long Trail"と呼ばれる登山道がバーモント州を縦断していて、マウント・マンスフィールドの頂上まで登ることができます。
ストウには「サウンド・オブ・サイレンス」で有名なトラップ一家が移り住んで、今もその場所には"Trapp Family Lodge"があります。本館の一階にはライブラリーがあり、宿泊しなくてもロッジの雰囲気を味わうことができます。
ゆるやかに差し込んでくる日の光と、オーストリアに似ているという周りの山々の景色。知らぬ間に忘れかけていた「時が流れる」という感覚を、久しぶりに感じることができました。
そのライブラリーの壁に、1枚の色紙が掛けられています。
「休養のためにやって来たホテルの中を、人々は早足で歩きまわっている。もっと花を眺めて、その美しさを感じる余裕を持ったらどう?」
時の流れよりも早く急いで突き進もうとする私たちに、警告を促しているのではないでしょうか?
The flowers do their best to bloom,
the people walk by much too soon~
The flowers do their best to last,
but people walk by much too fast~
They ought to stop and drink it in,
to walk so fast by is surely a sin ~
The flowers plead to be admired:
"Enjoy our beauty – and don’t be tired!"
(Emilie Johnson, at 100, in 1992)